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【ジャンププラス原作大賞 連載部門】モノクロームラベッジ 二話

●海上都市天城南区・廃墟(夕)
 小雨が降り出した。
 黒い霧をまとい、雨を弾き、音もなくニオとあとりの近くに降り立つぬえ
 ニオ、鵺を睨んでいるも足が震えている。

鵺「どうした愚妹 兄に会え、感動で震えているのか?」
ニオ「ふざ、けるな……」

 クスクス笑う鵺を、怒気に満ちた顔で見つめるニオ。
 鵺はニオを指差して美しい顔を笑みで染める。

鵺「お前はいつもそうだ あの男を殺したときも ただ見ていることしかできなかった」
ニオ「黙れっ!」
鵺「子どものときから何一つ変わらない
  泣きわめき、俺にすがり、あらゆるものから逃げていた頃と」
ニオ「邪奇じゃきに落ちたあなたに言われたくない!」
鵺「何を言おうと弱者の泣き言よ」

 パチンと指を鳴らす鵺。
 たちまち黒い霧がニオへと襲いかかる。
 すんでのところで躱すニオ。
 しかし黒い霧は蛇のようにニオを追尾していく。

ニオ「あとりさん、迎撃態勢ッ」
鵺「瀬を早み 岩にせかるる滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」

 言葉と共に黒い霧が左右に割れ、跳躍したニオの体を挟むように捕らえる。

あとり「ニオっ」
ニオ「く、っ」
鵺「ふふ さて、お前はどこまで強くなったのだろうな」

 指と繋がった霧を操る鵺。
 左右に振り、捕らえたニオを瓦礫やビルの壁へと叩き付ける。

ニオ「あく、くあぁっ!」

 なすすべもなく体中を打ち付けられ、血を吐くニオ。
 体へと黒い霧が入っていく。

ニオM<呪気じゅきが入ってくる……っ 振りほどかなきゃ!>
鵺「ぬるい、弱い……この程度で俺を追おうとは笑止」

 鵺が腕を振り上げ、ニオが宙に舞った瞬間、抜刀したあとりが鵺へと走る。

あとり「ニオを、はなして」
鵺「……ほう」

 金色の瞳を軽く見開く鵺。
 隙を突き、あとりの刀が黒い霧を裂く。
 体から霧が外れたニオは、瓦礫の上へと着地。

ニオ「タヂカラオっ、筋力倍増っ」

 ロケットスタートのような勢いで鵺の方へと駆けるニオ。
 鵺が一瞬ニオを見る。

ニオ「ふっ!」

 鵺の顔面へニオは蹴りを叩き込む。
 ゴッ、と凄まじい衝撃。
 ニオははっと何かに気づく。
 鵺の顔面と足の間に霧が入り込み、打撃を吸収していた。

鵺「非力だな」
ニオ「このっ……!」

 すぐに体勢を変え、こめかみに手刀を繰り出すも霧に弾かれる。
 あとりが刀を振り上げ、跳躍。
 片手を振った鵺の手には、霧。
 蛇のごとくのたうつ霧を切り裂いていくあとり。
 唐竹割りの一撃を、軽やかに鵺は避ける。

あとり「わわっ」
ニオ「あとりさん!」

 地面に食い込む刀。あとりは鞘に掴まり尻餅をつく。
 衝撃波で二人と鵺の間に距離ができる。
 ニオ、ナックルを装着した拳を鵺に向けて。

ニオ「タケミカヅチ、砲雷ほうらいッ」

 青白い稲妻が砲撃のごとくほとばしる。
 食らった鵺は一瞬、びくりと体を震わせる。
 ニオは再びダッシュ。
 下から抉るようにパンチを繰り出す。

ニオ「らいっ!」

 みぞおちに入った拳が、これまで以上に凄まじい雷を放つ。

ニオM<これなら動けないはず!>
鵺「……この程度か、お前の神力しんりきは」
ニオ「な……」

 顔を上げた瞬間、鵺にこめかみを掴まれて地面へ叩き付けられるニオ。

ニオ「かは……っ」
あとり「ニオっ」

 刀を引き抜き、駆け寄ろうとしたあとりを鵺は再び霧で翻弄する。
 霧を裂くので手一杯なあとり。
 ニオは両手でこめかみを掴んでいる手を離そうとするも、小揺るぎもしない。

ニオ「ぐ、こ、この……」
鵺「アラミタマ、招来」

 鵺の体周辺に、黒い炎が現れる。
 ニオの耳元に顔を近付け、ささやく。

鵺「お前も所詮 俺と同じ
  忘れたか 父と母、あの二人に何をされたかを」
ニオ「そんな、のっ どうでもいいっ」

 ニオ、唇を噛みしめて鵺を睨む。
 鵺は微笑み、指先をニオの額に押し付けた。
 黒い炎が螺旋を描き、ニオの体へと入っていく。

ニオ「あ、ああ、あぐぁああああ!!」

 ニオは体を痙攣させ、悲鳴を上げる。
 血反吐を吐いてのたうち回るニオを見下ろし、小さく笑う鵺。

鵺「この怨念は強いだろう 呪詛は苦しみを与える」
ニオ「ぐあ、あ、ひぁぁああっ!」
鵺「俺たちに残されたのは復讐 ただそれだけ
  人の真似をしていても、お前はいずれこちらへと来る」
あとり「ニオ!」

 あとりが刀を地面から抜き、再び鵺の方へと走ってくる。
 そちらを見ずに手を向け、鵺は黒い霧のバリアを張る。
 四角形の結界に閉じ込められるあとり。

あとり「!?」

 刀が結界の外に落ちる。
 鵺は刀を視認し、呻くニオを無視してあとりの方へと歩いていく。

ニオ「く、ぅ、うぅぅう……っ」

 胎児のように丸まるニオ。
 体からは黒い靄が立ちのぼっている。
 一方のあとりも何かを叫んでいるが声は漏れず、ただバリアを叩くだけ。

鵺「ふむ」

 鵺が刀に触れようとした瞬間、七色の輝きが漏れ出て指を弾いた。

鵺「……なるほどな これは求めていたものではない
  いや、それとも時期尚早だったか」

 あとりの方をチラリと見る鵺。
 あとりは夢中で自分を囲う黒い靄を叩き続けている。
 一方、ニオは震えながらも上体を起こそうとしていた。
 鵺が冷徹な顔を作る。

鵺「そろそろ飽いた 今、楽にしてやろう
  アラミタマ――」

 両手に黒い炎を浮かばせた、瞬間。

間宮まみやの声「種子はカーン、本尊こそは不動明王! き浄めよ!」

 弾丸が鵺の背後から飛んでくる。
 宙に浮かび、それを躱す鵺。
 弾丸が炸裂した刹那、梵字が地面に浮かび、たちまち青く弾ける。
 びくり、とニオの体がはねた。

間宮「チッ、外しちまったっ!」
鵺「……」

 鵺が冷たい視線で後ろを向く。
 間宮、数台のパトカーやバイクを引き連れて登場。
 バイクには『祓滅ふつめつ教会』、パトカーには『天城警察第七課』の文字。
 鵺は近くで丸まるニオを見下ろし、口角を釣り上げた。 

鵺「命拾いしたな、愚妹」
ニオ「待、て……」

 苦しげに鵺を見上げるニオ。
 再び暗雲が立ち込める。
 黒い霧は間宮たちの前でひどく濃くなり、視界を覆った。
 鵺は霧と共に消えていく。

ニオM<殺せ、なかった……>

 霧が晴れるも、大雨が代わりに降りはじめる。
 あとりは黒い結界から転がるように出るが、その場で倒れてしまう。

間宮「ニオたん、あとりん、無事かっ」

 間宮がバイクを投げ捨て、ニオの側に駆け寄る。

間宮「なんだよ、この呪気っ。死ぬ一歩手前だぞ!?」
ニオ「どうしてあなたが……」
間宮「端末にチップ入れたろ? 衛星から監視してたの……ってそれはいいとして!」
ニオ「わたしのこと、より あとりさんを……」

 間宮、倒れているあとりを見る。
 ニオとは違い、黒い霧は体から出ておらずただ気絶している様子。

間宮「木場きば課長っ、浄化と緊急搬送急いで!」
木場の声「了解 祓滅教会からの要請を受諾した 場の浄化と共に二名を搬送するよ」
ニオ「かはっ……」
間宮「ニオたん、しっかりしろ!」

 血を吐くニオ、自分を抱える間宮を細目で見つめる。

ニオM<殺せなかった 殺せなかった 殺せなかった>

 間宮の顔に鵺の顔が重なる。

ニオM<やっと…… 出てきた、見つけた、のに>
鵺の声「ニオ 大丈夫か?」

 幼いときの鵺の顔。
 それを思い出すニオ。

ニオ「……さん」

 大雨の中、小さくつぶやいて目を閉じる。
 救急隊員に担がれていくニオとあとり。
 パトカーから降りてきた黒髪の男――木羽勇斗ゆうとがそれを見つめている。

【第二話 完】

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