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【ジャンププラス原作大賞 連載部門】モノクロームラベッジ 一話

●海上都市・天城あまぎの廃墟近くにある倉庫群(夕)
 なだらかな海。空ではカモメが鳴いている。
 煤汚れた倉庫が建ち並んでいる道を、ガムを噛んで歩く一人の少女――澤渡さわたりニオ(17)。
 フード付きの赤いパーカー、黒いスキニー・パンツ、黒のタクティカル・ブーツを着用している。

ニオM<世界は死んだ 少なくともわたしの世界は死んだ>

 パン、と膨らませたガムが弾ける。

ニオM<各個人の中にそれぞれ世界がある というのなら
    わたしはとっくに死んでいる>

 風が吹き、ニオの白い髪、一本縛りになっている髪をさらっていく。
 一つの倉庫前にぴたりと足を止め。

ニオM<体は生きているけれど 心は殺された>

 中央の倉庫を見上げるニオ。

ニオM<ま そんなの 日本ここにいる誰もが同じでしょうけど>

 十代の若い男が倉庫の暗がりから出てくる。ヤクザ風のファッション。
 ニオ、金色の瞳を細めて青年へと向けた。

青年「アンタか 澤渡ニオってのは」
ニオ「ええ」
青年「異能持ち……邪奇じゃきを殺せる『鳩』だっての ウソじゃねえだろーな」
ニオ「わたしははみ出しものです
   天城警察第七課でも、祓滅ふつめつ教会の人間でもない」

 軽く首を傾げ、肩をすくめるニオ。

ニオ「『鳩』だと証明できるものはどこにもありませんが」

 ガムを飲みこみ、ニオは無表情のまま自分のこめかみを指で叩く。

ニオ「この金の目と白髪を見ても信じられないというなら
   わたしはとっとと帰ります」
青年「わ、わかったよ…… オヤジは中だ 入ってくれ」
ニオ「理解が早くて助かります」

 青年はチッと舌打ち。
 それでもニオを先導するように倉庫へと入っていく。

ニオM<……呪気じゅきが一気に濃くなった>

 ニオはもう一度、倉庫を見上げる。片眉を上げた。
 溜息をついて中へと入っていく。
 空には暗闇が広まりつつある。

●倉庫の中(夜)
 真っ白な倉庫内。
 ところどころ煤や埃で、コンテナや床が汚れている。
 一番奥にバイクや黒い高級車がある。
 そこに四名の、スーツを着た男たちが難しい顔をして立ち尽くしている。

青年「お疲れさんです、アニキたち 異能持ちの女を連れてきました!」
男1「おう ご苦労さん」
男2「その子が邪奇を殺せる『鳩』か 随分若そうだけど」
男3「年なぞ関係ないだろうよ 澤渡ニオ……名前と噂は裏社会にも響いてらぁ」
男4「……」
ニオ「どうも 皆さん、よくこんなところに平気でいられますね」

 ニオ、距離を取ったまま腕を組んで言い放つ。
 困惑したように五人の男が顔を見合わせる。

男2「どういう意味だよ」
ニオ「こんな呪気の強い場所にいれば Nドラッグがなくちゃすぐに精神、崩壊します」
男1「てめえ…… オレたちのシノギがわかって物、言ってんのか?」
ニオ「知ってますよ 朱星あけぼし組の皆さん」

 ニオはパーカーのポケットからコンパクトを取り出し、薄いシートをつまんで舌の上に載せる。

ニオ「これですよね 日本国民が摂取するように定められた薬 Nドラッグの違法販売と取引」

 ニオ、侮蔑したような笑みを浮かべる。

ニオ「どおりで最近手に入りづらいと思ってました」
男3「こちらがこの天城でブツを扱いはじめたのは、一年前からだ
   もうシノギの一つになってる
   お前は黙ってカシラの容体を見て 邪奇を排除してくれればそれでいい」
男1「余計な詮索をすんなってことだ」
ニオ「了解 ああ、約束の品は用意してくれましたか?」
男4「奥のコンテナの中に」
ニオ「それでは組長さんの邪奇を祓います ……車の中にいますよね」
男2「今連れてくるから、待って」
ニオ「必要ありません」

 ニオはパーカーのポケットに突っ込んでいた右手を握りこぶしのまま、高くかかげる。
 青白く発光する雷がまとわりついているナックル。
 ギョッとする五人の男たち。

ニオ「タケミカヅチ、らい

 拳を振り下ろすニオ。
 男たちの隙間を縫い、雷が彼らの背中にある車へと直撃した。
 暴風と雷の勢いに怯む五名。
 車は青白い光に包まれている。

男1「なっ……」
男2「お前っ あそこにはオヤジがっ!」
ニオ「出てきます 邪奇が」

 拳を構えるニオ。
 男たちの視線の先、発光した車から着物姿の年寄りがフラフラと出てくる。
 その口からは七色の靄が吐き出されており、苦しそうに呻いている。

男3「な、なんだ……あれは」
ニオ「見るのははじめてですか? あれが邪奇です 
   人の妬み、そねみ、恨み、憎しみが取り憑いたもの」
組長「アガァァァアアアアッ!!」

 吐き出された靄は半透明の幼児となり、男たちへ襲いかかる。
 幼児がスーツを通り過ぎて体中を飛び回るつど、悲鳴を上げる男四人。
 へたり込んだ青年だけは無事。

男2「うわぁっ……!」
男4「くそ、こんなところで死ねるか……っ」
ニオ「組長さん、随分と恨みを買っていたみたいですね…… あなたたちから」
青年「オ、オヤジっ、アニキっ」

 ニオ、組長の下へと駆け出しながら耳介を軽く叩く。

ニオ「出番ですよ あとりさん」

 つぶやいてからすぐに拳を握り直し、組長の懐へと潜り込んだ。
 白目を剥いた組長のみぞおちへナックルを叩き込む。

ニオ「タケミカヅチ、らいッ!」
組長「グ、ガッ……」

 組長は血反吐を吐く。
 それに気づいた半透明の幼児たち。倒れ伏した男たちに目もくれず、合体していく。
 あっという間に巨大な犬の姿になる。

犬「キシャァァァアアァッ!!」

 ニオに対し、鋭い爪を振り下ろす犬。コンテナが数個、破壊される。
 空中で回転し、回避するニオ。

ニオM<犬神…… Bランク強というところ>

 犬神が伸ばした腕の上を駆け上がり、ニオは跳ぶ。
 鼻に対して放たれた踵落としの際、着けていたアンクレットが白く輝く。
 
ニオ「タヂカラオ、筋力増幅っ」
犬神「キャウッ!」

 ゴッ、と凄まじい音と共に、犬神が地面へ顔をめりこませる。
 頭を蹴ってニオは背後のコンテナへと後退する。
 上を見るニオ。天井に隙間がある。
 輝く満月の中央――そこに、一つの人影。
 白い長髪をなびかせ、屈んだ状態で刀を持つ少女・あとりの姿がある。

犬神「グル、ゥッ」

 気配を感じ、顔を上げる犬神。
 そのときにはすでにあとりは天井の隙間から倉庫へと入り込み、刀を振り上げている。
 七色に輝く刀身。

あとり「浄滅じょうめつ

 降りてきたあとりがつぶやき、刀身を横薙ぎに。
 体が交差したと同時に犬神の首を切り落とす。

犬神「クアァァァァァァァ……!!」

 苦悶の声を上げ、着地したあとりの刀に吸収されていく犬神。
 フラフラとしていた組長がその場に倒れる。
 呆然としている青年。
 コンテナから降りてきたニオが、あとりの元へと近付く。

ニオ「お疲れ様でした あとりさん」
あとり「うん、疲れた」

 あとり、刀を鞘に収めてチラリと青年の方を見る。

青年「ひ…… な、なんなんだっ なんなんだよ、一体ッ」
あとり「あの人だれ?」
ニオ「ほっといていいですよ」
青年「あ、アニキたちはどうなったんだ? オヤジは……」
ニオ「組長さんならきっと無事です 他の四名は多分、死んでますね」
青年「し……?」
ニオ「邪奇は呪いと似たようなもの よく言うでしょう 人を呪わば、と」
青年「アンタ、みんなを助けるためにきてくれたんじゃ」
ニオ「勘違いしないで下さい わたしたちができるのは、退治であって浄化じゃない
   それに、組長さんの邪奇を祓うという契約でここに来ました」

 ニオは青年を無視し、破壊されたコンテナを軽々と持ち上げる。
 一際小さなコンテナを見つけ、中を開ける。
 そこには、携帯食料や薬の類いが詰められたボストンバッグが入っていた。

あとり「あのおじいさん、だいじょうぶ?」 
青年「へっ?」
あとり「まだ生きてるよ」
青年「お…… オヤジっ!」

 青年は倒れたままの組長へ駆け出していく。呻く組長。
 あとり、刀を持ってニオの側へと歩いていく。

あとり「ニオ あとりお腹空いた」
ニオ「あとにして下さい」
あとり「そこに食べ物あるよ」
ニオ「全部食べるでしょう、あなた 帰ってからです」
あとり「むぅ」

 ボストンバッグをあとりに一つ渡し、ニオも一つ持つ。
 ニオは青年の背中に向かい、冷たく言い放つ。

ニオ「早く専門の病院に連れて行くことですね それとバイクももらいます
   あとりさん、後ろに乗って」
あとり「ん」
青年「あ、オイ……」

 青年が振り返れば、すでにニオとあとりはバイクに乗っている。
 そのままニオはバイクを発進させる。
 倉庫から出て行く二人を、青年は呆然とした様子で見つめていた。

●海上都市天城・南区の廃墟(夜)
 破壊された道路、崩壊したビルの間をニオとあとりが乗るバイクが走る。

あとり「ねえねえニオ」
ニオ「なんですか」
あとり「空にいっぱい、小さななんかあるよ」
ニオ「祓滅協会か警察第七課の監視用ドローンです 犬神の気配を察知したんでしょうね」
あとり「壊さなくていいの?」
ニオ「無駄な力は使いたくないです それにあの二組織を敵に回したくない」

 ニオはバッグを腕にかけたまま、気にせずバイクを走らせている。
 あとりは鞄と刀を抱き留め、ニオの後ろで上空のドローンを眺めている。

ニオ「……!」

 前方に一つのバイクが現れた。遮るように道の中央にいる。
 ニオは顔をしかめながら、ゆっくりと速度を落とした。
 バイクから降りてきたのは一人の青年。
 黒髪に青いジャージ姿の間宮まみやとおる(18)。

間宮「よーっす、お二人さん やっぱここ通ったな」
あとり「あ 間宮だ」
ニオ「なんの用ですか 間宮」
間宮「透様って呼んでいいのに~」

 ヘラヘラ笑う間宮を無視し、再びバイクで移動しようとするニオ。
 間宮は慌てて前に出る。

間宮「待て待て待て待て ジョーダンだっての」
ニオ「……なんの用件ですか」
あとり「あとり、お腹空いたぁ」
間宮「さっき、マザーブレインのイザナミからイエロー警報が出てた この先の倉庫よ
   ニオたんら またオレ様ら教会組に何も言わねーで仕事したろ」
ニオ「何か文句ありますか」
間宮「文句っつーか 最近よく裏で仕事してるからさ、お二人さん
   教会の立場がないって上のやつらが」
ニオ「あなたが相手になるつもりですか わたしたち二人の」
あとり「お腹空いたよ、ニオ」
間宮「……あとりんにはオレ様から飴玉をやろう」

 ポケットから棒付きキャンディを取り出し、あとりへ渡す間宮。
 目を輝かせ、口に含むあとり。
 ニオは二人を冷ややかに見つつ、口の端を釣り上げる。

ニオ「あなたが防護術に長けてる『鴉』とはいえ 
   攻撃術に秀でるわたしたち『鳩』二人を相手にして 無事で済むとは思えませんけど」
間宮「オレ様にゃお二人さんと戦う意志はないの! 伝言を頼まれたんだよ」
ニオ「伝言?」
間宮「オレ様たち祓滅教会トップの十前ここのつさん……
   それと天城警察第七課課長の木場きばさんからだ」
ニオ「大物が出てきましたね、随分と」
間宮「それだけお二人さんをスカウトしたいって思ってるんだろ
   ……ニオたん、携帯端末持ってたっけ?」
ニオ「旧型しかないですね」
間宮「だと思った 一応、古い型でもチップ読みこませれば声は聞こえるからさ」

 間宮は薄いプレートに閉じられたチップをポケットから出す。
 
ニオ「教会にも警察にも所属する気、ないですよ」
間宮「まーまー 話だけ聞いてやってくれって」
あとり「間宮、もっとちょうだい」
間宮「三十分持つ飴を一気に食うなよ もうねえっての」
ニオ「わかりました 話だけ聞きます」
間宮「オレ様としては二人に教会へ入ってほしいぜ?
   ただでさえこの天城に邪奇が多く出るようになってる とりわけ『鳩』は貴重だかんなー」
ニオ「人材発掘も仕事の一つでしょう」

 鼻で笑い、ニオはプレートを手にしてパーカーのポケットに入れた。
 あとりは棒を口にくわえつつ、つまらなさそうに足をブラブラとさせている。

間宮「そんじゃオレ様も倉庫の後始末しに行きますか
   ニオたんさ 祓うのもいいけど、場の浄化もちゃんとしてってくんねーかな」
ニオ「それは『鴉』の仕事ですので」
間宮「ったく……」

 間宮が一歩、下がる。
 ニオは無言でバイクを走らせた。

あとり「じゃあね、間宮」
間宮「おー」

 手を振るあとりを見送る間宮、その姿が遠ざかる。

ニオM<師匠 わたしはまだ あなたの作った組織に入るつもりはないです>

 一瞬、血まみれでうつ伏せになっている男を想起するニオ。
 それを振り払うように頭を振り、速度を上げる。

ニオM<あなたを殺したあの男を この手で倒すまで>

 空には満月が輝いている。

●海上都市天城南区・廃墟ビルの一角(朝)
 空には陽光が出ており、遠くには海が見える。
 窓も壊されていてそこら中はぼろぼろ。
 ニオは藍色の作務衣姿で地面に正座し、携帯食料や薬を床に並べている。
 あとりは白いワンピース姿。椅子に腰かけニオを眺めている。

ニオ「こっちは交換するとして…… 食料が少し足りないかも」
あとり「ねえ、ニオ あとりはごはん食べたい」
ニオ「人の話聞いてました? 食料が足りないって言ってるんですけど」
あとり「お仕事したらごはん食べさせてくれるって ニオは言った」
ニオ「食べ過ぎなんです 我慢ということを覚えて下さい」
あとり「むぅ」

 ニオはあとりを無視。
 あとり、刀を抱き締めつつ足をブラブラとさせている。

あとり「あとりは今日、おかーさんの夢見た」
ニオ「ああ…… お母様を探すために天城へ来たんでしたもんね」
あとり「顔はかくれてたけど あれはおかーさん」
ニオ「仲が良くて結構です」
あとり「ん ねえ、ニオ 昨日、間宮からもらったやつは食べ物?」
ニオ「……忘れてました 食べ物じゃありませんよ」

 ニオは足の近くに置いてあった携帯端末を手にする。
 薄いプレートを割り、チップを中から出した。
 少し迷う様子。溜息をついて端末へチップを挿入する。

木場きばの声「……あーあー、聞こえるかな 聞こえてる? 録音されてるかな」
女の子の声「バッチリですよぉ、木場課長 どうぞぉ」

 顔の画像は出ない。しらけた様子で端末を見つめるニオ。

木場の声「はじめまして、澤渡ニオ 僕は木羽勇斗ゆうと 天城警察第七課の課長を務めてる
     第七課ってわかるかな 基本的に祓滅教会の支援を担当する部署だ」
ニオ「……」
木場の声「邪奇がはびこるようになってもう十数年か……
     異能持ち、いわゆる『鴉』と『鳩』だね
     目覚めた力を行使して戦う存在が現れ この天城は平和が保たれてるわけだけど」
ニオ「わかりきったことをよくしゃべる人」
木場の声「単刀直入に言うよ 僕や十前は君たちの力が、欲しい」
ニオ「お断りです」

 と、チップを抜こうと手を伸ばすニオ。

木場の声「澤渡ぬえ

 ぴくりとその手が動く。

木場の声「君が探している男のことを 僕は少し知っている
     君の兄であり 邪奇のおさに身をやつした男のことをね」

 渋い顔をして端末を睨みつける。
 あとりは小首を傾げたまま。

木場の声「君の素性もわかってる 鵺にお師匠さんを殺されたことも
     あとり? だっけ、彼女と組んでいる理由は知らないけどね」
ニオ「……どうしてこの人」
木場の声「ともかく一度、君と話したい もちろんあとりという子も連れて来ていい
     祓滅教会の十前も 君たち二人に興味があるらしいし」
あとり「あとりのこと この人知ってる? おかーさんのことも知ってる?」
ニオ「……」
木場の声「今度僕に会いに来て 警察庁の場所は間宮くんから聞くといい
     いい返事を期待してるよ」

 ぷつり、と声が途切れる。
 苦々しい顔つきでニオはチップを剥ぎ取り、手の中で潰した。
 あとりがニオの側へ駆け寄る。

あとり「知りたい、あとり あとりのこと おかーさんのことも」
ニオM<少し調べれば わたしの事情はある程度わかるはず
    ただほらを吹いてる可能性だってありうる>
あとり「ニオ どうするの?」
ニオM<あとりさんは自分のことを知らない 記憶障害がある
    この木場という人は、あとりさんのお母様のことも知ってるんだろうか>
あとり「ねえねえ、ニオ」
ニオ「……判断するには情報が足りません」

 粉々になったチップを床に落とし、ニオは端末をもって立ち上がる。

ニオ「けれどこれ以上 裏社会で過ごすのも、少し辛くなってきました」
あとり「?」
ニオ「具体的に言えば あなたの食べ過ぎで食糧が不足してきています」
あとり「だってお腹空くんだもん」
ニオ「今朝、携帯食料いくつ食べました?」
あとり「五個」

 ニオ、大袈裟に溜息をつく。
 あとりはきょとんとしたまま。

ニオ「……闇市で昨日の薬と食料を交換してもらいましょう
   出かけるので支度します ここで少し待っていて下さい」
あとり「ん」

 ニオは作務衣を脱ぎつつ隣の部屋に赴く。

ニオM<鵺…… 忘れたことのない名前>

 ぎゅっと唇を噛みしめる。

●海上都市天城南区・路上(夕)
 曇天。雨が降り出しそうな空模様。
 ひとけのない路上を歩くニオとあとり。
 それぞれの手にはボストンバッグがある。

あとり「今日はびゅーんて、しなかったね」
ニオ「びゅーん……?」
あとり「のりもの」
ニオ「ああ…… バイクは隠しましたよ 下手に目をつけられると怖いので」
あとり「あとり、また乗りたい」
ニオ「あなたはただでさえ 刀なんて特殊な神秘具を持ってるんです
   狙われたことだってあったの、忘れました?」
あとり「でもニオが助けてくれた」
ニオ「なりゆきです ……急ぎましょう 一雨来るかもしれません」

 あとりがうなずき、二人走り出したそのとき。

ニオ「……!?」
あとり「あ」

 空の暗雲が渦を巻く。
 止まる二人。
 周囲に黒い霧が立ちこめる。

ニオM<呪気……強い!>

 黒い霧が一つの形を作る。
 人間の形。
 あとり、バッグを落として刀を構える。
 ニオは震え出す。

ニオM<この、感じ>
男の声「久しいな 愚妹 ニオよ」
ニオ「……あ、ああ」

 霧をまとった男が空中に現れる。
 和服を着た、白い長髪の男ー―鵺。

あとり「ニオ?」

 バックを振り捨て、ニオは獣のような顔を作る。

ニオ「鵺ぇっ!」

 拳を構え、戦闘態勢に入るニオ。
 一方の鵺は余裕の様子で、首を傾げながら美しく微笑む。

【第一話 完】


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