美容文化論 ー礼装(女性)ー
友人として結婚式に招かれた女性は考える。何を着ていこうか? どんなかばんを持ち、どんな髪形をし、どんなメイクがいいのか?と。その結婚式には新婦の学生時代に仲の良かった3人が招待されたのだった。3人は全員、当日円卓で写真を撮ったり食事をする我が姿を想像し、持てる全力を出し切って少しでもかわいくなれる方法を魂を込めて考える。
「なぁ、披露宴何着る?」「私な、ちょうどええの持ってないから買おか思てんねん」「エーずるい! じゃあ私もそうするー! 一緒に服見に行こやー」「ほんなら今度の土曜にQ’sモールにでも行こか?」。しかしそう決まりかけたものの、3人目の友人が口をはさむ。「私キモノ着たいねやんかぁ」・・・「エ?」。周囲との調和のみで生きてきたこの3人の女性にとってはこの発言は一大事だった。「◯美がキモノ着るんやったら私も合わせよかなぁ?」・・・「エ?」。にわかに形勢は激変し、招待された3人で着る物の格を合わせようとしたものの、キモノ2人、洋服1人になってしまったのだ・・・(実話だ)。
余談ながら女性にとっては自分1人だけが浮いている状態というのはかなりのストレスになる。もちろん男だって感じない訳ではないが、女性にとっての『自分だけという状態』を避けたい気持ちの強さは、男性の10倍はあるように思う。
さて結婚式に招待された時、女性は何を着たらいいのだろう? 以下私個人の価値観も織り交ぜながら女性の礼装について小うるさく語ってみたい(笑)
《和装》
お母さん、または親戚のおばさん方は留袖で迷いはなかろうが、問題はそれ以外の方々の和礼装である。普段キモノなど着ないから、その格やそれに応じた種類もよく知らない人が多いと思う。ネットを調べてみてもなんだかわからないが、教科書通りなら未婚女性は振袖が最も格式が高い。髪型やメイク、持ち物なども当然それに合わせるべきであるにもかかわらず、成人式の様子を見れば全くそんなことは今の日本、お構いなしであることがわかる。昔の方が結婚する年齢は低かったため、未婚であっても20代中頃を境に途端に着なくなるのがこの振袖だ。もちろん30になっても40になっても着てはいけない決まりはない。我が校の女生徒もそうだが着物の格を気にしないから、卒業式などという格式の高い場に着ていくものが袴になってしまっていることに、およそ誰も違和感を感じていないように思う。それでも一応私は毎年言ってんだぜ!『そりゃ礼装じゃないんだよ!普段着なんだよ!』と。でも日本人の日本人らしいところで、大きな潮流には疑いもなく流される・・・。
留袖や振袖以外では、礼装という意味を重んじるなら色留袖、訪問着、付け下げの順だろうか? 異論はあるかもしれないが。ただし、この若い女性の振袖以外のキモノは、結婚式に友達として参列する場合には大いに着る人を選ぶ。失礼を承知で言えば、30代くらいで訪問着や付け下げを着て『オバチャン化』しない人は少ないと思っている。もう少し年齢が進んだ方でないと、身に着けた女性を一気に老けさせるのである。ましてや色無地などというものになれば、旅館の仲居さん以外の何者でもない。
キモノの(フォーマル度という意味で)格を決めるものの一つに家紋という伝統的なエンブレムがあるが、今の世ではもはや紋が入っているのか、自分の家の紋なのか、入っている紋の数はいくつなのかさえも、年寄り以外は気にもしないと言えば言い過ぎだろうか。
《洋装》
これが難しい。日本には洋装の、中でも礼装の歴史が無いため、全くもってわからない人がほとんどだろうし、正装であるアフタヌーンドレスなんかは皇室の方々や、総理大臣夫人、入閣した女性議員でしか見たことはない。でもいったいドレスってなんなん? ・・・ね、難しいでしょ(笑)? 結婚式では皆さん一様にセミアフタヌーンドレス『風』のワンピースなんかを着て、素肌を隠すようになんだかヒラヒラした半透明の布を肩にかけていらっしゃる(そもそも昼間に肩を出すものは通例着てはダメだ)。結論的には着る人が平民(笑)ならば、雰囲気的にその場に違和感が無く、誰にも後ろ指を差されなければ『何でもよろしい』ということになってしまうのが日本における女性の洋礼装だと思う。