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タバコが違法になる日 2

 時は20××年、今を去る5年前に いわゆる禁煙法案が国会を通過し、2年間の移行措置期間を経た後に完全にタバコというものが表の世界から消えた。当初は合法時代に買い溜めされていたタバコが公然と夜の盛場でもやり取りされていたが、その後徐々に人々の生活の中からタバコというものは消えていった。

 完全違法化から3年の月日が流れた。大麻同様 麻薬取締法の一項目になっているタバコの所持、使用、販売などで、大物芸能人の逮捕が相次いだこともあり、今では《タバコ = 悪事》という図式が世の良識であり 人々の共通認識になっているたから、順応しやすい日本国民の間では、規制前の大麻と同レベルのタブー感があるまでになっていた。

 暴力団の資金源としての闇タバコは、主に北朝鮮や中南米からの輸入物だったが、最近は自宅でタバコを栽培する人も多いらしく、その摘発のニュースも聞こえてくる。ウラの世界ではそんな輸入物や栽培物の闇タバコは、最高で1箱5万円もの値段がつくらしい。規制前の正規品を瞬間冷凍保存しているものもあったが、他の闇タバコとは一線を画した JTの冷凍物は、とても興味本位で買えるような値段ではなかった。

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 最近は麻薬取締官の動きが掴みにくい。当局はタバコの撲滅にいよいよ本気で取り組み始め、売人の摘発にも本腰を入れてきているのだ。そんな売人の一人であるヒロは SNSのDM でアクセスしてきた、NO.124577 との待ち合わせ場所に向かった。なんでもそいつはグッチのキャップをかぶっているという。
 駅から一本入った小道を車で進み 近づいてみると、確かにその格好をした中年の男が立っている。ヒロは疑い深くその男の様子を探りながら、エンジンを切ることなく車を降りた。
 『1245』とその男の横を通り過ぎながら呟くと、すかさず男は顔の向きはそのままで『77』と言う。間違いない。今夜は5箱で20万という 大き目の取引だった。その男と共に車に乗り、赤いMarlboro5箱と引き換えに 男から金を受け取ると、その場で数えて男を降ろし、ヒロは素早くその場を離れた。

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