老眼
『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』
この言葉は昭和25年に勃発した朝鮮戦争当時の米最高司令官であるダグラス・マッカーサーが 開戦翌年に解任させられた時の言葉(はやり歌を引用したらしい)であるという。『敗軍の将 兵を語らず』に似ているが、意味は全く違う。
彼は戦争当事国である南北朝鮮の覇権争いの後ろ盾となった大国(中国&北朝鮮 × アメリカ&韓国)の意地の張り合いとなったこの戦いにおいて、アメリカ軍の最高司令官の立場であった。強気の彼は『中国から北朝鮮軍への補給ルート付近に30〜50発の核兵器を使用すれば、この戦争は10日で勝てる』と豪語していた。普段の振る舞いからアメリカ本国からは あいつならホントに原爆を使いかねない と思われていたのだろうが、もしそんなことが現実になると 東アジアという 米国本土から遥か遠いところが中ソとの全面戦争の戦場になる。それだけはどうしても避けたかった首脳部が出した結論は、劣勢の朝鮮戦争をひっくり返し、国民の人気も沸騰しているマッカーサーを更迭することだった。
彼が発した『老兵』というワードは、自分を卑下しながらの上層部への皮肉だとも取れるが、一方で核心をついていたのかもしれない。解任時 既に齢七十を超えていたダグラス・マッカーサーは、誰からも反対意見を言われない環境で、後のことを考えずに自分が最善だと盲信した作戦をゴリ押ししようとする厄介なじいさんだと思われていたのだろう。だから頑迷な『老害』は引きずり下ろされることになったのである。
大東亜戦争の終戦以後の彼と我が国との関わりについては 色々と語りたいところもあるが 、ここでは避け 別稿にまわすこととする。
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最近組織やチームの中での自分のスタンスやあり方を考えることが多い。これからの私の最大の役目は後継者を育てることはもちろん、次代を担う人たちがスムーズな滑り出しができるよう尽力することだ。
ある意味どんどん私の影響力をなくしていく必要があると思っているから、いつまでも最前線で采配していてはダメなのだと自分を戒めている。手は出さずに見守ることは、小さな成功を諦め 小さな失敗なら覚悟することでもある。
人は老化現象として、ある年齢に達すると 近くの字が見えにくくなってくる。俗にいう老眼である。考えるにこの現象は、近くのものが見えないのではなく、見なくていいのだと神に教えられているのかもしれない。近くのこと、細かいことは後の者に任せ、お前は少し遠くだけを見ていろという意味で。
ただしこれを達成するのは私にとっては至難の業であり、まだまだ思うようにはならない。