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タバコが違法になる日 3

 ある日須佐美からヒロに電話が入った。『JTを売ってみねぇか?』という 普段小さな取引しかしていない売人にとってはかなり衝撃的なものだった。『え?』ヒロは狼狽した。JTの冷凍物などというものは 今や法外な値段で取引される貴重品であり、丸1年以上 お目にかかっていない。『ホンモノですか?』と尋ねるヒロに、須佐美は数秒黙った後『お前、俺を疑うのか?』と低い声で言った。『いえいえ!そうじゃありません』須佐美の口調が変わったのを聞いてヒロは慌てた。『明日事務所に来い』須佐美からの電話はその言葉で切れた。

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 須佐美の事務所の地下にある業務用冷凍庫を開けると『Peace』と書かれたタバコのカートンがギッシリ入っていた。見たこともない景色だ。
 『これは・・・。マジか・・』もはや目にすることさえ珍しくなった冷凍物を前に息を飲むヒロに、須佐美は薄笑いを浮かべながら『正真正銘、JTの ピースだ。30箱ある。どうだ?』と言った。
 大きな仕事はしたことがないから 言葉を失っていたヒロは、うわずった声で『やります』と答えていた。須佐美は『ハコで25万、30箱だから750万、売る時はその倍だ』
 頭の中で弾き出された売り上げの1,500万に、ヒロはゴクリと喉を鳴らした。

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 (あの男なら・・・)ヒロが狙いをつけたのは、キャバクラを中心に10店舗ほどの風俗店オーナーである 脂ぎった初老の男だった。ちょいちょいヒロから北朝鮮産のタバコを買っている子泣きジジイのような風貌のその社長、経営する店に現れれば、ベタベタと体に触ってくることで、店の女の子たちからも嫌がられているクセ者だ。

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 『社長。JTが入ってるんすよ。どうすか?』ヒロがかけた電話の声に、『へぇ?ヒロユキがJTを?ほぉ』と子泣きジジイの社長が興味を示す。『ご存知の通り最近は冷凍物は中々出ないんスよねー』ヒロは続けた。『社長ならハコで70、10箱まとめてなら600で譲りますが・・・』矢継ぎ早に繰り出したヒロだったが、電話の向こうで笑い声が聞こえた。
 『ハコ70? アホな! お前頭大丈夫か? 高過ぎるわ!』ヒロはひるまない。『社長、これを逃したらこの後もうJTの冷凍物なんて出ませんよ? 他にも興味持ってる人はいるんですよ?』社長は呆れたように言った。『お前なぁ・・・。お前が俺にふっかけて70って言うくらいやから、どうせ入りは30くらいのもんやろ? ほんなら売る時はせいぜい50か60ちゃうか? なに暴利取っとんねん? エエ加減にせい! もうええからとにかく明日ウチに来い。話はそれからや』

 電話を切ったヒロはチッと舌打ちをしたが、(それでもこの子泣きジジイは金だけは有る。持っていき方次第だろう。やはりこの男にまずは売ろう)と思っていた。

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