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私の不可解な体験談

数年前、秋葉原の駅でメキシコ人の小児科医のおじさんを道案内した。その人は「アルフォンソ」と名乗った。お礼をしたいからメールアドレスを教えてくれと言われ、業務用に使っているアドレスを渡すと後日ひらがなだらけのお礼メールが届く。それがなんだか可愛らしくて何通かメールのやり取りをした。

それから1年後、日本人の子供を手術する為に来日すると連絡が。メキシコのお土産を渡したいからと、新宿のベックスコーヒーで会う事になった。
アルフォンソさんは会話も程々に、何やら鞄から小さな小包みを出してきた。
中身はどデカいダイヤモンドの指輪だった。デカいのはダイヤだけでなく、リングの部分もだ。
「ごめんなさい!メキシコ人の女性は指が太いから…。日本人は指が細いんですね。指輪のサイズを直してまた持ってきます。」
アルフォンソさんは片言な日本語でそう言った。冗談ぐらいデカかったのでメキシコ人女性でも絶対に余るだろとは思ったが特につっこまなかった。再会から20分程経った頃だろうか。「そろそろ手術に行ってきます。」それを切っ掛けに私たちは店を出て、別れた。

それからは特に会う事もなく、アルフォンソさんからメールが来たら返す、程度の関わり方だった。
そんな中、YouTubeの企画で英語を習い始めた私はアルフォンソさんに英語でメールを送ってみることにした。今までひらがなでやり取りしていたが、その方が勉強になると思ったからだ。
その際にInstagramのストーリーズに英語で書いたメールの下書きを載せ、フォロワーに添削を求めた。名前は出さなかったがアルフォンソさんとの出会いの経緯や、英語でメールを送りたい理由もそのストーリーに綴った。

翌朝、Instagramを確認すると2件のダイレクトメッセージが送られて来ていた。一方は、
「それアルフォンソさんですよね?私も全く同じ経緯で道案内して、今もメールでやり取りしています。」
というメッセージだった。この時点でおっと、やられたかもしれない。というか、やってしまったなと思った。
彼女が、アルフォンソさんから一番最初に送られて来たというメールのスクリーンショットを送ってくれた。私に送ってきた文章と全く同じだった。おそらくコピペしているのだろう。なるほど、これはそういう手口なのだな、とすぐに分かった。
内容は、
「先ほどは親切にしてくれてありがとう。〇〇病院で7歳の女の子と3歳の男の子の手術を終えてメキシコに戻りました。(全てひらがな)」
というものだ。
もう一方はアルフォンソさんと一緒に写真も撮ったとのことでその写真を送ってくれた。

改めて冷静にアルフォンソさんの顔を見たが、どう見ても丸坊主メガネの日本人おじさんだった。

会った時は片言で拙い日本語を話すのでメキシコ人の方だと思い込んでしまっていたが、アルフォンソさんはメキシコ人の小児科医を謳う丸坊主メガネの日本人おじさんだったのだ。
それを証明するかのように、私が英語でメールを送って以降連絡が途絶えた。ボロが出てしまうのだろう。
何故ならただの丸坊主メガネの日本人おじさんだからである。
おかしいとは思ったのだ。会った時もアルフォンソさんは片言ではあったが会話に躓くことも噛み合わないことも一切なかったから。私は外国人の方とコミュニケーションを取るのが上手なのかもしれないな、などと思い上がっていたのが恥ずかしい。
あれは片言の日本語を話す日本人なのに。

この話を動画にしてTikTokに投稿したところ何十名もの女性から「アルフォンソさんですよね!私も道聞かれました!」というコメントを頂いた。中には「私が声を掛けられたのは10年前です。」というコメントもあった。
彼は10年以上もこの活動を続けているのだろう。ずっと日本にいるじゃねえか。
私を含む彼女たちに共通していることは東京都内の駅で道案内を頼まれることと、ダイヤモンドの指輪をチラつかされるということだ。
逆に言えばそれだけなのだ。コメントしてくれた彼女たちからも、金銭を騙し取られたり暴行されたりなど被害を受けたという報告は受けていない。アルフォンソさんは一体何の目的でこういった活動を続けているのだろう?

正直、アルフォンソさんが外国人を謳っていなかったら、日本人として日本語で道案内を頼まれていたとしたら、「お礼がしたいからメールアドレスを教えてくれませんか?」と言われても断っていた。
だが、片言な日本語を話す外国人、という要素に絆された部分があった。他の女性たちもきっとそうだ。何故なら、お世辞にも何十人の女性にメールアドレスを教えてもらえるような見てくれとはいえないからだ。
もし、彼自身が正攻法では女性に相手にされないことが分かっていて外国人のフリをしていたのだとしたら、外道極まりない。
ただ、その先でやっていることは誰にとっても実害がないため、逆に怖い。一体何がしたいのだろう。

その真相を探るべく、また何事もなかったかのようにひらがなでメールを送ってみようと思う。

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