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日本の産業図鑑入門:ビジネスモデルこんなに違う!業種別の財務データから見えるもの



世の中には様々な業種がありますが、そのビジネスモデルの大体の傾向を掴むことは、ビジネスマンや経営者にとって最初の一歩とも言えます。

中小企業実態基本調査の財務データをみると、業種別にビジネスモデルが大きく異なることがわかります。
・その業種のビジネスモデルのカギはどの部門が握っているのか?
・業務改善の仕方に違いがあるのか?
・規模を拡大すればうまくいくのか?

これから紹介する業種は以下の通りです。
▽仕入材料を加工するビジネスモデル
「建設」=建設業
「製造」=製造業
▽価値(情報・モノ)を運ぶビジネスモデル
「情報」=情報通信業
「運送」=運送業
▽仕入れたものを販売するビジネスモデル
「卸売」=卸売業
「小売」=小売業
「不動産」=不動産業
▽人的物的サービスを提供するビジネスモデル
「専門」=学術研究,専門・技術サービス業
「宿飲」=宿泊・飲食業


▼業種別にビジネスモデルが大きく異なる

出典:「中小企業実態基本調査平成30年」政府統計

労務費=顧客への提供価値を作っている人材コスト
人件費=価値を伝達・提供する及び管理する人材コスト

▽仕入材料を加工するビジネスモデル
「建設」
外注をうまく使って需給を調整することで収益を安定させるビジネス。従って、建設業のポイントは外注の振分け。
「製造」
資材を購入して自社製造するビジネス。従って、製造業のポイントはオペレーションの向上。

▽価値(情報・モノ)を運ぶビジネスモデル
「情報」
自社エンジニアで価値(情報整理・情報運搬)を生み出すとともに、外注をうまく使って需給を調整するビジネス。その価値の伝達・提供するにも多くのコストがかかります。従って、情報通信業のポイントは、外注の振分けとマーケティング。
「運送」
自社運転手で価値(モノ運搬)を生み出すコストが大きい業種で、外注をうまく使って需給を調整するビジネス。その価値を生み出す自動車の減価償却費も大きい点が特徴です。従って、運送業のポイントは、外注の振分けとオペレーションの向上。

▽仕入れたものを販売するビジネスモデル
「卸売」
コストのほとんどが仕入に使われる薄利多売の典型。自ら価値を生み出していない(ピンクがほとんど無い)ので、赤字転落リスクが高くなります。但し、顧客が決まった法人相手であるため販売コストは少なくて済みます。従って、卸売業のポイントは、赤字転落を回避する仕組みづくり。
「小売」
自ら価値を生み出していないため、仕入れとその価値の伝達・提供が重要です。従って、小売業のポイントは、赤字転落を回避する仕組みづくりとマーケティング。
「不動産」
仕入れた価値の減価償却費が多額となる点が特徴で、販売コストもかさむビジネス。従って、不動産業のポイントは、何を仕入れ、その価値をどう伝達するか。

▽人的物的サービスを提供するビジネスモデル
「専門」
専門的価値を生み出す労務費負担が大きく、その価値を伝える販売コストもかさみます。もっとも。外注をうまく使うことで需給を調整し収益を安定化できる点で情報通信業と似ています。従って、専門サービス業のポイントは、外注の振分けとマーケティング。
「宿飲」
仕入れと材料コストが大きい一方、装置産業として減価償却費もかかり、その価値を伝達・提供するコストもかさみます。従って、宿泊・飲食業のポイントは、どれだけうまく価値を伝達・提供し稼働率をあげられるか。


▼業種別に業務改善施策の手順が異なる

出典:「中小企業実態基本調査平成30年」政府統計

業務改善は、❶止血の必要性判断、❷生産性向上の必要性判断、❸売上向上策の3Stepを経る必要があります。
❶損益分岐点比率(固定費/粗利益「額」)が100%に近い業種は、赤字転落リスクが高いため、業務改善施策を展開する前に不採算部門を切り離す等、止血しなければ、落ち着いて改善施策に取り組めません。
❷付加価値に対する労務費・人件費負担が重い業種では、売上向上策を展開する前にオペレーションを改善する必要があります。オペレーションを改善し生産性を向上させなければ、売上を拡大できても、その分、労務費・人件費負担も増大するため、期待通りの利益をあげられません。
❸付加価値に対する減価償却費の負担が大きい業種は、いわゆる装置産業として稼働率を高めるため売上向上策が重要です。

「建設」
❶止血の必要性:外注及び自ら価値を生み出しているため、付加価値は薄くなく、止血の必要性は高くない。
❷生産性向上の必要性:労務費・人件費負担は平均的。
❸売上向上策:減価償却費負担は平均的。

「製造」
❶止血の必要性:自ら価値を生み出しているため、付加価値は薄くなく、止血の必要性は高くない。
❷生産性向上の必要性:労務費負担が平均より重いため、作業員のオペレーション向上が必要。
❸売上向上策:減価償却費負担は平均的。

「情報」
❶止血の必要性:外注及び自ら価値を生み出しているため、付加価値は薄くなく、止血の必要性は高くない。
❷生産性向上の必要性:労務費・人件費とも平均より重いのため、エンジニア及び販売員のオペレーション向上が必要。
❸売上向上策:減価償却費負担は平均的。

「運送」
❶止血の必要性:外注及び自ら価値を生み出しているものの、収益性自体が低い業種であるため、止血の必要性が高い。
❷生産性向上の必要性:労務費が平均よりかなり重いため、運転手のオペレーション向上が必須。
❸売上向上策:自動車の減価償却費が大きく、装置産業として稼働率を高めるため売上向上策が重要。

「卸売」
❶止血の必要性:自ら価値を生み出していないため、赤字転落リスクが高い業種であるが、安定した取引相手と赤字転落を回避する仕組みづくりで、止血の必要性は高くない。
❷生産性向上の必要性:労務費・人件費とも平均より低い。
❸売上向上策:減価償却費負担は平均的。

「小売」
❶止血の必要性:自ら価値を生み出していないため、赤字転落リスクが高い業種であり、顧客が一般消費者で安定しないため、止血の必要性が高い。
❷生産性向上の必要性:人件費負担の重い業種であるため、販売員のオペレーション向上が必要。
❸売上向上策:減価償却費負担は平均的であるが、赤字転落リスクが高いため、売上向上策は重要。

「不動産」
❶止血の必要性:自ら価値を生み出していないため、赤字転落リスクが高い業種であるが、収益性自体が高い業種であるため、止血の必要性は高くない。
❷生産性向上の必要性:人件費負担の重い業種であるため、販売員のオペレーション向上が必要。
❸売上向上策:減価償却費が大きく、装置産業として稼働率を高めるため売上向上策が重要。

「専門」
❶止血の必要性:外注及び自ら価値を生み出しているため、付加価値が厚く、止血の必要性は高くない。
❷生産性向上の必要性:人件費負担の重い業種であるため、売上向上策前のオペレーション向上が必要。
❸売上向上策:減価償却費負担は平均的。

「宿飲」
❶止血の必要性:自ら価値を生み出せる範囲が狭く、その価値をうまく伝達できない場合、収益性が低くなるため、止血の必要性が高い。
❷生産性向上の必要性:人件費負担の重い業種であるため、売上向上策前にオペレーション向上が必要。
❸売上向上策:減価償却費が大きく、装置産業として稼働率を高めるため売上向上策が重要。

以上、運送業及び小売業、宿泊・飲食業では、止血・生産性向上・売上向上の3Step全てを経て業務改善する必要があることがデータから読み取れます。


▼業種別に規模拡大の効果が異なる

出典:「中小企業実態基本調査平成30年」政府統計

▽仕入材料を加工するビジネスモデル
「建設」

外注をうまく使って需給を調整し、規模拡大によるメリットを享受できる。
「製造」
規模の経済が働きコスト優位を確立しやすいとともに、海外の成長市場にも進出するチャンスが生まれます。

▽価値(情報・モノ)を運ぶビジネスモデル
「情報」

Sierによるピラミッド構造で、建設業と同じく外注で需給を調整できるが、オペレーション向上効果が小さく、規模拡大によるメリットを享受しにくい。
「運送」
規模拡大により取引相手及び商圏拡大できるが、オペレーション向上効果が小さく、規模拡大によるメリットを享受しにくい構造

▽仕入れたものを販売するビジネスモデル
「卸売」

製造業と同じく、規模の経済が働きコスト優位を確立しやすいとともに、海外の成長市場にも進出するチャンスが生まれます。
「小売」
規模拡大しても、商圏拡大は難しく、顧客層も変わらないため、オペレーションの向上がカギ。
「不動産」
規模拡大することで、顧客層が個人から中小法人がメインとなります。

▽人的物的サービスを提供するビジネスモデル
「専門」
労務費・人件費とも比率が大きいので、単に規模拡大しても期待通りの利益が出ません。規模拡大前にオペレーションを向上させ生産性を上げることが不可欠です。
「宿飲」
宿泊業は装置産業であるため、規模拡大してもその分、減価償却費も増えてしまいます。稼働率向上が成功のカギです。




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