腐敗

　僕は今もあの時に空いた穴から漏れ出した何かを湛えられず、幸せだと言えるような今の境遇においても、どこか足が地につかないような気分で生きています。

　時々消えてしまいたくなるのです。一日中部屋で寝転がっているだけでは人間は消えることなく、腕も足も思考も腐っていくだけなのですが。

　徐々に、徐々に腐っていくのです。この巨大な冷蔵庫からはさっさと抜け出して調理されるべきでした。

　手遅れです。僕はもう腐りかけています。今更僕を調理してくれる人などいません。

　完全に腐りきってしまえば、この冷蔵庫にあるものすべてを道連れに出来るのでしょうか。できたとしても、僕は一人です。

　ところで皆さん知っていますか？　冷蔵庫の扉は内側からは空かないようになっているらしいのです。いや、ここから抜け出せない理由ではないのです。ですが、だれか助けを必要としている人がいるのではないかと思うのです。冷蔵庫に閉じ込められた人がどこかにいるのではないかと思うのです。

　嘘です。そもそも僕は最初から冷蔵庫にいません。これは全て例え話です。例え話でなくてはなりません。僕は一人でもここから出ていかなければならないのです。

　ところで、あなたは今どこにいますか？　そこから一人で抜け出せますか？