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世の理(ことわり) リアさんのお題「両義性」

村のはずれに大変古い、小さな祠がある。正月二日、その祠がキラキラ輝き始めた。

「おーい!村の衆!どえりゃー事が起こったぜよ!」

慌て者の権八が泡食って村中に知らせ回った。そして村の衆が祠に集まってみると、金色の神さんがニコニコ笑っていた。

「ありがたや、ありがたや、この村に福の神さんが現れなすったぞなもし」

早速お供えをする者、数珠をジャラジャラ鳴らして拝むバァさん、そこらの木にしめ縄を掛けるもの、神輿を担ぎ出す者など大騒ぎとなった。

噂は噂を呼び大勢の人間が福の神を見ようと押し寄せてきた。もちろん、福の神にあやかって福を得たいという者達だ。

皆欲望で目がギラギラしている。まもなく、皆の願いが叶えられてきた。

宝くじが当たる者、出世する者、株で大儲けする者、不治の病が治る者。

娘の元には良い縁談がひきも切らず、器量が今一つの娘も玉の輿に乗り、

こんなにありがたい神様は、他にはないと大評判だった。


その年の暮れ。世の中は不安定になっていた。大企業が粉飾決済問題から倒産に追い込まれ、煽りを喰って中小企業も倒産し、失業者が溢れ出す。また大勢の人が投資で大損をした。「私らしさ」を売り物にしたタレントがTVの主人公となり、演技の上手い女優俳優、歌の上手い歌手が売れなくなっていった。宝くじの一等は高額化し、宝くじを買うために破産する者も居た。重病で死にかけていたテロリストは奇跡的回復をし、テロの計画は実行された。

キラキラと輝いていた村外れの神様も、なんだか色褪せてきた。

「こりゃぁ一体どうした事ずら〜」

「福の神様にお伺いを建ててみたらよかと?」

村の神主が数珠をジャラジャラさせ、首の十字架を掲げつつお伺いをたてた。

「福の神様に畏み畏み申し上げます。ありがたい神様のお陰で皆が幸せになると思うておりましたが、最近の世の中は、どうもおかしな様子、これは一体なぜでございましょうや、ナムナムアーメン」

「これ、人間ども。そもそも世の中の幸福などと言うものはこの世の初めからその分量割合が定まっておるものぞ。皆が勝手におのれの幸せを願った分だけ、どこかで帳尻を合わせねばならん。ワシが出来ることはその加減をちょいちょいと弄ることだけじゃ。そしてな、幸せというものは坂道を押し上げるようなもので、不幸せの100倍ほどのエネルギーが必要なのじゃよ。逆に不幸にするのは簡単じゃ、ふふふ。」

見れば金色に輝いていたはずの神様は、どす黒いオーラに包まれ、やせ細り、無惨な姿に変貌していた。

「ギャー」驚く神主に、突きつけるように、

「福の神も貧乏神もないわ。人間どもが勝手にそう呼んでいるだけじゃ。ワシらは表裏一体、世のことわりを知らぬは人間ばかりじゃ、わははははは」

そして筆者にも痔が悪化するという不幸が訪れた。


おわり





新しいことは何も書けません。胸に去来するものを書き留めてみます。