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小説 彼女からの手紙

たまらなく、一人になるとむなしくなることがあるの。

彼女の手紙にはこう書かれていた。


あなたもそうじゃない? 誰かがこの世界に生きていたとしても、それが自分のためというわけではない。そう思うと余計にむなしくなる。世界の中に生きているのに、存在している意味がないような感覚。存在ってなんだろう。
あまり言葉にしようとすると、結構厳しいものがあるかもしれない。
 
所詮さ、どこいたって人は一人なんだよ。そうじゃない? そう思えば、楽になれるような気がする。

一人でいいと思った。孤独だとは思わなかった。

私には本があたし、あらゆる世界とつながっている事実だけがあれば、十分楽しかった。

哲学は私を深くしたし、物語は、私を遠い世界をへと運んだ。それでいいと思うの。それではダメなのかしら。


今、つながりを持つことを許されない世界になりました。こんなにも世界が近くなっているのに。どんなしそうなら、許されるのだろうか。
私はね。もう少し、色々な人と言葉をかわしたかった。自然に、ありのまま
新しい時代を生きていたかった。でも、到来したのは、私が思い描いていたような時代ではなかったような気がする。

どんどん複雑な時代になっていって、見えない世界があふれていって、憎悪ばかり切なくて。どうすればいい。

こんな世界で。私は、不器用だから、器用に生きるあなたの気持ちはよくわからない。
 
だから、こんな手紙を書いている。古くさい万年筆で、熱のこもったリビングでね。

手紙を送られてきてもあなたは迷惑かもしれないし、喜んでいるかもしれない。
でも、どんな形でも、私がここにいたということを覚えていてほしい。
メールだと、簡素すぎてつまらなくなるし、すぐにデータが消えてしまうから、私が過去に消えてしまう可能性が高くなる。そう思ったから、私は、今回手紙を書いたの。

物が残るってよくない? 私はそういうものが好き。時代がどんどん下ってきた。

私がだけが時代に取り残されているような気がする。言葉以外で自分を伝えることができないんだ。

これが私の手紙になるかもしれない。これが私の手紙になるかもしれない。

それでも、私以外の人にとっては、今日は何気ない毎日に過ぎない。毎日が繰り返されている。私は、消費されていく。

私は、私は。

ごめんなさい。話に一貫性がなくて、まとまらない言葉で自分をまとめようなんて、本当に無理だったのかもしれない。

明日が、来ること。今日を生きること。それらは、近いようで、遠いんだ。

こんなこと、書いても意味もないのかもしれない。

でも、書かなければ私は私もうなれない。いつかどこかで、もっと遠い世界で、あなたと再会できたなら、その時は、改めて一緒においしいものでも食べましょう。

近所の河原を散歩して、少し先の未来を見つめましょう。

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