silent〜戸川湊斗〜
幼馴染で、でも名字で呼び合うくらいの距離感で。ちょっと親しいけれど縮まることのない距離。好きな子の視線の先にいるのは親友で。
そっかそっか。
そうだよな。
うん。いいカップルだ。(←死語🤔?)
ちょっと寂しいけど、今の距離感が変わるのはもっと嫌だからこのままがちょうど良い。
親友とはいつもつるんでるけど、恋愛話をするわけでもなく、くだらない話とかして過ごしてた。家を行き来したりして、気兼ねなく過ごせる友達。二人が想い合ってるのもわかってたから、ちょっぴり悔しくて意地悪なこともしちゃったけど。でもふたりとも幸せそうで嬉しい。
そんな二人が突然別れて、想とは自分ですら連絡がとれなくて。会いに行ったらいつも通りの想がいて。それなのに想らしくない冷たい言葉が返ってきて。きっと紬のとのことがなければ気付けたかもしれないのに。距離を取りたいなら仕方ない。
そっかそっか。
好きな子を、いつも見ていたから気付いた。笑顔にしたかった。支えてあげたかった。だから頑張った。
いつも見ていたから気付いた。
紬の中に想がいることを。
いつも見ていたから気付いた。
想の中に紬がいることを。
再会したって、紬はきっと自分と居てくれると思ってた。
想が辛かった時に、想の変化に気付けなかった。そんな自分に腹がたった。もう誰のつらい顔も見たくなかった。紬の、想の、笑顔が今の自分の一番の願いで。
紬がそばにいると、ずっと寄りかからせてあげたくなってしまう。甘やかしてしまう。
何より紬の視線の先にいる相手が自分ではないことがつらい。
自分さえ身を引いて、周りの、ふたりの背中を押してあげれば、また昔のように笑顔になってくれるんじゃないか。
でも最後に、ちょっと未練。電話する理由を見つけて、答えのわかる質問をして。あぁ家族か。でも弟みたいだなんて。
ひどいよな。
あぁ、でも今の自分はまるで、巣立っていく子を見送る親のような?複雑な気持ち。
自分はみんなが思うような良いやつなんかじゃない。
これ以上嫌な自分を見たくない。
さぁもう前を向こう。
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