第27週(7/1~7/7)
▲Grand-Place グランプラス(ブリュッセル)
7日日曜日、ベルギー・ブリュッセルでは地名や店名にHortaという表記をたびたび見かけます。ここにはアール・ヌーヴォー建築の先駆者Victor Horta(ヴィクトール・オルタ)の遺産が数多く残ります。
同氏の世界遺産に登録された邸宅群の一つ、"Maison et Atelier de Victor Horta"への訪問は予約が必須のようで、飛び込みの私はその場で入館を断られますが、外から見ても軽やかな曲線の装飾、境界をそれと感じさせないファサードが伺えます。
こちらも世界遺産、オルタ初期の建築"Hôtel Tassel"(タッセル邸)は、世界最初のアール・ヌーヴォー建築とされています。石と鉄の調和ある外観です。現在は法律事務所に私有されているため、残念ながら内部を見学できず。
ベルギーの美術評論家サンデル・ピエロンの評論(1899年)によれば、タッセル邸は当時、型破りだとして「怒号が一斉に沸き起こった」ようです。
しかしオルタ本人も自負する無鉄砲さにより、人々は次第に尊敬の念を抱き、模倣するようになったと言います。
しかしピエロンは、こうした模倣は基礎やバランス感覚なしにしては奇想の行き過ぎとなり、建築を殺しかねないと続けます。
では何に基礎を求めるのか。彼が古典主義の大家に学んだことを挙げた上で、一つに素材を挙げます。
地域的であること。
彼が援用するLéon Vaudoyer(19世紀のフランス人建築家)の見解では、建築とは「相対的で地域的で風土的な美の技芸でなければならない。」とします。
かつて調理場のフランス人の同僚は、とある三ツ星シェフのスタイルを語り、"Tu sais ce que tu manges"(己が何を食べているか分かる)と言いました。その表現は簡潔ながら、大事なことを示唆するように思います。つまり素材をそれと分かるように用い、過度な装飾を自重することは、料理にも通じることです。
ところで、ブリュッセルとリエージュの街を歩いていると、ブルータリズムの建築が目に入ります。ブルータリズムは第二次世界大戦後に流行した建築様式で、粗野な素材と重厚な形態を特徴としています。この様式はコンクリートの無骨さや無機質なデザインを前面に押し出しており、一部からは無機質さや人間という主体の欠如として批判されることがあります。
しかし相対的な視点で見れば、このブルータリズムにも独自の美学を感じることがあります。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の図書館Geisel Libraryは、ブルータリズムの典型例とされています。私はかつて運よく訪れる機会があった際、木々をくぐり抜けた先に突然現れる巨大建造物、宇宙船が降り立ったかのような印象に圧倒される感覚を覚えました。その外観は深いグレーで、周囲の青や緑の自然に強い対抗意志を示しているようで、こんなことまで人間はやってしまうのかという圧倒感に、人間の営みの一つの極致を見た気がします。
ブルータリズムも、折衷主義との決別を表明したアール・ヌーヴォーと同様に、時代の要請から生まれたはずです。それは、戦後の急速な都市再建と機能主義への需要が、合理的かつ経済的な建築スタイルを必要としたからです。
オルタは晩年、機能主義を取り入れています。
その背後にはオルタ自身の考えの変化があったというよりも、相対的で地域的であるという建築の原則が、必然的にその時代その場所であるべきものをオルタを介して生み出させたと言えるのかもしれません。
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