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謎の建物pagode

【写真】Fleuriste 花屋(8区)
週が明けた途端、街のあちこちでクリスマスの装飾を目にするようになりました。クリスマスグッズの店かと思いきや、まさかの花屋。

クラスメートにコロナの陽性が出て、引き続き一週間の休講の最中です。
私は食料の買い出しや料理、運動、勉強などで過ごす日々です。
19日木曜日から授業が再開されます。

さて、学校の近く、7区の"Rue de Babylone"という道を彷徨っていたら、奇妙な建物を見つけました。

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中国っぽいし、日本的と言われればそんな気もします。
西洋の建物の中で、ただならぬ妖気を垂れ流しています。

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建物の修復中でしょうか。
外壁には落書きが目立ちます。

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近づいてみます。工事計画らしきことがこまごま書いてあります。
それより下の書き込みの内容が気になります。

"Honteux d'avoir rasé le ginkgo et le hêtre pleureur!
Ce jardin était magnifique, vous en avait fait un champ de ruine."

「イチョウとブナを切った恥を知れ!
この庭園は素晴らしかったが、あなたがそれを荒地にした。」
といった内容です。

書いた人はどうやら怒っているようです。
それほど大切な木だったのでしょうか。

一体ここはどんな場所なのでしょうか。誰が怒っているのでしょうか。
"PAGODE"という看板が出ているのを手掛かりとします。

【pagode】 n.f.
Édifice religieux bouddhique, en Extrême-Orient. Pavillon à toitures étagées de la Chine et du Japon.

極東の仏教建築一般を指す語みたいです。

"pagode"でgooglemap検索に掛けると、"La Grande Pagode"や"Pagoda Paris"が引っ掛かります。

前者は、郊外の"Bois de Vincennes"(ヴァンセンヌの森)の中に位置する仏教建築群を指すようです。
後者は、8区にある建築物で、今はギャラリーとして使われているようです。

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"Pagoda Paris"は通学路上にあるのでよく目にします。
"Pagode"でなく"Pagoda"なのは、どういう違いによるものなのか分かりません。しかし近い意味を持っていることに間違いはなさそうです。

一方、今回のテーマである冒頭の建築物は、少し前までは独立系の映画館で、"La Pagode"と呼ばれていたようです。
2015年に閉館しているせいか、地図の検索に掛けても引っ掛かりませんでした。

代わりに新聞記事が出てきたので、それで詳細を確認してみます。

始めにフランス国内最大の日刊紙、"le parisien"(ル・パリジャン紙)の今年6月の記事です。

情報をかいつまむと以下の通りです。
・Cohen Media Group(アメリカの映画制作会社)のCharles S.Cohen社長が映画館を購入。
・1600万€かけて修復を行っており、2022年秋に完了予定。
・今年の5月11日に"le hêtre pleureur"(シダレブナ)"le ginkgo"(イチョウ)などが伐採。
・住民の一部と環境保護協会の"France Nature Environnement"が反発。
・開発側による伐採の理由は、木々が場所を取っていたこと、日陰を作っていたこと、弱っていたこと。
・協会側は、木々の状態は悪くないし、開発の妨げにもならないと反論。

たくさん情報が出てきました。
映画館として価値のある場所だったようです。そして木の伐採に対し、環境団体がおこのようです。
ちなみに木が伐採された直後の5月19日の記事は以下です。

「修復に伴う開発 vs 環境保護」といった様子です。
ただ、5月の記事で800万€以上と見積もられた修復費用が、6月の記事では1600万€と書かれているからには、きっと裏には森友学園ばりの壮絶な物語があるのでしょう。

イギリスのThe Guardian(ガーディアン紙)の今年5月22日の記事は、この映画館自体の成り立ちについても触れています。(日本語版wikiの「ラ・パゴッド」にも書いてあります)

19世紀末に建てられたときは、梁やパネルを日本から持ち込んだと書いています。1930年代からは映画館として、前衛的なテーマを扱うことで有名になったようです。
「伝統的な日本建築」として写真を掲載していますが、日本でこのような建築は見たことがありません。。。もしくは私が知らないだけで、単純に今は日本でも見られなくなった様式ということなのでしょうか。

映画館として営業していた時の様子が気になります。
こんな時はgoogle street viewが便利です。

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2008年4月です。
手前の木は何か分かりませんが剪定直後でしょうか。奥はシダレブナが道にはみ出しています。

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2012年7月。
夏は緑が相当生い茂っていたようです。
近所でも目を引いた存在だったことでしょう。

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2013年9月です。
門構えも特徴的です。
上映のラインナップは、"GRANDE CENTRALE"、"JEUNE & JOLIE"、"BLUE JASMINE"、"JIMMY P."とあります。
名探偵コナンとかそういう感じの映画館ではないことは確かです。

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閉館前後の2015年7月です。
手前の木は相当高さがあったようです。
上映のラインナップは、"DES APACHES"、"COMME UN AVION"、"LOIN DE LA FOULE DÉCHAÎNÉE"です。
どれも知りません。

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閉館後の2018年4月です。
今より落書きが少ないです。

そして今年5月の伐採を経て、冒頭の現在の写真に至ります。

さて、外観だけは見ることができましたが、内観は今は見ることができません。ネットにいくらか写真は転がっていますが、やっぱり自分の目で見てみたいものです。

今回の開発に携わる建築家のPierre-Antoine Gatier氏は、冒頭のル・パリジャン紙の記事の中で以下のように言います。

« Nous sommes confrontés à ce dilemme de la réutilisation d'un monument historique, analyse Pierre-Antoine Gatier : soit on le cristallise, soit on lui donne une place dans la vie réelle… C'est ce que nous proposons. Que le nouveau cinéma La Pagode soit fidèle à sa tradition, et qu'il soit aussi un lieu dédié au meilleur du cinéma, un symbole qui s'ouvre à autre chose ».

遺産の再利用にはジレンマ、つまり忠実に形を残すか、生活の一部として意味のあるものにするかの板挟みがある、と。
伝統に沿うのはもちろん、形を変えて開かれた場所にしたいという苦悩があるようです。

2022年の秋、改修後の姿はどのようになっているのでしょうか。

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【写真】学校玄関付近

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