見出し画像

お隣りさんのお話

4人部屋なので携帯は一応禁止でデイルームでならOKという決まりなのだが大声で頻繁とかで無ければ大丈夫な雰囲気だ。動けない人もいるし、掛かってきたら取るし、お互い様でもあるし。なので自然と会話が耳に入ってくる。
 土曜日、隣りのお爺さんが酸素ボンベが必要な程の症状で退院するから迎えに来て欲しいと携帯で通話していた。その後看護師さんに退院するからと伝えていたが、主治医に退院すると告げただけの口約束のみっぽく、話を聞いている限り絶対退院できないから揉めるだろうなと思っていたら案の定、主治医の許可が下りず大丈夫出来なかった。元々月曜に家族を呼んでいて先生から病状の説明をする予定だったらしいのだが、懲りないお爺さんは今度はそこで退院すると言い出した。
 家族を呼んでの説明は重い話が多く、こんな治療を今日からやりますから同意して下さいや、今後の生活の変化に覚悟して下さいとかなんで、その日に退院なんか絶対無理だろうなとカーテン越しに聞きながら思った。
 却下された土曜にお爺さんは軽めの手術というか処置で病室を出て行った。帰ってきたら麻酔が効いているのか前より元気になっていて家族に電話で月曜退院するからと主治医の許可も下りていないのに報告していた。どうやら地域の会計かなんかやっていて他の人では支払いが出来ないとか自分がいないと出来ない名義変更の話とかをしていた。ただ麻酔が切れてからは辛そうだった。土日と日が進むたびに食欲もなくなって運ばれてくる食事も殆ど口に入らない様子だった。
 ところが、絶対退院無理だなと思っていた月曜に隣りのお爺さんは力業で退院に漕ぎ着けたようだった。並はずれた頑固さに主治医も諦めたのだろうと察した。

 自分も自分しか出来ない事を沢山残して入院した事がある。1週間だから退院した後にやればいいやが入院が伸びて妻に急遽やって貰う羽目になった。妻からすれば事前に教えて欲しかったと。そんな事が山ほどあったし、今もまだあるかも知れない。教えといてと妻は言うが自分でも何を教えればいいのか本当にわかっていない。病気になるなんて思ってなかったからは理由にならない。
 
 同じ様な人を同部屋で沢山見聞きしてきた。少しずつ信頼できる人に任せる事を増やして、大事な事を書き残したノートを作るべきだと、自分も含めて今元気に働いている同世代の人にやってもらいたい。
 
 その月曜6月13日の夕方、シャワー帰りに主治医に捕まり家に帰りたい?と聞かれたので勿論と答えたら翌日の退院が決まった。

 なんか自分の退院はいつもこんな感じだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?