現代詩手帖回想

バックナンバーの
横並びの集積から幾冊かをぬき
ひらいたりとじたりしてみる
記憶は自力ではひらかない
最果タヒの
「死なない」を読むたびともに
読解を開示しあったふるい恋人の声が聴こえ
こんなふうな
ことは詩にしてほしくないな と
とてもみずからに溶かし込んだ人の
言葉がする
よみかえしてみると
また新しくそれもすんなりと
当時の私でないべつの景色が顕つ
自給自足の不毛な「かぞく」を雨降り
に濡れる捨てられた傘として
家のそとから見ている主体の
からだを濡らしているのはかぞくの
家にまもられた架空の
自給自足の道徳のなかで
言ってはいけないほんとうのこと(吉本隆明)
書くという行為によって
発言を沈黙のかたちで提示する
詩はどんな思考も世界も在ることを
肯定する
それが誰の共感を呼ばなくても
詩だけは主体の地面として
立つことをゆるす

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