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妄然

煩わしく飛び交う蜻蛉の層のひとつした、畔を歩いている。日本の古称に秋津洲というのがあったな。ヤゴが滞留性の水中に棲み、やがてトンボとなってこのように空を飛び交う。明らかにこの種は湿地生物であり、彼らの古称もまたアキツであるのなら、大和民族と稲作は密接に結びついていると景色の只中で合点していた。私はJ・C・スコットに一定のシンパシーを抱くものだから、そして柳田民俗学の一部に反感を抱く、漁村に出生をもつ者だから、頭上のアキツが恐ろしい。田園の延長の限りに穂よりも高くに層を作り、反映していくこの生物に仮託して、ヤマト政権の統治領域が示されている。

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