チャップリン
私はある日から突然、チャップリンが好きになった。
そもそもモノクロ映画には興味はなく、
むしろ、退屈な大昔の映画としか思っていなかった。
引越しをして部屋が広くなり、テレビやソファを良き位置に配置した日、ふとワインでも飲もうかな。と思った。
全くお酒が飲めない癖に、良い感じの部屋で
ワインとか、チーズとか、嗜みながら
小洒落た雰囲気で、小洒落た映画でも見てみよう。
形から入るタイプの私はお風呂上がりに良き時間を過ごそうと諸々、セッティングをしてみた。
たまたまその日、立ち寄ったドラッグストアの入口にある、お年寄りが買うのであろう、演歌のカセットテープや昔の映画のDVDのワゴンセールが目にとまった。
「チャップリン ショートフィルム全集」 ¥1000-
¥1000-の値札の上に20%offの黄色いシールが貼られていた。
…安っっ!
今日の小洒落た時間にでも観てみるか。
そう思って手に取ったチャップリンがその後の私に衝撃を与えるとは思ってもいなかった。
お風呂上がりに早速昔使っていた安いDVDのデッキを引っ張り出してきてテレビと繋いだ。
部屋の明かりを暗くしてワインとチーズでチャップリンを迎える。
その日見たフィルムは「Dogs Life」と言うタイトルだった。日本語訳版だと「犬の生活」と言うタイトルだ。
ワインで早速、眠気を伴いながらぼーっとみていた。
家のない貧乏そうなチャップリンが犬と一緒に地面に浅く窪みを掘って寒くないようにしながら横になっていて、犬のお尻を枕にしている。
犬はおとなしくただ、眠っていて、チャップリンは頭の位置が定まらないのかソワソワしていた。
やっと落ち着いて眠るのかと思ったら急にムクっと起き出して犬のノミを探し始める。
その、ただ何ともない一連の流れだけで眠気が冷めた。
ノミの探し方が慣れた手つき過ぎてフフフと笑えたのだった。
そこから「ながら観」じゃなく、意識がググッと映画に入って観ていると、音楽の美しさに気づく。
無声映画独特の間に差し込まれる字幕。
字幕のフォントのクラッシックさ。動きの面白さ。
全部が新鮮で、チャップリンの動きが流麗で、コミカルでなんだか分からない病みつきさを覚えた。
そして笑った後に素敵なラストに顔がほころぶ。
とても良い酔い方ができた夜だった。
それからチャップリンについて調べて、ほかの有名な作品をレンタルしては観るを繰り返した。
なんでこんなに笑ってしまうのだろう?
自分でも何故チャップリンに こんなに夢中になれるのか分からないけれど、もっと観たい!と、変な中毒になって行く。
そんなある日、ふと、「志村うしろ!…だ!」と衝撃が走った。
そうか、そういう事か!
チャップリンの映画はセリフがないからパントマイムみたいな表現方法で、その動きだけで何が起きているのか理解することが出来る。
頭を殴られれば千鳥足でふらつき、頭の周りにあたかも星が回っているかのように見えてくるし、
綺麗な女性と仲良くできて嬉しくて舞い上がるチャップリンは本当に宙に浮いているようにも見えてくる。
そして、悪いことをしてちょこまかと周りを巻き込みながら逃げ回る姿はドリフのコントそのものだ。
ドリフの笑いはもはや昭和生まれならDNAに組み込まれた笑いだと思うし、かと言って今の子供たちでもドリフを見せれば大笑いする。
ドリフのコントとチャップリン。
似ているんだなぁ、なるほど!
誰も得しないし、分かり合うでもないその結論にひとりでほくそ笑み、またチャップリンを観た。
それからもうひとつ、思い当たることがある。
チャップリンの映画は「寅さんシリーズ」のようだとも思う。
人が良すぎて誰かの幸せだけを願う人。
それによって自分が損をしてもいいと思っていて、気前よく、気高く、優しい男の人の話。
チャップリンの有名な映画だけでもぜひ、見て欲しいのでここで簡単に紹介を。
「モダンタイムス」では腕につけたカンニングペーパーがぴょーんと飛んでいってしまって、それを焦りながら、でも悟られないようにしながら探す仕草が可笑しくて腹を抱えて笑った。そのシーンは有名で、初めてチャップリンの声を聞く事ができたシーン。
どこの国の言語でもないデタラメな言葉とパントマイムで歌を歌う。
何語でも無いのに何を歌っているのか分かるからほんとに凄い。
「黄金時代」
雪山で始まって船上で終わる、話の展開がとても広くて面白い。空腹すぎて靴を茹でて食べるシーンがあるけど、食べ方が美しくて、「この人はこんな落ちぶれているけど本当は良い家柄の出身なんだろうな」なんて映画に関係ない所まで考えてしまう。
「独裁者」
これはこんな世の中だからこそ、誰もに観て欲しい。
戦争がテーマではあるけれど常に笑ぅところがあって、頭を殴られて頭ピヨピヨしてる動きでチャップリンのパントマイムの凄さがわかる。
有名な演説シーンでは涙が止まらなくなる。
心の中でそうだ!そうだ!と拳を上げたくなる。
「チャップリン作品集」
色んな話が入っていて何度も見てしまう。
ローラースケートがあまりにも上手くて驚くし、
シェイカーを振る姿はもう、くせが強くて爆笑できます。
「犬の生活」
犬のしっぽの習性がとてもうまく使われていて、とにかく犬が可愛い。
後半の種まきの癖の強さも誰かにわかって欲しいし、幸せってなんだろうなぁ。って優しい気持ちで考えたくなる。ハッピーエンドなので安心してほっこり出来る。
「キッド」
チャップリンが孤児の世話をしている姿からチャップリン自身がどのように育てられたのかわかる。
とても愛情深いお母さんだったんだろうな。
服は穴だらけ、食べ物もとても粗末なのにテーブルマナーは一流。
子供を巡ってドタバタするチャップリンの必死な演技にはいつも涙が出てしまう。
チャップリンについてのトリビアはネットでいくらでも出てくるし、画像もたくさんでてくる。
その中で1番好きなものは、
「チャップリンの目の色は深いブルー」だという事。
モノクロ映画では絶対知りえない事だけど、スクリーンの向こう側では 私たちが普段みている色があったんだと言う事実が当たり前な事なのだけど貴重に思える。
しかも、チャップリンは中々の男前だ。
チャップリンは映画界にとても大きな功績を残し、礎を築いた偉大な俳優であるけれど、作品が時代的に共産主義の疑いをかけられ、アメリカに再入国できず、亡くなるまでをスイスで過ごした。
また、若いと言うか、チャップリンの年齢と比べると幼い女性を愛し、スキャンダルも多かった。
そんなチャップリンがアカデミー特別名誉賞の授賞式に出席するため、20年振りにアメリカに入国した際の映像がネット上にあるのだけど、涙が止まらなかった。
全員スタンディングオベーションでチャップリンを迎え、その拍手はしばらく鳴り止まない。
その時のチャップリンの表情が堪らなくなる。
所作が美しく、感極まりながらも観客に礼をし、だけど喜劇王の名前の通り笑いも生み出す。
どうか、ここまで読んでくださる方がいれば、その動画を探してみてほしい。
そして、一緒に沼りましょう♪
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