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PL学園硬式野球部1年(アイスクリーム争奪戦編)

昼の食堂。9割、カツカレーを食べ終えたところでスプーンを止める。周りにいる他の1年も各々の食事を食べ終えようとはしない。全ては売店のアイスを食べるために。  

食堂には硬式野球部1年のいくつものルールが存在したが、その一つに食堂の購買を利用してはいけないというものがあった。特に昼の購買は特別でそこには何種類ものアイスクリームが置かれていた。外の世界と遮断されている僕たちは外界でしか手に入らないそのアイスクリームが喉から手が出るほど欲しい。なんとしてでも欲しい。

しかし、その購買を利用できるのは上級生のみ。原則は。僕たち1年より一足先に食堂に来る上級生は当然、1年より先に食事を終える。仮に全ての上級生が食事を終えて学校に帰ればそこには僕たち1年しか食堂にいなくなる。そうすれば念願のアイスを買う事ができるのだ!

13:35 。昼休み終了まで残り25分となって、僕たちは上級生の動向を横目で強く確認していた。殆どの上級生が帰った中、5名の二年生だけが食堂に残っていた。彼から食堂にいる限りはアイスを買いに行くことはできない。僕たちは彼らが帰るのをじっと耐えて待っていた。

13:40。一向に帰る気配のない上級生5名。すでに食事を終えているにも関わらず食堂で会話を楽しんでいる。(たのむ。はよ帰ってくれ!)この時ほど一年全員が同じ気持ちを共有したことはなかった。
すでにゆっくりゆっくりと食べ進めたカツカレーもルーの一滴すら残っていない。それでもカツカツとカレーを食べるふりをしながら上級生が帰るのをひたすらに待つ。

13:50。冷戦が10分続いた。2時になれば5限目が始まるのでアイスを食べることのできる時間は残り10分しかなかった。僕は半ば諦めかけていた。(今日はアイス食べれないのか。。) アイスを食べれるかどうかでその日の午後のメンタルが決まるというのに。みんなも絶望の目をしている。教室に帰るしかないか…、諦めかけたその時、

「おい、1年!お前らアイス食いたいんやろ。他の2年には言わんといてやるからアイス買うてええで!」

終戦のサイレンが鳴った。僕たちはダッシュで購買に向かい、各々好きなアイスを眺める。僕は、大好きなスーパーカップのバニラ味か、板チョコアイス、ビスケットサンドから悩み抜いた結果、スーパーカップのバニラ味を手に入れた。

13:55。昼休憩終了まで残り5分。僕の目の前にスーパーカップバニラ味が置いてある。天にも昇るような気持ちだった。カップのフタを開け、ビニールのフタを外した。入寮するまでに何度も食べたアイスとは思えない風貌をしていた。言葉では表現しきれない神々しい生い立ちをしたスーパーカップ。
僕は木のヘラでめいいっぱいにスーパーカップバニラ味をすくい口に放り込んだ。

ビリビリっと身体に電流が流れた。バニラの甘みとアイスの冷たさが身体全身に流れ込む。脳をハンマーでしばかれたんじゃないかというくらいの衝撃が脳に伝わる。気がついたらスーパーカップバニラ味は無くなっていた。名残惜しいすぎるそのカップを一滴すら逃すまいとヘラですくって口に入れた。

周りを見渡すとみんなの顔にも生気が戻っていた。

明日もアイスのために頑張ろうな。みんなの目が微笑んでいた。

                  食堂編完。

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