ゲイリー・オールドマンがすごすぎた『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

デブで猫背で口の悪い、でも意志が強く動物好きなおじさん、
それがウィンストン・チャーチルである。

本作は彼が首相に就任してから、
ダンケルク救助を行うあたりまでを描いた作品だけれど、
とにかく熱い映画だなと感じた。
終盤が特に。

さっきの『ペンタゴン・ペーパーズ』同様、
こちらもチャーチルにものすごい重圧がのしかかるのだけど、
たぶん、メリル・ストリープの何十倍も辛いかもしれない。
戦っている数多くの兵士の命があるから。

チャーチルは政策も失敗が多く、さらに口も悪いから、
自分でもまわりから嫌われていることを自覚しているのだけれど、
それでも組閣するときにはあえて政敵を近くに置き、
その上で、自分の主張を力強く伝える姿勢がもう本当にすごいなと。
自分だったら、嫌いな人からは離れるし、
なるべくコミュニケーションも取りたくないけど。。。(笑)

しかしその結果、ヒトラーは彼を恐れ、
「ヒトラーが恐れる人を私は信頼する」と、
当初は信頼関係のなかった国王も味方についてくれるようになる。

何かに突出した人は、アンチも出るけれど、味方もできるし、
事を成し遂げるにはそれぐらいの振り切った覚悟やキャラが必要なのだろう。
なるべく人に嫌われたくないと思う自分には、無理な話だ(笑)

しかしそんなチャーチルでも、迷い葛藤するのだ。
自分が本当にすべきことは何か、自問自答を繰り返していた。

以下、ややネタバレになってしまうので、
読みたくない場合は飛ばしてください。

最初は「和平交渉などしない。徹底抗戦だ!」と、
まわりの反対を押し切って、己が道を貫いていたものの、
次々にやられていく兵士たちの情報を聞くうちに、
「和平交渉の可能性を探ることは許可する」と及び腰になり、
それでも「これが自分の責務なのだろうか」と、常に葛藤していた。

そんなときに国王の助言もあり、
チャーチルは外に出て、市民の生の声を聞くのだけど、
そこで市民が「降伏などしないぞ、戦うんだ!」
と一斉に言うもんだから、弱っていたチャーチルも、
彼らの声に後押しされて、再び強い意志を持つシーンが、
個人的にはとても好きで、感極まって泣いてしまった。
降伏しない。"Never"と。

強いだけじゃない、弱い部分もきちんと描きながら、
その強さの源を市民から得るという、
上に立つ者として、理想的な形を示していたのがよかった。
と、同時にどこぞの国の首相と比べてしまい、
余計にこのチャーチルのかっこよさが際立っているように見えた(笑)

でもちょっと調べてみると、チャーチル自身は、
「自分を選ばれた者だと思い込んでいた」
「戦争をゲームのように考えていた」
「実際は誰が死んだかなんて興味なかった」
みたいな記述を見たりもしたので、
映画での彼は一部の姿でしかないのかもと思ったりもした。

あと、なんと言ってもゲイリー・オールドマンの演技がすごい。
あのヨボヨボした感じがすごいリアルだったし、
特殊メイクもすごくて、チャーチル本人の顔を見て、
あまりにも似ていたからびっくりした。
改めて同じ日本人として、辻一弘さんを誇りに思います。

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