醜く愚かで美しく強い

私はきっと大がつく馬鹿者だ。
手の届くところにあった大切なものを無くしてからやっと気づいてそれじゃあもう遅かった。
あの子の心はとっくに私の事なんか見ていなかった興味も無くなっていた。
おまけに好きな人まで出来たとか出来てないとか。
これから先も一緒にいることが当たり前だと思っていた私は鈍器で殴られたような脳をすり潰されるような衝撃と共に手を取り合っていかなければならないようだ。
「私の隣にいるのはあなたではない」錆びたナイフで刺されたように私の心にじわりじわりと悲しみと無力感が込み上げた。
そして私は逃げた。何もかも捨てて逃げた。
もうどうでも良くなって全て放り投げてしまった。
頑張る理由も生きる理由ですらなくなってしまった。精神的支柱を失ったのだ。
何がいけなかったのか思い当たる節もままあるが別れを告げられるほどのことかと言われるとあの子の方がよっぽどだと思うことがある。
だがしかし、それでも私にも非があるが故にあの子を責める資格は毛頭ないしそんな気もない。
ただただ、寂しく悲しく無力であることを思い知らされたそんな恋だった。
あのタバコを吸う度、あの香水の匂いを嗅ぐ度、ふとした瞬間思い出す度虚無感を味わう。
全てを投げ出し逃げ私はなにをしてるのだろうか。
結局あの子としてることはさして変わりないのに、あの子のように器用に生きられない。醜く愚かで美しく強いあの子のように。
今もきっと迷惑をかけているであろうあの子にはいつか面と向かって謝らなければ全てを終わらせてから。
そして私を捨てたことを後悔させてやる。
そんなささやかで小さなしょうもないくだらない復讐心に燃えながら今日も誰かに抱かれる。

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