2023/4 植田日銀新総裁就任会見について

昨日の会見ですが、植田総裁はじめ氷見野・内田両副総裁3名とも、現行政策の修正の可能性に関しては言質は一切与えず、現状の経済・物価・金融情勢を鑑みるとYCCを継続することが適当という見解を明確に示しました。
個人的には、全く驚きはなく完全に予想通りでしたが、市場の反応は意外なほどUSDJPYは上昇しました。しかも、最初の反応としてはYCCには副作用があるといった主旨の発言が出たところで、131円台に突っ込んだのち、最終的には133円台後半までショートカバーしました。
最近は、ドル円は円高に推移したことはなかったですが、円金利は再度0.5%近辺まで急上昇するなど、明らかに海外勢はいわゆる”日銀アタック”を仕掛けていました。つまり、ドル円もかなりショートが溜まっていたということでしょう。
では、海外勢は日銀に何を期待していたのでしょうか。
・植田総裁はYCCについては副作用があることを認めていた
・突如として金融不安が発生し、円金利もつられて低下していたが、植田総裁になって初のBOJ会合にてYCCの修正をするのではないかという思惑が浮上していた。これは二つの理由があり、現在の世界の環境からすると、金利低下方向に圧力がかかっているため、YCCを解除しても円金利急騰への懸念が比較的小さい。コアコアCPIでも3%を超えてきた状態で、春闘も予想以上に賃上げとなったため、いよいよ日本にも物価抑制の思惑が強く働いてくるだろうと。
しかし、この二つの理由には致命的な欠陥がありました。まず一つ目の世界的な金利低下圧力についてですが、確かにそういった側面はありますが、そもそも金融不安を巻き起こした原因を忘れています。それは利上げによる、金融機関が保有している債券の含み損であり、日本でも同じように特に地銀など日本国債は当然大量に保有しています。万が一、YCCを解除して長期金利が急上昇した場合、地方銀行の含み損が拡大することにより、日本にも金融不安が訪れる可能性があります。植田総裁は、その辺りも考慮して市場環境を見極めて対応するとのことで、いくらYCC解除はサプライズになるとはいえ、現在の世界的な環境下でそれを決断するには時期尚早と判断したのでしょう。
そして、二つ目、コアコアCPIですが、これは2017年に総務省が、海外のコアCPIに近い指標を作るべく後から作成したものですが、エネルギーと”生鮮食品”しか除いていません。海外の通常のコアCPIはエネルギーと食料品全般が除かれています。では、日本でも海外と同様、食品全般を控除すると、見事に2%を切っているのです。更に今週の月曜日に日銀が発表した需給ギャップは▲0.43%となっています。これも、プラス圏が期待されている中、マイナス幅が深まっています。需要が足りていない状況では、当たり前ですが引き締めなどできません。この状況で引き締めを実施すれば景気は悪化し、スタグフレーションまっしぐらです。

今後についてですが、まずYCCを緩和スタンスと共に解除するには、外部環境待ちだと考えています。国内では春闘の結果が出て、着実な賃金インフレにより持続的にコアCPIが2%を超えることが見通せる。このタイミングで、為替が140円を超えていたりするなら、突然YCCを解除したところで、円高になったとしても130円を割れずに、日銀短観の企業の採算レート付近での円高でとどまることが可能となります。

そうではなく、海外金利が利下げを織り込み始めたタイミングで為替は130円を超えたところで揉み合い。このケースの場合、緩和スタンスは維持しつつ副作用を抑えるためにYCCという手法を止めるだけで別の緩和方法を同時に発表します。反応としては、円金利は恐らく上がると思いますが、世界的に利下げモードに入っていてかつ、BOJも新たな緩和策を発表するなら、0.5%を超えたとしても1%を超えて更に金利が上昇するということにはならならないでしょう。
植田総裁は、YCCは解除したいものの、副作用を最小限に抑えるべく、海外金利動向及び為替水準に十分注視しながら、実施してくると予想します。その際、理由は緩和自体を止めるのか、緩和は継続しながらでも、理由は何とでも付けられると思います。あまり、日銀会合毎に海外勢に乗ってアタックを仕掛けても意味がなく、冷静に世界金利と為替の水準だけ見ながら、BOJ会合の出方を予想した方が良いと考えています。

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