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『うさぎと亀』 知られざる結末

誰もが知るイソップ寓話『うさぎと亀』には、誰も知らない驚きの結末がある。原作では〝亀の地道な努力〟を讃える。しかし、本当にそうだろうか? 努力だけで、うさぎに勝てるのだろうか? そんな小生の疑問を元に、物語をリメイクしてみた。あなたは、どう感じるか?

はじめに/短編小説『うさぎと亀』知られざる結末
(このあと本編/5分で読めます)



◾️『うさぎと亀』知られざる結末

亀がやっとの思いでゴールしたとき
兎のゴールから既に3時間が経っていた。


亀は、兎に完敗した。
ぐうの音も出ない程に。



レース前、亀はこう考えていた。

〝コツコツ一刻も休まず地道に歩み続ければ
 ワンチャン勝てる可能性あるかもしれない〟


その考えは甘すぎた・・亀は激しく後悔した。



レース前に集まっていた大観衆も
亀の醜態に呆れ果て…全員が帰った。


ゴールで待っていたのは、兎ただ一人。
待ちくたびれた兎が、口を開く。

「みんな、君にガッカリして帰った。
〝勝てる見込みない勝負を挑むなよ〟って・・」


亀は俯いた。
返す言葉がない。


冷めた口調で、兎は続ける。

「なぜ君は、こんな無謀な勝負を挑んだのか。
 もしかして俺が油断するとでも思ってた?」


亀はうなだれた…図星だった。



兎は、呆れ顔で言い放つ。

「そんなハズないでしょう・・こんな茶番。
 仮に100回やっても、俺が100回勝つよ


亀は、どうにか言い訳を絞り出す。
「でもコツコツ続ければ1回くらい運良く・・」


「大事な勝敗を運に委ねるな」兎は一蹴した。

「亀くん。もうひとつ。これだけは言っておく。
 〝地道に努力すれば報われる〟は、妄想だよ



亀は絶句した。
拠り所としていた信念が…切り捨てられた。



兎は容赦しない。

「君に期待してた観客は、見事に裏切られた。
 無謀な信念や努力は、周囲を不幸にする。
 もちろん、自分自身もね

 


「ぼ、僕は、どうすればよかったのか・・」



困惑する亀に、兎はあっさり答えた。

「カンタンだよ。
 〝かけっこ〟なんて、挑まなきゃよかった」



唖然とする亀。兎は続ける。

イソップ寓話の〝北風と太陽〟の話
 知ってるよね?」


亀は頷いた。好きな話だ。
兎は饒舌に語り始めた。

「あの話では、北風の強引なやり方に対して
 太陽の〝機転〟や〝寛容さ〟を讃えている。
 でもね。勝敗を分けたのは、そこじゃない


〝えっ?〟意表を突かれる亀。


「あの勝負が〝上着を脱がせる〟でなく、逆に
〝着させる〟勝負だったら、どうなると思う?」



予想外の問いに、亀は結果を想像した。
太陽に〝着させる〟ことは、無理だろう…と。



兎の口調が熱を帯びる。

「そう。勝負は〝お題〟の時点で決していた。
世の中の勝敗の大半は、最初から決まってる」


亀は、目から鱗が落ちた。
そんな考え方に触れたのは初めてだった。


〝かけっこじゃなく、
ちがう勝負を提案してたら…僕が勝てた・・?〟



亀の心理を見透かすように、兎は続ける。

「まずは、自分の〝個性〟の見極めが重要。
 でも、それが難しい。多くの者はできない。
 自分を一番分かってないのは、自分だから」


〝じ、自分の個性・・〟亀は呟いた。



「亀くん。君には〝地道な努力〟なんかよりも
 俺との勝負で生かせた素晴らしい個性がある。

 例えば、君は陸上でも水中でも自由に動ける


亀はハッとした。


「山だけじゃなく、コースに川が含まれてたら
 泳ぎが苦手な俺は、亀くんに負けてたよ」


〝なぜそんな簡単なことに気付けなかったのか〟


落胆する亀に、兎は優しく言葉をかける。

「自分にとっては当たり前すぎて気付けない。
 他人から見たら素晴らしい才能だとしても」


亀は、兎を力なく見上げた。
兎は、真っ直ぐな視線で応えた。

「亀くん。今日から正しい努力をしていこう。
 個性を生かせる環境と方法にこだわり抜こう。
 そうやって〝人生の戦略〟を描くんだ


〝人生の戦略・・〟
その言葉を、亀は噛み締めた。



兎の話は、示唆と気付きに溢れていた。
亀は、未来が好転していく予感がした。


これを伝えるため、兎は一人残ってくれた…
そう思うと、亀は感謝の想いで一杯になった。

「兎くん。本当にありがとう。
 この恩に、僕はどう報いたらいいのか・・



兎は、笑みを浮かべた。

「亀くん。じゃあ・・お言葉に甘えて。
 君にひとつ提案…というか、頼みがある



少々意外だったが、亀は笑顔で頷いた。

「この勝負、亀くんが勝ったことにして欲しい。
〝兎が油断して負けた〟というストーリーで」


あまりにも唐突な申し出に、面食らう亀。

「う、兎くん? 何を言ってる…?
 一体、何のためにそんなことを…?」



兎は答える…その顔は真剣そのものだ。

「帰った観衆らは、俺がうまく言いくるめる。
兎が油断し、亀くんが勝った。それでいいね?


亀にとっては、悪くない話だ。
己の醜態を無かったことにできる。
むしろウエルカム…断る理由がない。


しかし、兎の意図が分からないと
どうにも気持ちが悪かった。

「兎くん。OK。それでいいよ。
 でも、君にメリットがあるのかい?
 せめて理由を聞かせてくれないか?



兎は、しばらく思案すると、切り出した。
その表情は、どこか無機質だった。

「〝地道な努力は必ず報われる〟とか
〝兎は油断する〟と考える奴らを増やしたい」


「なぜだい?」亀は問うた。



その瞬間、兎の表情に妖しさが宿る。

「そう考える奴が増えた方が勝ちやすくなる。
 それが、俺の〝人生の戦略〟さ」


亀の背筋を、冷たいものが走った。
自分は永遠に兎に勝てない・・そう確信した。



かくして、二人の勝負は幕を下ろす。

〝油断した兎に亀の努力が勝った〟という
二人によって〝捏造されたストーリー〟で。


この時、兎はひとつだけ亀に本心を隠した。


兎にとっての、亀の最大の個性…
それは〝長寿〟である…という本心。


案の定、亀は、兎の死後も生き続けた。
律義に、兎との〝約束〟を守りながら。



長い間、亀は〝ストーリー〟を語り広めた。


武勇伝を語る自身が誇らしかったし
いつしか、それが事実だと思い込み始めた…


亀の死後も〝ストーリー〟は拡散し
多くの者によって、永く、語り継がれた。

時代を超え、やがて寓話となり真実と化した。



〝ストーリー〟を信ずる者が増えるほど
兎は勝ち続けた。勝つのは容易だった。

そして兎の死後、その子孫も勝ち続けた。




兎が描いた〝人生の戦略〟は的中した。

それは、亀の〝長寿〟という個性を利用して
〝末代まで勝てる環境をつくる〟という戦略。




その〝ストーリー〟は
今日も、何処かで、語り継がれている…


童話として、親から子へ読み聞かされる形で。



〝地道な努力は必ず報われる〟という教訓は
親にとって確実で安心だったからに違いない。



だが、そこに隠された最も大切な〝前提〟を
多くの親は、皮肉にも、見落とし続けた…



その〝前提〟とは…
兎が亀に、最後に授けた、激励の言葉…



〝正しい努力をしていこう。
個性を生かせる環境と方法にこだわり抜こう〟


【 了 】

最後までお読みいただき感謝します。勿論、努力は大切です。しかし、正しい努力でなければ、報われない…厳しい時代だからこそ〝どこで、どう努力するか?〟という人生の戦略を最初に描くことが重要だと、私は思います…あなたは、どう思いますか? ぜひコメントで教えてください。
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あとがき/短編小説『うさぎと亀』知られざる結末

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