📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『こんなにも、この世界という畑を、愛されるのですか』　2023年7月23日新約聖書　マタイの福音書第13章24～30節、36～43節

✅先日の礼拝メッセージ文書版をここに掲載いたします⬇️

(メッセージ本文より)毒麦だった麦は、主人が畑を見回りながら、こちらにやってくるのを見ました。
　ニコニコしながらほんとうに、ほんとうに嬉しそうに、元毒麦の穂をそっとその手に載せます。その節くれだった手をよーく見ると、痛々しい釘の跡があります。
　でも、彼にとって、その元毒麦の実らせた黄金(きん)色の実をその手の平に載せるのが嬉しくて、主人はその痛みはどうやら忘れてしまったようでした。

✴️礼拝メッセージ『こんなにも、この世界という畑を、愛されるのですか』　2023年7月23日
新約聖書　マタイの福音書第13章24～30節、36～43節

24　イエスは、また別のたとえを彼らに示して言われた。「天の御国は次のようにたとえられます。ある人が自分の畑に良い種を蒔いた。
25ところが人々が眠っている間に敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて立ち去った。
26麦が芽を出し実ったとき、毒麦も現れた。
27それで、しもべたちが主人のところに来て言った。『ご主人様、畑には良い麦を蒔かれたのではなかったでしょうか。どうして毒麦が生えたのでしょう。』
28主人は言った。『敵がしたことだ。』すると、しもべたちは言った。『それでは、私たちが行って毒麦を抜き集めましょうか。』
29しかし、主人は言った。『いや。毒麦を抜き集めるうちに麦も一緒に抜き取るかもしれない。
30だから、収穫まで両方とも育つままにしておきなさい。収穫の時に、私は刈る者たちに、まず毒麦を集めて焼くために束にし、麦のほうは集めて私の倉に納めなさい、と言おう。』」

36　それから、イエスは群衆を解散させて家に入られた。すると弟子たちがみもとに来て、「畑の毒麦のたとえを説明してください」と言った。
37イエスは答えられた。「良い種を蒔く人は人の子です。
38畑は世界で、良い種は御国の子ら、毒麦は悪い者の子らです。
39毒麦を蒔いた敵は悪魔であり、収穫は世の終わり、刈る者は御使いたちです。
40ですから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終わりにもそのようになります。
41人の子は御使いたちを遣わします。彼らは、すべてのつまずきと、不法を行う者たちを御国から取り集めて、
42火の燃える炉の中に投げ込みます。彼らはそこで泣いて歯ぎしりするのです。
43そのとき、正しい人たちは彼らの父の御国で太陽のように輝きます。耳のある者は聞きなさい。

主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
　
　これはインターネットで2ヶ月前に見た記事なのですが、統一教会の総裁のハンハクチャ氏が、韓国の釜山に行った時の「お祝いの言葉」という発言録が上がっていたんですね。そこでですね、なんとキリスト教会を異端扱いしているんですね。
　統一教会の信者に対して、「統一教会が異端ですか？キリスト教会が異端ですか？」こう問いかけて「キリスト教会です。」と答えさせる。キリスト教会の方が異端だと答えさせさせる。そういうやりとりをしていたそうです。

　まぁ本当によく言えるな、と感じますが、キリスト教会は、歴史の中で「異端」というのを設定してまいりました。現代のキリスト教系三大異端と言えばもちろん統一教会も入るわけですが、その異端というものの歴史は、実は新約聖書の書かれた紀元1世紀後半の時代からありまして、新約聖書に「異端」っていうことばが載っているんですね。パウロやペテロや他の使徒たちはこの異端と激しく、ことばでもって戦いました。パウロは異端の偽教師たちを激しく非難しましたが、異端がなぜそんなに非難されなければならなかったかというと、イエス・キリストが命がけでもたらしてくださった福音、というのとは、全く異なるものを、救いの道だとして教える、福音を台無しにしてしまう、似ているようで全く異なる教えを、さも本物であるかのように教えたからなんですね。これが教会の中に入り込むことを、非常に警戒しました。
　こんにちでも本物と見分けのつきにくい、非常に悪質な異端・カルトの団体がありまして、たとえば「新天地」というのがあります(この団体はコロナの流行初期の頃クラスターを出して日本でも報道された)。その新天地の信者を、「収穫の働き人」などと称して、既存キリスト教会に送り込み、何年もかけて信用を得て、自分たちの聖書勉強に信徒を誘い出したり、あるいは牧師の悪いところなんかをでっちあげたりして教会を分裂させたり、また他の手口で、教会ごと乗っ取るというような、悪質なグループもあります。(ここも表向きには正統な教理を持っています、と装いながら、入ってみたら秘密裡に教祖が再臨のメシアだって教えられるということなんですよね)

そのように、異端・カルトが入り込むと、非常に大変なことになりますので、新約聖書が、それらに警戒するように教えているわけです。

ところで、このマタイが福音書を書いた時代、それは、イエス様がきょうのこの特徴的なたとえ話をお語りになってから数十年が経っております。そこで、1世紀後半の教会の信徒たちがこのイエス様の「毒麦のたとえ」を読んだ時、あるいは礼拝でこのマタイの福音書が朗読されるのを聞いた時、この毒麦とは異端のことだ、と思ったところがあったようです。イエス様のことばの「畑は世界です」というこの「世界」を教会と解釈したんですね。実際に非常に教会に異端が入り込むのは身近な、せっぱつまった問題だったようですから、そういう風に解釈されて、その解釈がこんにちまで伝統的に解釈の中の一つとしてあるわけですね。

そういうわけで、歴史の中で、毒麦イコール異端というのが一つの考えとしてありました。しかし、キリスト教会は、それを誤用、悪用して来たんですね。自分たちを正義だとして、誤ったジャッジ、とんでもないさばきをしてきました。

　それは十字軍、異端審問、魔女狩りなど、自分たちの目から悪いと見える者を取り除いて理想郷を造ろうなどというような考えになり、言ってみればその当時のキリスト教会がカルト化していたという言い方もできるのではないかと思います。

以前にも申し上げた通り、カルトとまとも、の間は、深い溝ではなくて、高～い壁でも無くて、薄い膜しかないんだ、ということですね。まぁ統一教会が悪いということは明らかでしょうけれども、私たちが、主なる神さまの前に「神よ、私がカルト宗教、ことにこんなひどい統一教会ではないことに感謝します」と、パリサイ人のように心の中でひそかに言った瞬間に、私たちは「自分は正しい教」と言いますかですね、小さな教祖になってしまう、まぁ心の中でそんなセリフを言う前に、そういう生まれついてのものを持っているということですね。そのことに関連することも少し後で触れます。

今日、神さまからの語りかけとして聞きましたイエス様のたとえ話、「毒麦のたとえ」とか、「良い麦と毒麦のたとえ」とか呼ばれる話ですが、下手をすると取り方によっては、カルト的なたとえ話にも取れて、あるいは悪用されやすいたとえ話でもあると思いますね。怖いたとえ話だと言えるかもしれません。毒麦は集めて火で焼かれる、という描写があるからですね。

実はこのたとえ話は、ルカもマルコもヨハネも、福音書に収録していません。マタイだけが書いているわけですが、マタイが福音書を書いて、それが回覧された頃の教会のクリスチャンたちにとっては、このイエス様のたとえ話が、ダイレクトに慰めだったと思います。先ほど申しましたように、異端がたくさん教会に入り込んでいましたし、もう一つは、ローマ帝国の迫害がありました。ひどい迫害で仲間たちの命も奪われて行く。そういう悪が、横行している。「なぜですか、主よ」そういう教会員の心の叫びがありました。その時にまさにダイレクトに、ローマ帝国の悪は、しばらく毒麦のように生えているが、やがて、神のさばきの時には、悪はさばかれ、焼かれるのだ、そして、正しい者は、良い麦として天の倉に納められ、父の御国で太陽のように輝くのだ。このことばがダイレクトに慰めになったことでしょう。

しかし、ではこんにちの私たちがこのたとえを、自分に語られたことばとして聞いた時にどうでしょうか？毒麦を集めて焼くという話を聞くと、私たちはビクビクさせられて、こう自問自答するわけですね。「自分はいったいどちらだろうか？良い麦だろうか？悪い麦だろうか？祝福を受けるのだろうか？呪いを受けるのだろうか？」そんなふうに思ってしまうかもしれません。

このたとえを聞いて、私は、あるいは私たちは、イエス・キリストを信じて救いを受けたのだから、良い麦なんだ、というふうに聞いたらどうでしょうか？おそらく、最初に申し上げたような、異端に気をつけましょう、という話に取るか、あるいは、教会の中にも、毒麦が入ってくることがある。信仰告白して洗礼を受けている人でも、中には本当にはイエス様を信じていない人もいる、まぁ本物のクリスチャンと偽物のクリスチャンがいる、という話に受け取ったり(そうすると私も信じて洗礼受けているけれど偽物じゃないという保証はどこにあるんだろうか？と不安になることもあるかもしれません)、はたまた教会の中にはトラブルメーカーがいて、あの人さえいなければ、という人が出て来る、でもここで、毒麦を引っこ抜きましょうか？と言ったしもべに、イエス様がお語りになった主人が「引っこ抜いてはいけない。そのままにしておきなさい」と言われたので、トラブルメーカーがいても、追い出してはいけないとか、寛容に接しなさい、という教えとして聞くか？
あるいはこのたとえ話を、「毒麦を人間が引っこ抜いてはいけない」だから、寛容になりなさい、か、悪に対して先走ったさばきをしてはならない、という教訓か倫理道徳として受け取るか、それをもっと教会外にも広げて考えて、社会的に適用しまして、他宗教に寛容になろうということで宗教間対話を、と適用したり、あるいは、先走ったさばきをしてはならないということで、日本の現代の裁判の冤罪問題であるとか、人間はどうしてもジャッジを間違うことがあるから、死刑制度はいかがなものか、とか、そういうことは非っ常ーに大事なことです。それはそれでとてもよくよく考える必要があると思います。

でも、先週も申し上げましたけれども、イエス様がたとえ話をお語りになった時に、大切なことは、道徳としてお語りになったわけではない、ということです。倫理としてお語りになったわけではありません。

先週の種蒔く人のたとえ話でも、四つの土地がありましたね。イエス様が、「種蒔く人のたとえ」とおっしゃっているのにもかかわらず、自分はその四つの土地のどれだろうか？と「四つの土地のたとえ話」のように聞いてしまう、っていうことを私は申し上げました。人間どうしてもそういうクセがあると思うんですね。「ああ、道端、岩地、いばら、良い地」前から３つがバツだな。最後の良い地がマルだな。自分はバツだろうか？マルだろうか？そういうふうに、何か基準、枠組みを聖書から受け取ろうとするクセです。イエス様がたとえ話で伝えたいのがそういうことでなかったとしてもです。

それで、そういう私たちの心におそらく無意識にあるバイアス・偏りというか、フィルターを自覚するために、ちょっとこういうことを考えてみてもいいかもしれませんけれども、ユーチューブなどで、いろんなインフルエンサーと呼ばれるような影響力の強い人、また社会的にも一定の評価を得ている成功者ともみなされる人の動画を私も見ることが私にもありました。確かに楽しくて、ためになって、知識も教えてくれます。また、人生を生きたり、人間関係などのコツとかライフハックみたいなことを言ってくれたりもするんですけれども、その中で、こういうセリフがあったりするんですね。「こうこうこういう人って、バカなんすよ」とか「こういう人って、頭悪いんすよ」とか、まぁそういったことを動画の中で言うわけですね。そういう動画が、とてもためになったとか、新たな視点を与えてくれたとか、そんなコメントもついていたりで、視聴回数がとても伸びていたり、高評価がたくさんついていたり、まぁとにかく人気なわけですね。なぜだろうか？それは、一つはこういうことが言えると思います。視聴者が、「こういう人は頭悪いんすよ」と言ってくれて、自分は「こういう人」のカテゴリーに入っていなかったので、基準を分けてくれて、自分はオッケーラインに入っていたから、マルだということで、安心した、あるいはスカッとした、というところでしょう。実際私も、その動画を見た後の感情が、ほっとした部分があったので、これは細かいけれど私の罪だな、と思ってそういう動画を見るのをやめました。

それで、私たちそういう意味で、人間全員パリサイ的なんですよ。パリサイということばそのものの意味は分離です。分離って分かりやすく言えばマルかバツかなんですよ。人間みんなどっかでマルかバツの基準がほしい。そして自分をマルの側に置いて安心したい。という心があるんです。
ですからパリサイ人ってモーセの律法以外に、口伝律法って言って、イエス様が先祖たちの言い伝えと呼んだ細かい規則規則をいっぱい作ったじゃないですか？なんでそんなメンドクサイの作るがですか？それはある意味民衆のニーズがあったわけですよね。
「先生、こういう場合にはどうながですか？安息日を守ってこれを聖とせよ、働いてはならない、ってモーセの律法には書いちゅうがですけど、安息日に歩きすぎるがはマルながでしょうか？バツながでしょうか？」
「それはね、安息日は神さま第一っていうことですき、礼拝するために会堂に歩いていくだけの距離なら、９００ｍ以内ならマル、それを越えたら労働したことになりますき。その場合はバツになりますよ」
「ああ、先生、よかった。もうちょうどこないだの安息日、８５０ｍくらい歩いたところやったがですよ。いや先生、教えてくださってありがとうございます。」って感謝もされたでしょう。

で私たちは、宗教家にこういう基準を言ってくれることを求めがちですし、聖書もそういう風に読みがちだし、イエス様のたとえ話もそういうふうに聞きがちです。だから私たちの目や耳には、いやむしろ心には、パリサイフィルターと呼べるようなものが、くっついているので、そういうふうにとらえがちなんです。で、マルバツの基準のものさしを心にもらったら、そのものさしでもって自分を向上させようともすると思いますけれども、他人に対しては裁きがちになります。これは私も含めて人間みんな、たとえば先週の4種類の土地のことを、もしマルバツの基準として自分の中に取り込んだら、「ああ、あの人は、洗礼受けてすぐ教会に来んなった。熱しやすく冷めやすい岩地タイプかな？」「あの人はサタンの誘惑に負けた道端タイプかなぁ？」というふうに、心の中で裁く方向にどうしても行きがちになるんですよね。

ではやはり、私たちは、今日のこのたとえ話も、新しく聞きなおさなくちゃいけない。本当にイエス様が私たちにお語りになりたいことに、まずフィルターを自覚した上で、それをはずして、耳を、心を澄ませていきたいと思うわけですね。

私たちが、イエス様のたとえ話を聞く時のコツの一つを申し上げますと―まぁ他人ごとではなくて自分自身に語られた神のことばとして聞くのが大前提としてですよ―、イエス様のたとえ話には、必ずどこかおかしいところがあるんです。変なところがあるんです。常識で考えたら、こんなことありえないでしょう、というところがあるんです。そこに大きなポイントがあるんですね。
イエス様のたとえ話は、ここでもそうなのですが、多くは天の御国、神の国についてです。そういう人間にはなかなか理解が及ばないことを、あるいは人間とは異なる考え方をなさる神さまのみこころを、非常に身近なものにたとえてお語りになるのが、イエス様のたとえ話です。そしてある説教者は「たとえ話はまるで夢や詩のようにふるまい、イメージによって伝えられる意味は、頭よりも心に語りかけてきます」と言っていますように、知的な理解のバリアを超えて、イエス様の心が、こちらのハートにダイレクトに伝わってくるわけですね。
そこで、私たちの心に、イエス様のハートがダイレクトに伝わってくるわけですが、私たちの心に一種のとまどいを引き起こすところがあります。それはこの毒麦に対する、主人の極端なまでの寛容さです。忍耐深さです。「引っこ抜きましょうか」ってしもべがゆうたら、「いかんで。」と。「毒麦を引っこ抜いたら、えい麦まで一緒に抜けるかもしれんやんか。だから収穫の時まで、えい麦も、毒麦も、両方置いちょきや。」
…なんということでしょうか？(しかもこの毒麦は、敵が蒔いたにもかかわらずです)しもべたちは、えい意味で、忖度していますよね。気をきかせています。きっと悪いものを抜いたら、畑の栄養も、全部えい麦に行くから収穫は増えて、主人は喜んでくれるだろうと思って。ですからこの主人は、ともすればいい加減な人物にさえ見えて来ます。私たちが当然思い浮かべるような、混じり気のない作物とか、整然とした畑とか、畑の効率的な運用とか、そういうことにはどうやら関心がないようだからです。この主人が求めるのは、完璧さではなく、植物の育つことに関心があるということ、そして、危険を承知で、豊かな麦の収穫のためには毒麦をも豊かに育てるのだと言うことを教えてくれます。私たちが少しでも手伝おうとして、主人の計画を良いものにしようとするとき、それは的外れであるということ、私たちの判断が的確でないこと、そしてなんといっても、ご自身がこの畑のあるじであることを私たちに伝えられます。

ところで、このたとえ話を本当に理解するために、どうしても取り上げておかなければならないことが旧約聖書の中にあると思います。それは、創世記第18章に描かれている信仰の父アブラハムの話です。
アブラハムの甥のロトがソドムの町に住んでいました。創世記第18章では、マムレの樫の木のそばで、3人の主の使い、天使がアブラハムのもとに現れます。その天使が、―この天使は神ご自身と考えてよいわけですが―ソドムとゴモラの町の罪が重いので、それを見てこよう、と言うわけですね。
それを聞いたアブラハムは、甥のロトを思ってのことでもあったでしょう。こう天使たちに言うんですね。読んでみます。

旧約聖書　創世記第18章23～26節

23アブラハムは近づいて言った。「あなたは本当に、正しい者を悪い者とともに滅ぼし尽くされるのですか。
24もしかすると、その町の中に正しい者が五十人いるかもしれません。あなたは本当に彼らを滅ぼし尽くされるのですか。その中にいる五十人の正しい者のために、その町をお赦しにならないのですか。
25正しい者を悪い者とともに殺し、そのため正しい者と悪い者が同じようになる、というようなことを、あなたがなさることは絶対にありません。そんなことは絶対にあり得ないことです。全地をさばくお方は、公正を行うべきではありませんか。」
26主は言われた。「もしソドムで、わたしが正しい者を五十人、町の中に見つけたら、その人たちのゆえにその町のすべてを赦そう。」

　と、アブラハムは、神さまを脅しているかのような響きもありますね。それだけ神さまに対する絶対の信頼を込めて語っているのだと思います。ソドムとゴモラの町に、何千人もの毒麦がいたとしても、良い麦が50人いるかもしれない。あなた様は、毒麦と一緒に良い麦まで引っこ抜かれるのですか？(絶対にそんなことは無いでしょう。)そして、面白いことになんですけれど、この続きは省略して読みませんでしたけれども、アブラハムの値切りが始まるんですね。交渉するんです。いやもしかしたら50人いないかもしれません。45人かもしれません。40人かもしれません。30人かもしれません。と次々値切っていって、最後には、10人かもしれません。と言って、神さまは、「滅ぼすまい。その10人のために」とおっしゃるんですね。こうしてアブラハムの交渉自体は成功したんですけれども、結局ソドムとゴモラの町は、正しい者が10人もいなくて、火と硫黄で滅ぼされてしまいました。甥のロトと2人の娘だけが助かりました。
　
　でそのことを考えます時にですね、では今のこの世界は、どうして、すでに滅ぼされていないんでしょうか？神のさばきの火で焼きつくされていないんでしょうか？50人の、あるいは10人の、正しい人がいたからでしょうか？いいえ、本当の「ただしい人」、義人というのは、10人もいらないんです。
　アブラハムが、ソドムとゴモラの町の人々が、たとえ毒麦であっても執拗にかばったように、いやそれ以上に、私たちを、私を、あなたを、かばってくださった方がいらっしゃいました。ただお一人の正しい方が、とりなしてくださったのです。その方は、一本一本の麦を、あまりにも大切にし、あまりにも愛されたので、一本たりとも、火で焼いてしまいたくないと思われました。それで血の汗を流されるほどに考え抜き、祈りぬいてくださった結果、ご自分のいのちを犠牲にすることになさいました。
　この方はゴルゴタの十字架の上で、神のさばきの火を、一身に、私たちのみがわりに受けてくだり、魂を焼く火で私たちの代わりに焼きつくされなさることによって、毒麦であった私たちが、決して神のさばきの火で焼かれることのないように、してくださいました。

ここで、もう一つのたとえ話をお話しましょう。

ある所に、一つの畑がありました。そこに、一本の毒麦が育っていました。その毒麦は、小さい苗の頃から、自分はしょせんこんなもんさ、って思っていました。日に日に背を伸ばしながらも、自分がやがて実らせる実には、しょせん毒があるんだ、と思っていました。
ある日のことです。毒麦はおや？と思いました。普通なら、育ちきったら、小麦との違いが出てきて、見分けられてくるはずですのに、ちっともその気配はありませんでした。いつまでたっても小麦とおんなじなのです。その小さな毒の麦の粒が大量に含まれたパンを食べると、失明したり、死に至ることさえあるほどの黒い粒が、ちっとも実らなずに、黄金(きん)色の麦の粒が実っていたのでした。この毒麦だった麦は、いったいぜんたいどうしたことだろうか？と思いました。私のからだはどうなってしまったんだろうか？こんな実が実ることは一生無いと思っていたのに！
　毒麦だった麦は、主人が畑を見回りながら、こちらにやってくるのを見ました。ニコニコしながらほんとうに、ほんとうに嬉しそうに、元毒麦の穂をそっとその手に載せます。その節くれだった手をよーく見ると、痛々しい釘の跡があります。でも、彼にとって、その元毒麦の実らせた黄金(きん)色の実をその手の平に載せるのが嬉しくて、主人はその痛みはどうやら忘れてしまったようでした。
　かつて毒麦だった麦は、主人に聞いてみました。「どうして？私は毒麦だったのに、こんな黄金(きん)色の実をつけることができたのですか？」
　主人は優しく微笑んで答えました。「わたしの血には不思議な力があってね。私の血を浴びたものは、すっかり毒が消えてしまうのさ。」
　かつて毒麦だった麦は、信じられないようすで、主人の目を見つめました。主人の目には、燃える炎のような情熱が見て取れました。そして主人は言いました。「これは、ほんとうに、ほんとうのことなんだ。わたしは、君がここに植えられる前から君を知っていて、わたしの手に帰ってくるのを、今か今かとずっとずっと待っていたんだよ。さぁ、おかえり、私の宝物、君はわたしの目に高価で尊い。わたしは君を愛しているんだ。」
　かつて毒麦だった麦は、突然わかったような気がしました。こんなめちゃくちゃな私であっても、そしてこんなにめちゃくちゃな畑であっても、この主人がこの畑の持ち主であって、この世界という畑をこんなにも愛しているんだと。

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる神さま
あなた様は天の倉におさめるために、良い麦を求められます。しかし、ソドムとゴモラのように、私たちは毒に満ちて、主イエス・キリストのたとえ話でさえも、その毒のゆえに、誰かを裁くためのモノサシのように受け取ってしまいます。しかし主よ、不思議な事です。毒麦だった私たちが、生まれつき決して良い麦には変わることのできないと自分でも思っていた私たちが、なんということでしょう。植えられる前からあなたに知られ、あなたに愛され、主イエス・キリストの十字架の血を受ける者は、その毒が消し去られ、良い実を実らせる良い麦に変えられたという恵みの奇跡を、驚きをもって受け止めます。
　主よ、この畑という世界は、毒に満ちているように見えます。かつては自らのうちにある毒に絶望し、このめちゃくちゃに見える畑に失望していましたが、しかしなお、こんなどうしようもない世界でさえも、しかしあなたが主人であり、これをこよなく愛しておられること、そのために命をお捨てになったこと。希望を捨てておられないで、どこまでも愛しぬいておられることを覚えます。主よ、あなた様の所有物であるこの世界を、また人々を、あなた様が見ておられるまなざしで、見つめること、そしてこの世界にあなたのみこころがなされるために祈り働くことを得させてください。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

#毒麦のたとえ #良い麦と毒麦