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リーダーの成長角度の源となる「コーチャビリティ」とは?

「コーチャビリティ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

コーチャビリティとは、英語でcoach+ability、つまり「コーチングされることができる力≒育てられる力」です。

わたしたちは、これまでリーダーがコーチングを始めとする「人を生かし育てる力」を身につけるサポートや、組織へのコーチング文化の浸透をサポートしてきました。その中で、とても大切な観点があります。

人を育てる、というときには、育てる側のスキルばかりが注目されがちですが、コミュニケーションは双方向であり、実はそれと同じくらい、「育てられる側のスキル」が重要なのです。

以前にもこちらの記事でも書いたのですが、再掲します。

コーチャビリティが高い人は、コーチングの中でフィードバックや問いかけを素直に受け取って自分の成長につなげます。一方、コーチャビリティが低い人は、自己防衛が強く、コーチングが行動の変化につながりません。

ベストセラー書籍「一兆ドルコーチ」のモデルとなり、スティーブ・ジョブズやGoogleのエリック・シュミットなどシリコン・バレーの錚々たる起業家たちをコーチングしてきたビル・キャンベルも、「コーチャブルでない人にはコーチングをしない」と言ったほどです。

実際、コーチングの効果の分散のうち、コーチの技術によって説明されるのはわずか15%で、残りの85%は、メンバーのレディネス、メンバーとコーチとの関係性、メンバーのコーチングへの期待など、コーチング「される側」のマインド(コーチャビリティ)に影響を受ける要因が占めています。

コーチャビリティは、誰にとっても役に立つスキルなのですが、特にリーダーの成長において重要なスキルです。

ビジネスパーソンとして成長するのは「真面目に仕事してたくさん勉強する人」と思われるかもしれません。確かに、若手の頃は、マニュアルを読み込んだり本から学んだりひたすらタスクをこなしたりすることでも十分に成長する余地があります。

しかし、リーダーになると、その学びは、7割が「経験から」、2割が「他者から」、1割が「研修・教材など」からであると言われています。これはなぜかといえば、リーダーの仕事は「他者を巻き込むこと」「タスクとして定められていないことをつくり出していくこと」だからです。知識や明文化された知識ベースでできることが次第に少なくなっていきます。

つまり「経験からの学び」「他者からの学び」を最大化する人が、メンバーとしてはもちろん、リーダーとしても成長していきます。「コーチャブル」な人は、この学びを最大化するための心の持ちようです。

どんなに優秀な人であろうと、ビジネスパーソンになりたてのときには、それほど大きな力の差はありません。そこから継続的に蓄積する差を生み出していくのが成長「角度」であり、コーチャビリティが大きな影響を与えるところなのです。

事業と組織をゼロから作り上げるリーダーである起業家の成功も失敗も数多く見る立場にあるベンチャーキャピタリストとお話しさせていただくと、成功する起業家の資質として真っ先に上がるのは「素直さ」です。「素直さ」というと少し抽象的な印象を受けるかもしれませんし、解釈も多様ですが、この「素直さ」は、ここで言う「コーチャビリティ」に近い資質だと考えられます。

さらに言えば、「自律的なチーム」を目指そうとすれば、誰もがリーダーシップを持っている必要があります。人を巻き込み、不確実性に対処することが求められるチームにおいては、リーダーに限らず、メンバーも「コーチャビリティ」を持っていることが非常に大切になってきているのです。

コーチャビリティとは何か


では、コーチャビリティとは一体何か。大きく4つの要素に分けられます。
①フィードバックを求める力
②フィードバックを受け取る力
③内省する力
④行動にうつす力 
です。

これらが全て高水準で、質の高いフィードバックを得て、気づきを行動計画に変え、行動変容・振り返りのループを回すことができると、コーチャビリティは非常に高くなります。

フィードバックを積極的に求めず、受け取ったフィードバックもネガティブに受け止め、言い訳をし、行動に映さない人は、コーチャビリティの低い人です。それぞれの要素は掛け算なので、どれか一つでも「ゼロ」であれば適切な行動変容の数はゼロになってしまいます。

自分のコーチャビリティが低いなと思う人は、自分のボトルネックがどこにあるのかを振り返るといいでしょう。

①フィードバックを求める力

ひとつずつ見ていきます。
まず、フィードバックを求める力です。
フィードバックというのは、基本的に伝える方に負荷がかかる行為です。自らフィードバックを求める機会を作らなければ、そもそも受け取ることは難しいのです。

フィードバックを求める力は、さらに二つに分けられます。
1. 自分が間違っているかもしれない、と言う前提に立てること
2. 自分のためになることを言ってくれる批判者を選択できること

まずはここが大きなハードルになります。「自分は正しい」と思っていると、人の意見を聞こうという気持ちにはなりません。また、深層では正しいと思っていないがゆえに、自分の価値が否定される恐れから人の意見を受け入れることができないケースもあります。自分に対するネガティブな発言を恐れる背景には、過去の傷つきがある場合もありますし、単純に今まで多くの価値観に触れてこなかった、などの場合もあります。

また、「誰から受け取ろうとするのか」も大切です。本音を言ってくれない人や、自分よりも経験がない人から受け取るフィードバックは、ポジティブなバイアスがかかって逆に自分の固定観念を強化してしまうことがあります。逆に、自分のことをよく思っていない人からのフィードバックには、ネガティブなバイアスがかかっています。

自分が見えていないことが見えていて、それを自分のために伝えてくれる人(愛のある批判者)を選んで、受け取りに行くことが大切です。その時におすすめの一言は

「自分のパフォーマンスを高めるために、一つだけ何か変えるとしたら、何を変えたらいいと思いますか」

という言葉です。

②フィードバックを受け取る力

次に、フィードバックを受け取る力です。
1. 感情を切り離して事実を見ること
2. フィードバックに感謝すること

に分けられます。

フィードバックを求めたら、それをしっかりと受け取ることが大切です。想像以上にフィードバックする側には負荷があります。何も言わずに「関係を切る」「期待しない」ほうがよっぽど楽であるにも関わらず、あなたのためを思ってフィードバックをくれる。そのことに対する感謝が不可欠です。

人は、基本的に自分に対するネガティブな言葉を受け取れば、ネガティブな感情的な反応が生まれます。その自動的な反応に対して、感情を切り離して事実を見ることができるかどうか。そして、負荷のかかるフィードバックという行為をしてくれた相手に対して感謝できるかどうか。

フィードバックを受け取ったタイミングで不機嫌になったり、感謝の気持ちが伝わらなかったりすれば、その人は二度と本音であなたのためにフィードバックをしてくれなくなります。

「周囲にはフィードバックしてって言ってるんだけどね〜」と言っている人は、大体この「受け取り方の罠」に引っかかっています。

逆に、気持ちよくフィードバックを受け取ってくれて、感謝してくれて、それを行動に移してくれる人のことは、人として応援したくなるものです。コーチャブルであるということは、応援される資質を持っているということでもあります。

③内省する力

次に、内省する力です。

  1. 行動につなげるべきことを見極める

  2. 行動にまつわる感情・固定観念を見極める

これは、他者からのフィードバックに限らず、経験から学びを得るときも言えることです。たくさんある情報の中で、必要なものを受け取り、その背景にある自分の感情・固定観念に気づき、行動計画に落とし込めるかどうか。

例えば上司に「きみは短期でとらえすぎる傾向がある」と言われたとします。
その時に、「じゃぁ長期で捉えよう!」と短絡的に考えても、おそらくうまくいきません。

・その発言の背景にある事実は何か?
・短期で捉えるべきでない理由は?その場面は?
・長期で捉えるべき理由は?その理由は?
・そこから導き出される具体的な行動は?

などと内省を深めて、正しい課題を捉え、適切に目標設定をして、具体的で適切なアクションに落とし込む必要があるのです。

④行動に移す力

最後に、行動に移す力です。
どんなに素晴らしい行動プランや高い意欲も、行動に移すことがなければ一切の価値はキャンセルされます。ここでは、以下が重要です。
1. 阻害要因・促進要因を意識する
2. 変化する意味を意識する

ここでは、自らの行動の阻害要因・促進要因を明らかにし、変化することへの意識づけを高めることで、行動することへの動機づけを維持します。

例えば「情報収集のために毎朝ニュースをチェックする」ことをアクションアイテムにしたとします。放っておけば、毎日やろうと思っていたことが、2日に1回になり、3日に1回になり、いつしかその計画自体もなかったことになっていくでしょう。そうならないように、「トリガーを設定する」「それをやらないと朝ごはんは食べない」など、ルールを設定し、それを習慣化する、などの工夫が必要になるかもしれません。

あるいは、「新しい営業アポイントを取る」という時に、自分の恐れの感情が阻害要因になっていると気づいたら、その恐れの合理性を検討し、それでもアポを取る意味を自分なりに定義して、一歩踏みだす必要があるかもしれません。「恐れ」は行動の阻害要因になりやすい感情でもあり、こことの向き合い方は特に重要になります。

このように、自分の行動メカニズムを客観視し、セルフマネジメントしていくことが、コーチャビリティの仕上げです。

ここまでを一覧にするとこのようになります。

自分のコーチャビリティを高めるためには?

ボトルネックを発見する

ここまで読んでみて、自分にとってのボトルネックはどこか、見当がついた人もいるでしょう。
フィードバックを受け取っていない→①フィードバックを求める力がない
人が素直にフィードバックを伝えてくれない→②受け取る力がない
真の課題の発見ができていない→③内省する力がない
頭ではわかってても動くときに抵抗がある→④行動に移す力がない

これらは、それぞれ意識して変えていくことができる行動です。
・自分の成長に必要なこととして、積極的にフィードバックを求めにいく
・フィードバックに感謝し、冷静に受け止める
・chat GPTにも手伝ってもらいながら、内省を深める
・行動を促進するために、トリガーや報酬を設計する
などの行動を意識するだけでも大きく変化するはずです。

メタ認知と自己受容感

ただし、これらの4つのプロセスの効果性を高めるために重要な切り口があります。それが「メタ認知」と「自己受容感」です。

実は、この二つが高まると、①〜④の全てのプロセスが底上げされます。

①〜④全てのプロセスの阻害要因になるのが、「バイアス」と「恐れ」です。
バイアスは、自己評価の高さ/低さ、フィードバックの必要性の評価、内省の質、行動の質に影響を与えますし、「恐れ」は感情的な態度につながり、フィードバック要求行動や改善行動を妨げます。


成長とはつまるところ「より豊かな視点・情報をもとに」「より良い選択肢を選び取れるようになり」「それに基づいて新たな行動をできるようになる」ことです。そして、他者を巻き込むことでそのプロセスはさらにスムーズに回り始めます。視点を相対化し、バイアスに気づくため、また不安・恐れを乗り越えて他者を巻き込みながら行動していくために「メタ認知」と「自己受容感」が役に立つのです。

逆にいえば、どうしても①〜④の行動が取れないという人は、自分のメタ認知や自己受容感の低さについて内省してみてもいいかもしれません。

メタ認知が低い場合には、以下の問いを定期的に投げかけるようにすると、自分の視点を相対的に捉えられるようになるかもしれません。

  • 他の考え方はないだろうか?自分に見えていない視点は?

  • xxさんの立場から見たら(x年後の未来から見たら)どう見えるだろうか?

  • そもそも、その目的はなんだろうか?それはどんな意味があるんだろうか?

自己受容感が低い場合には、「他者を大切にするためには、まず自分を大切にできなければならない」ことを認識して、大切な他者に接するかのように、自分に接してあげましょう。

疲れたときに、自分に鞭打つように、自分を責めたり追い込んだりしていないでしょうか。

大切な人が疲れていたらまずはゆっくりことを勧めるでしょう。
「よくがんばってるね」と声をかけてあげるかもしれません。
傷ついていたら「辛いんだね」と抱きしめてあげるかもしれません。

そんなふうに、自分を扱ってあげるところが出発点です。

誰かのコーチャビリティを高めるには?

部下を持つ人やコーチの立場にある人にとっては、その相手がコーチャブルかどうかがとても重要です。

コーチングしても全然反応がなかったり、フィードバックしても嫌そうにされる体験をしたリーダーなら「部下のコーチャビリティってどうやって高めるの…?」という問いが生まれてくるはずです。

ここでは、部下のコーチャビリティを高めるいくつかのアプローチをご紹介します。

相手の可能性を信じ、肯定的に関わる

メタ認知・自己受容感を下げることにつながるのが、不安や恐れの感情です。「この人は自分のことを厳しく評価・判断しようとしている」「間違ったら悪い評価が下される」「失敗は許されない」などのいわゆる心理的安全性の低さは、相手を防衛的な態度にさせます。結果として「正しい情報を受け取る」よりも「自分を守るために振る舞う」ことを優先にしてしまうのです。


自己受容感が低いときの心の動き

ですから、自分を守らなくても大丈夫、素直になって大丈夫、失敗があったとしても、あなたの可能性を信じているよ、というあなた自身の態度とその一貫性が、北風と太陽のように相手のコートを脱がせ相手のコーチャビリティを高めることにつながります。

この時、焦ってコートを脱がせようとすると相手がより警戒してしまうのは、童話「北風と太陽」が教えてくれる通りです。

コーチャブル・モーメントを待つ

コーチャビリティは、その人それぞれの基準値がありますが、いつもその基準値でステイしているわけではありません。つまり「いつもコーチャブルな人」「いつもコーチャブルでない人」が存在しているわけではありません。

人は、状態が悪い時や必要性の自覚が低い時ににコーチャブルではなくなりますが、状態がいいときや変化の必要性を感じている時には、コーチャブルになりやすくなります。

例えば、失敗が続いて「何がダメなんだろう」と考え始めた時などは、コーチャビリティが高まりやすい瞬間ですが、落ち込んで状態が悪い時ではなく、前向きになり始めた瞬間を捉えるのが大切です。これを「コーチャブル・モーメント」と言ったりします。その人がコーチャブルになるタイミングを見極めてアプローチすることも重要です。

ピアコーチングでコーチ(上司)の立場を経験させる

コーチャビリティを高める上でパワフルなのが、ピアコーチングによってコーチの立場を体験してもらうことです。コーチの立場で相手に問いかけ、相手のために考えることで、自分の視点が相対化され、相手の視点から学ぶことができるだけでなく、自分のことも客観的に見つめられるようになります。
上司であるあなたに対してコーチングをすることで、「上司はこんな視点を持っていたのか」と新たな視点獲得にもつながりますし、共感が高まり、過度な防衛を解除することにもつながります。

「相手はこんなふうに考えているのかも」「コーチだったらなんていうかな」の視点を日常にインストールすることで「コーチされる力」が高まっていくのです。

わたしたちがコーチング文化の浸透を支援するときには、この「ピアコーチング」を活用するようににしています。

コーチャビリティ自体をチームの規範にする

本質的にコーチャブルになるかどうかはさておき、それをチームの規範(ルール・文化)として言語化してしまえば、「コーチャブルな行動」は促されます。そして、コーチャブルな行動をとっている間に、実際にコーチャビリティが高まる、というのはよくあることです。

あなたはコーチャブルか?

最後になりましたが、リーダーやコーチはひとつのロールモデルとしても機能しています。コートを脱がせようとするあなた自身がガチガチにコートを着込んでいれば、あなたの関わりは説得力を持たなくなります。

わたしたちがパーソナルコーチングやトレーニングをさせていただくリーダーの中にも、「うちのメンバー、全然コーチャブルじゃないんだよ」と言っている本人が一番人の話を聞く耳を持っていない、ということはよく起こることです。

他人を変えるよりもまずは自分から。相手がコーチャブルであるために、あなた自信変わる余地はないか、「愛のある批判者」からフィードバックを受けてみてはいかがでしょうか。




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