「孤独」とは、課題を共有できないことである
以前、経営者の集まる場で「経営者って孤独だよね」という話が出た時に、「いや、自分は孤独を感じたことはない」という人も一定数いて、綺麗に二つに分かれたことを覚えている。
経営者は孤独だとはよく言われることだけれど、経営者だからって孤独なわけではないし、経営者じゃなくても孤独なことはある。周りに人がたくさんいたって、孤独な人は孤独である。むしろ、みんなの人気者に見える人ほど、孤独感を感じていたりもするのだ。
では、「孤独」はどんなときに感じられるものなのだろうか。
「孤独」の構造
孤独な人と孤独でない人、図示してみるとしたらこんな感じだ。
課題には、
「他者と共有できている課題」
「共有できていない課題」
「自覚すらできていない課題」がある。
「孤独でない人」は、課題全体に対して、自覚し、かつ他者と共有できている課題の割合が高いので、全体像が見えて自己コントロールを持てる感覚が強い。かつ「自分の課題をみんなにわかってもらえているし応援してもらえている」という安心感を持っているので、どんなに課題が多くあったとしてもやるべきことに集中することができる。
「孤独な人」は、他者と共有できていない課題・自覚すらできていない課題の割合が多い。他者と共有できない課題は「誰も助けてくれない」「誰もわかってくれない」という感覚につながっているし、自覚できない自分の課題は、世界や全体像の「わからなさ」として不安を生む。全体像がどうなっているかがわからないので、何から取り組むべきなのかも明確にならず、焦りや苦しみが生まれるのだ。
「経営者の孤独」の構造
「経営者が孤独」とよく言われる所以はここにもある。
経営者は他のメンバーよりも視座が高く、長い時間軸や広い世界を見ている。したがって、自然と「他のメンバーと共有できない課題感」を持つことになる。図解するとこうだ。
さらに、「経営者たるもの強くなければ」「経営者たるものビジネスに集中しなければ」などの「べき論」により、自分の内面の弱みやプライベートの困難を共有できないことも多い。
そして、自分の持っている課題の中で「共有できない割合」が増えれば増えるほど、メンバーからは孤立し、孤独感が生まれてしまうのだ。
良い経営者に「弱さの開示」が必要と言われて久しいが、このことについて経営者と話すと、「それ本当?メンバーに苦しい、しんどいって言うべきってこと?みんな不安になるでしょ?」という懸念が聞かれることもある。
その懸念は妥当である。単に経営者に「苦しい」「しんどい」と言われてもメンバーは困ってしまうかもしれない。経営者の能力への懸念を高め、不安を煽るだけになる可能性もある。
それにどんなに「苦しい」「しんどい」ということが伝わったとしても、それだけでは孤独からは解放されない。
共有が必要なのは「なぜしんどいか」つまり「課題」の部分である。苦しさ、しんどさの背景に何があるのかを伝えることだ。そして、「これは解決する必要があるね。一緒に解決していきましょう」あるいは「大変なのはわかった、応援しているよ」と、ともに戦う仲間になることが、チームとリーダーの断絶を埋めることになる。
だから、経営者は「何に課題を感じているか」をできる限りチームと共有していくべきである。「どうせわかってもらえない」と思われることも、伝える努力次第で変わることもあるし、意外とわかってもらえることも多い。
ただ、もちろんどうしても立場やバックグラウンドの違いから、メンバーとは共有できないこともある。そのときは、外部のメンターやコーチと共有することで、自覚できなかった課題は自覚され、自覚された課題は共有され、孤独な戦いから解放される。外部のコミュニティやメンターやコーチの役割は、この辺りにある。
経営者に限らず。
経営者は特に、立場上・社会通念上「他者と共有できないと思い込んでいる課題が多い」という観点で「孤独」になりやすいが、先に述べたようにこれは経営者に限ったことではない。
プライドが高く、ネガティブな評価をされることが怖くて課題を共有できない人。人に迷惑をかけたくなくて共有できない人。
自分の苦しみと向き合うことが怖くて課題を自覚できない人。向き合う習慣を持ってこなかった人。
そうして自分の中で課題を抱え込んでしまう人は、孤独感を感じながら、課題との向き合い方もわからずに一人で苦しむことになる。
課題を共有して、ともに解決を目指してくれる人。寄り添ってくれる人。そういう人が増えていくことで、人は孤独感から解放されていくのだと思う。そして、最初は怖くても「困ってる」と伝えることで、人の意外なやさしさに気づけることはとても多い。
「こんなことに困ってます」を、より気軽に表明できる人が増え、みんなが一緒にみんなの課題を乗り越える社会になっていくといい。
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