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若いうちの苦労は買ってでも、させていいのか

こないだ弊社で遅くまで残業したメンバーがいたことを受けて、残業しないためにみんなで何ができたか考えよう、という提案が出た。

弊社、メンバーを大切にする姿勢、素晴らしいな。と思いながらも、私の中ではちょっと引っかかるところもあった。

入社したばかりで、学ばなければならないことも多い時期。むしろその意欲を前向きに承認してあげるべきで、残業を悪とすることは本人の成長の可能性や意欲を奪ってしまうのではないか、と思ったのだ。

そう感じた背景には大いに私自身の経験が影響している。外資系証券にアナリストとしてほぼ新卒で入社したばかりの頃、一切のことを教わる前のDay1から「決算レポート書いてみて」だったし、Day6には体調を崩した上司の代わりに「お客さん連れて事業会社の取材行ってきて」だったし、日経の観測記事が出れば上司からのキレ気味の電話で叩き起こされて6:30に六本木通りを全力疾走した(通勤に時間がかからないよう徒歩圏に住んでいた)。容赦無いダメ出しに、最初のうちは、トイレで泣くことも多かった。

決算の時期には朝6:00に出社して海外決算のコールを聞いて、まとめたものを7:30の朝会前にはクライアントに送った。国内決算は15:00に短信が出て印刷して上司に持っていくまでの3分間に全体に目を通し、上司に報告するための概要とインプリケーションを脳内で整理した。夜は書いたレポートの翻訳を待ってレビューするために夜中3時までオフィスにいることもあった。すごく頑張っても上司からの返信はあっさりしていて「はい」「わかりました」「そうですか」「ありがとう」くらいだった気がする。10文字以上のメールはあまり来なかった。

確かにきつかった。今だったらAIに任せられることもあるかもしれないし、オフィスにいなくても必要な時だけ家から稼働すればいいのかもしれない。激詰めも深夜残業も、今なら問題になるのでは…と思えることもないわけではない。

でも、月並みながら、この頃の経験は概ね、今振り返っても本当に「やってよかった」と思うし、感謝しているのだ。

おかげで決算を見れば一瞬でその意味するものを掴めるし、文字起こしやコールをまとめるのは息をするように猛スピードでできるし、仕事をする上で人の時間を無駄にしないようにわかりやすく伝える意識がついた。その他にも、いろんな意味でこの時期に「基礎体力」がついた。

そしてこうした「きつさ」が自分の成長につながることが感じられていたから、安心して頑張れるし努力に対して過剰に承認を求めることもなかった。褒められるためにやるのではなく、自分のためにやっていた。そのころは仕事が楽しかったし、とても健全だったと思う。

だから「若い頃の苦労は買ってでもしろ」などとおっしゃる諸先輩がたのお気持ちがすごくわかる。残業しないとか、ワークライフバランスとか、若いうちから甘いこと言ってんじゃねぇいつか後悔するぞというお気持ちもめちゃわかる。だからこそ、「残業しないように」という冒頭の言葉には違和感があるのだ。

でもここで改めて主張したいのは「世の中には完全に無駄な苦労と買ってでもするべき苦労がある」ということ、そして「買ってでもすべき苦労は、買わされるのではなく、自ら買いに行くべき」ということだ。

無駄な苦労、買ってでもするべき苦労

「苦労は買ってでもすべき」論の最大の暴力性は、上司によって「俺もこの昔はこの作業を頑張ったんだから頑張れ、それで成長した、しんどくて当たり前」と、経験に基づいて、諸々の背景が削ぎ落とされて「しんどさ」そのものが正当化されてしまうことだ。例えば「俺も猛暑日の飛び込み営業一日100件やってたんだからお前もやって当然」みたいなことだ。

時代背景も違えば科学技術の進歩も文化の変化も気温の変化もある中で、過去と同じ行動をとったとしてもその合理性は全く異なる。上司がそれで成長したからと言って、今この時代にそれが本当に部下がするべき苦労かどうかはわからない。するべき苦労かどうかは、行動そのものの内容ではなく、「苦労の質」によって判断されるべきである。

「するべき苦労かどうか」の判断基準は、

①本人の学び(できること・わかることが増える)に繋がっているかどうか
②チームの目的に沿い、価値を生んでいるかどうか
③本人の安全感や健康を害していないかどうか

である。

このうちの一つでも害されていれば、それは「するべきではない苦労」の可能性が高い。上司は関わり方や仕事の切り出し方、文脈を作り直すべきである。部下の方からも「学びにつなげるためにはどんな方法があるのか」「この仕事はチームにとってどんな価値につなげうるか」「これは自分にとってどんな意味があるのか」を問い続け、より良いやり方を提案するべきだし、健康を害されて生産性が下がったり、安全感が害されてモチベーションが下がったりしていたら、上司に相談すべきである。

あと、聞けば1分でわかることを3時間考えるのはやるべき苦労ではない。ただの無駄だ。でも聞く前には一度ググろう。

苦労を買わされるな、買え

そもそも、苦労を買ってでもしろ、っと言われた時点で、反発したくなるのが人の性である。そして、やらされる苦労ほど辛いものはない。

楽しく仕事をするための重要なポイントは「自己決定感」である。やらされているのではない、「自分で決めている」という感覚。年収よりも学歴よりも、人間の幸福感を規定する要因である。あとは、健康と人間関係(*)。

やるべき業務内容は決められているかもしれない。でも「どうやって取り組むか」「どんな気持ちで取り組むか」「ここから何を学ぶのか」は常にあなたに委ねられている。

仕事力というのは筋肉にも似ていて、限界よりもちょっと負荷をかけた時にグッと成長したりする。残業や過剰な負荷を恐れて簡単に持ち上げられるウェイトばかりを持ち上げていたのでは、筋肉の成長も起こらない可能性が高い。「苦しい」と感じるくらいの負荷が必要なのだ。でも、間違ったフォームで、間違った負荷で行う筋トレはただの無駄だって、武田真治も言ってた。

「苦労上等、やってやりまっせ。そして学ぶし貢献もするし楽しむし健康も維持してやりまっせ」という姿勢でいてもらえたら、お年寄り勢としても「おお、あんたいい気概だねぇ、おばちゃん応援するよ」という気持ちにもなるのである。

残業がいけないわけじゃない。無駄な苦労が、ダメなのだ。むしろ、成長につながってモチベーションを持てる残業はどんどんやったらいい。

お若い人たち、若いうちの苦労は、自ら買って、正しくやりましょう。

お年寄りたち、若い人が正しい苦労をできるように、温かく支えていきましょう。


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スタートアップ x カウンセリング/コーチング。 京都大(教育)→ゴールドマン・サックス(株式アナリスト) →CoachEd(コーチェット)代表取締役/cotree代表取締役/NPO法人Soar理事/CAMPFIRE社外取締役/エグゼクティブコーチ/システムコーチ。