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プルラリティーは汎用人工知能(AGI)を凌駕する〜オードリー・タン氏 & グレン・ワイル氏ミートアップ

元台湾デジタル担当大臣であるオードリー・タン氏と、彼女と「プルラリティー(Pulrarity)」という新しい概念における書籍を書いた米国の経済学者グレン・ワイル氏のミートアップに参加させてもらった。Code for Japan代表理事であり一緒にDig DAOを進めている関治之氏に誘ってもらった貴重な機会だ。シンギュラリティーという未来ではなく、私たちには多様な未来が待っている。このシンギュラリティーに意義を唱える概念がプルラリティーなのであるが、私たち市民が一人一人参加しながら社会を作る台湾の事例をもとに話が進み市民参加の社会は実現できそうなワクワク感に満ちたミートアップだった。さまざまな社会参加デザインが大切となるがそのヒントをいくつか紹介したいと思う。
※ミートアップの2時間後に書いたので興奮が先行して詳細までかけてないところもあることをご了承願いたい。ただ、オードリー・タン氏、グレン・ワイル氏の会話は「いま、自分にできることを、行いたい」という衝動に駆られる。いくつか足りない点もあると思うがご了承いただきたい🙏

そもそものプルラリティーについてはオードリー・タン氏やグレン・ワイル氏が書いたものを有志で翻訳している以下サイトや、私が以前書いた noteも適宜参考にしてもらいたい。

オードリー・タン氏 & グレン・ワイル氏ミートアップ(2024年7月23日)

対立に注目する

オードリー・タン氏からの学びは大きかったのだが、特に大きかったのは、対立(コンフリクト Conflict)を避けないことの大切さ。日本人含めてアジア人のマインドとして「火事になりそうなボヤは消す」というのがあるが、オードリー・タン氏はこの「火事になりそうなボヤ」を消すのではなく、その「ボヤ」にはエネルギーがあると考え、恐れずに対立を受け入れようという。

“台湾や日本、東アジアの文化圏において、しばしば対立を避けたがります。地面に火があれば、それをバンバン叩いて消すことで火を消し去ろうとします。しかし、別の見方もあります。地面の火を見て「地下に油があるかもしれない、エネルギー源を得るために掘ろう!」という考え方です。対立を恐れず、対立を新しいアイデアに変えること、これが協力的な多様性のためには大切です”

オードリー・タン氏 & グレン・ワイル氏ミートアップより(2024年7月23日)

そして、対立しそうなところに注力しながら、実際に対立を促すのではなく「デモンストレーション」を意識がけることも大事とも語る。
このデモンストレーションは「実際に対立の原因に対して検証してみよう!デモンストレーションしてみよう!」というような動き(エネルギー)に変えるための手法と言ってもいいだろう。

具体的には、以下のように進めながら、「対立」を「ポジティブなアクション」および「社会の変化」に落とし込んでいっているようだ。

  1. 対立が起きているところに注目する。(Start from the energy, conflict)

  2. スーパー・モジュラリティ(Supermodularity)のフィルターでその対立をデザインする

  3. 予算を割り振る。

この2)のスーパー・モジュラリティ とは、 あるシステムやプロセスにおいて、複数の要素や変数が相互に補完し合う特性を指す。「一緒にやるとより効果が高くなる」ような関係性を示す概念だが、この「一緒にやる」ための具体的な方法や事例も紹介してくれた。

参加のための投票はオンラインで行い、年齢制限を作らない

台湾では、SMS番号さえあれば誰でも参加できる仕組みを台湾は採用しているようだ。よって10代による強力な請願もあるようだ。
例えば、16歳の若者がタピオカドリンクのプラスチックストローを禁止する請願を出して通ったようだ。また、15歳の学生たちは慣習的に朝7時30分に学校に行くものの、授業は実際には9時近くに始まるため、2時間多く寝たいという請願を行ったようだ。研究によると、1時間多く寝ると学習時間を1時間増やすよりも成績が向上するという結果が出ており、この請願には5000人、主にティーンエイジャーが署名し、成功を収めたという。彼らは2時間の追加睡眠は得られなかったものの、1時間の追加睡眠は認められ、規則が変更された。このようにして、投票権を持つ18歳になる前から自分たちが強力な市民であることを実感し、社会に影響を与える会話を14歳や15歳の時点で始めることができるのがポイントだと語る。
一般市民に理解しやすいデザインを作るインセンティブは、、これは個々の市民に対するインセンティブではなく、全体のインセンティブとなるという。

まず対立が必要ですが、その後、皆が参加することでのみ良い結果をもたらすスーパー・モジュラリティの解決策を見つけるための参加インフラが必要です。

オードリー・タン氏 & グレン・ワイル氏ミートアップより(2024年7月23日)

汎用人工知能(AGI) ではなく、プルラリティーを。二元性ではないグラデーションを。

「プルラリティー(Pulrarity)」についてオードリー・タン氏はシンギュラリティーという単一化された未来を作るのではなく、多様な未来を作る概念と語る。彼女が描く未来は、汎用人工知能(AGI)が人間に指示する未来ではなく、対立も起こるが対立の後にデモンストレーションを行い、お互いの意見を聞き目指す方向を作っていけるクレイジーキルト( ©︎ エフェクチュエーション)のようなカラフル未来だ。

この未来の話を聞いていると、私の中ではゼロイチではない、量子(Quantum)な動きが頭の中に浮かんできた。乱暴な言い方だが、私にとっての量子はグラデーションを許容する存在だ。オードリー・タン氏とグレン・ワイル氏の話を聞いていると量子コンピューターが目指す世界にも近しいものを感じたので、そのように質問してみた。すると、グレンから興味深い量子デコヒーレンス Quantum DecoherenceやQuadratic Votingなどのキーワードも教えてもらえた。Dig DAOで挑戦しているマッチングドネーションは Quadratic Fundingだ。Quantum, Quadratic.. Qというのは新しい社会を作る上での重要な キーワードになりそうなぼんやりとした予感がした。まだまだぼんやりしているのだが、その会話を以下に切り取っておく。


オードリー:「デジタルの多様性」と言いましたが、これはデジタルが単一性ではないことを意味します。
デジタルは一つの単一なものではありません。デジタルがすべてを知り、すべてを見て、すべてを行う一つの汎用人工知能(AGI)というのは、実際にはデジタル技術が進むべき方向ではありません。その考え方から離れるべきです。

私:オードリーさんの話を聞いていると、プルラリティーという概念の中に量子コンピューティングが想起されてきます。

グレン:(プルラリティーと量子コンピューティングに関する)論文もありますし、確かに類似点がありますが、正確にどのように機能するのかについてはまだ完全には理解していないと思います。しかし、量子力学には私たちが言っている多様性と多くの類似点があります。物事が非常に関係性を持つという概念です。
量子デコヒーレンス(Quantum Decoherence 量子の相干消失)とクアドラティック・ボーティング(Quadratic Voting)には数学的な関連性さえあります。これら二つの間には素晴らしい概念的な類似点があり、非常に形式的な数学的つながりもあると考えています。
このスペクトラムの両端を超えて、それが実際の作業にどう関わるのかはまだ分かっていませんが、誰かがそれを解明できるかどうか非常に楽しみです。

オードリー・タン氏 & グレン・ワイル氏ミートアップより(2024年7月23日)

散文的なメモとなってしまったが、オードリー・タン氏とグレン・ワイル氏の会話の中から、私なりに未来が見えそうな部分をかいつまんでお伝えさせていただいた。少しでも未来へのヒントが上記散文から読者の方にも伝わっていけば幸いである。

オードリー・タン氏 & グレン・ワイル氏ミートアップ(2024年7月23日)

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