指揮者あらわる
中学一年生の秋。
クラスで一生懸命練習した合唱はその地区のコンクールへ出場する事が決まった。
コンクールを前に予定された授業参観のあと、保護者の前で披露する事に。
私の母は、根っからのマジメ人間。
オシャレかどうかは別として、授業参観へはワンピースにブローチという母なりの『きちんとスタイル』が定番。
当日、授業参観が終わり保護者は一旦教室外の廊下で待機。
私たち生徒は黒板を正面に教室後方へズラリと整列した。
「保護者の皆さま、準備ができました。教室の中へどうぞ!」
黒板に近いドアから、担任教師が廊下へと声をかける。
ザワザワ…
遠慮して誰も入って来ない。
ザワザワ…
ついに一人の女性が入って来た。
ワンピース、キラリと光るブローチ。
颯爽と!
女性はサッと両手の人差し指を空に向け、ハの字に構える。
ザワ…
…シーン 一瞬の沈黙。
え??
ドっと笑いがわき起こった。
謎の指揮者からバトンタッチされた担任教師。その指揮に息を合わせ、合唱が始まる。
緊張の糸がほぐれた私たちは、今までで一番伸びやかに声が出ていたに違いない。
マジメな母の勇敢な指揮者姿を思い出すと、人は皆ユーモアの欠片を持っているのではないかと信じたくなるのだ。
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小牧幸助さんの企画『1分マガジン』に参加させていただきました。
泣ける小牧さん、笑える小牧さん、お話の余韻がたまらない小牧さん、切ない小牧さん、狼心をくすぐる小牧さん…自分がこんなにも色々な感情を持っていることにハッとさせてくれる小牧さん、毎日の和むひとときをありがとうございます。
小牧幸助さんのどの小説も好きですが、時々見え隠れする『ユーモア』が大好きです。
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