探偵神宮寺三郎DS いにしえの記憶の感想

 FCの探偵ゲームって、子供向けに主人公を少年にしたりタレントにしたり隣の部屋にブービートラップが仕掛けられてたりってゲームが目に付いた気がします。そんな中で神宮寺三郎は、ネオンに照らされた夜の街で煙草の煙を燻らせたりバーで聞き込みをしたり。子供の頃、そんなハードボイルドで大人な世界観に憧れてました。
 Switchで続編が出てたのは知ってたんですが、調べてみたらFC以降もPSやDSでリリースされてたんですね。しかもDS版はドキドキしながら文房具屋のショーケースに展示されたカセット(当時は本当にどこでもファミカセ売ってましたね)を見つめた『横浜港連続殺人事件』や、当時からサブタイトルのカッコよさで強烈な印象を残した『時の過ぎゆくままに…』がリメイク収録されてると知って、一も二もなく飛びついたわけです。

君なんか写真と違わない?

 そんな自分を待っていたのは強烈な違和感。いや時代に合わせてキャラデザが変わるなんてよくあることなんですが、神宮寺三郎=オールバック・白シャツ・サスペンダー・細い二重だったのが、ツンツンヘアーでストライプのシャツにブラウンのジャケット、(写真だと分かりづらいが)厚ぼったい一重まぶたに垂れ気味の瞳ではイメージがぜんぜん違う。

 ただこれは半ば言いがかりで、キャラデザの変更はハードをPSに移した段階でなされてたという事だから、はねバド!の1巻だけ読んだ人が終盤の巻を手に取ったようなものなのかもしれない。

こち亀にツッコむ人はいない

 こちら葛飾区亀有公園前派出所の両さんが車に跳ねられてもピンピンしてたり懲戒免職にならなかったり左遷された次の週で何事もなく派出所にいることに対して「これはおかしい!」「作者は社会常識が無い!」なんて言ってる人がいたら、その人が共感性や常識に欠けるサイコ野郎だと思います。それは言外に共有を期待されている「これはギャグ漫画ですからね」という下敷きを読み取れていないから。
 一方で「相棒」シリーズの右京さんが誤認逮捕して「こら~まーたお前か!」「もう張り込みはコリゴリだよ~」(アイリスアウト)なんて展開、ありえます?いや相棒見たことないからあるのかもしれないけど無いですよね多分。それは警察を扱った創作でも、相棒に期待されるのは複雑な人間関係が解されていく経過だったり犯罪者の苦悩だからなんですよ。

 翻って神宮寺三郎はどうか。少なくとも私はリアルな探偵を期待してました。冴羽獠がスーパー系新宿探偵だとすれば、神宮寺三郎はリアル系新宿探偵、そんな風に考えていた時期がありました。
 実際は、仲のいい刑事が捜査状況を逐一知らせてくれたり物証を持ち出させてくれたり、罠にハマって容疑者として確保されてるのに外部と自由に連絡が取れたり刑事と一緒にクルマで移動したり。新宿一帯を取り仕切る「善い」ヤクザの若頭とツーカーだったり、「善い」ヤクザと連携して「悪い」ヤクザをやっつけたり。内緒で取引の現場に向かったのに、ピンチになるや駆けつけてきた助手の理由付けが「なんだか胸騒ぎがして……」の一言で済まされたり、極秘調査を行っているらしい台湾警察が民族衣装に身を包んで大立ち回りを演じたり。個人情報は話せないという看護師がミステリの愛好家で探偵の名刺を見せたらホイホイ協力してくれたり、暗号パズルを代わりに解いたら宿泊客について教えてくれるホテルマンがいたり。
 ご都合主義にはある程度目を瞑るにしても、個人的な閾値を何度か超えてしまい「まあゲームだし……」という言い訳を自分にせざるを得なかったのは残念。

僕にその手を汚せというのか

 ゲームシステムは古き良きコマンドアドベンチャー。総当たりで必ず解けるし、ゲームオーバーも無い(恐らく)。密室や時刻表トリックみたいなハウダニットよりは、地道な聞き込みで新たな人間関係が浮かび上がるフーダニット、ホワイダニットの要素が強め。事件そのものも殺人事件だけじゃなく人探しや密輸ルートの捜査など色々だし、何日にも渡って都市を動き回って捜査するというのが、探偵でも館モノみたいな新本格とは全く別ジャンルでいっそ新鮮ですね(ワークジャム作品だと『クロス探偵物語』はトリック重視の典型的な新本格)。何をしていいか分からなくなったら「タバコを吸う」コマンドで一服することで状況を整理して行動のヒントが得られるのも親切。
 ボリュームも、移植作5本に表題作の「いにしえの記憶」、シチュエーション別の探偵クイズに特化した「謎の事件簿」(細かいことを抜きにして洋館に着いたら主人が死んでいて容疑者は4人、現場の様子を調べて、さあ犯人は!?みたいな形式)が6作。移植作は一つあたり1~2時間でクリアできるものの気楽にプレイできるし合わせれば結構なボリューム。謎の事件簿は1つあたり10分~15分くらい。
 問題は「いにしえの記憶」で、お話そのものも長くないし、肝心の神宮寺三郎は冒頭で警察に逮捕されてしまい、代わりに気の弱い青年が動き回るというもの。しかもこの青年が気の弱いニート(作中でニートを自称してる)で、運悪くヤクザのクルマに自転車をぶつけてしまったせいでヤクザの言いなりになって神宮寺三郎を嗅ぎ回ったり罠に嵌めることになったり……ということを、高圧的なヤクザに命令されるままプレイヤーとして行動しなきゃいけない。
 「やりたくないこと」をプレイヤーにやらせる(やらなければ物語が進まないようにする)のって、プレイヤーに結構なストレスを強いることになるからゲーム制作者は気を使うポイントだと思うんですよね。ドラクエ3のカンダタを絶対に許したくない子供はいただろうし、自分の価値観・倫理観とゲーム中の選択肢の対立はとにかくデリケートな問題だと思います(これを逆手に取って印象的なシーンにしている例も。聖剣伝説でもう助からないアマンダを主人公が介錯しなければならない場面など)。

夢の終わりに

 総評としては、「暇つぶしにちょうどいい」ゲームだと思いました。どっちかというと良作よりの評価です。「いにしえの記憶」はやや不快寄りだけど、深みのある人間関係の掘り下げを主軸に据えた移植作5本はどれも読ませる内容だし、「時の過ぎゆくままに…」なんかはちょっとホロッときましたし。ただ、謎の事件簿は本編とノリが違いすぎてキツいかも。キツかったです。

冷静で穏やかな洋子くんの豹変ぶりには笑いより悲しみが

 あとはPSで出た「未完のルポ」とか「夢の終わりに」が移植されれば……ええっ、ゲームアーカイブスでプレイできるんですか!?マジで!?

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