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探偵 神宮寺三郎 GHOST OF THE DUSKの感想

 そういえば3DSのニンテンドーeShop閉店滑り込みで買ってたなということを思い出し、続けてAVGはご無沙汰だったなと気づくとプレイしたい思いがみるみる湧いてきまして。不思議なもので、昨年神宮寺三郎DS(いにしえの記憶)をプレイし終わったときは、ハードボイルドに見せかけてはいるがご都合主義的でチープなゲームだからシリーズをプレイすることはないだろうと思っていたのに、なぜか今はその味がとても魅力的に思える。

 神宮寺三郎はFCからずっとハードを移りつつ続いてて、2000年代はケータイ向けの短編で命脈を繋ぎつつDS以降もたまに新作をリリースしてますね。名前は知ってるけどプレイしたことはない、って人が多いシリーズって印象です。
 このゲームは表題作にもなってる『GHOST OF THE DUSK』のほか、ケータイでリリースされた短編の移植版を4本、シチュエーション重視の推理クイズを1問収録。まあDS以降の基本フォーマットですね。

各編の感想


GHOST OF THE DUSK

 新宿のはずれに建つ洋館でホームレスが急性アルコール中毒で死んだ。神宮寺は事故に見せかけた殺人と看破し、事件そのものはあっさり解決。

 調査のさなか洋館の持ち主であり闇医者としてホームレスに慕われている矢上という男と知り合って信頼関係を築いたものの、近いうちに個人的な調査を依頼するとの言葉を残したまま矢上は不審な事故死を遂げてしまう。

 神宮寺が矢上の死の謎を追う中で捜査協力を打診してきた田中と名乗る男。いかにも怪しいと思いつつ、その呼び出しで矢上が住んでいた洋館へ向かうと田中は何者かに刺されて死んでおり、直後踏み込んできた公安によって神宮寺は逮捕されてしまう。

 田中の正体は『ガルム』と呼ばれるKGBのスパイを追い続けていた公安の捜査官だった。凶器に付着していた神宮寺の指紋と脱出不可能な密室の謎は秘書の御苑洋子が解き明かし、神宮寺は何とか釈放される。

ヒロインの洋子さん。この顔をよく覚えておいてください。

 改めて公安に協力して事件の謎を探っていく中で、洋館が代々ソヴィエトに協力する共産主義者に引き継がれており、矢上は身寄りの無いホームレスが死んだ後でその戸籍をガルムに提供する役割を果たしていたことが明らかになる。そしてある機密を公表しようとしたためガルムに抹殺されたことも……。ガルムの正体にアタリを付けた神宮寺は夜の街で彼と対峙するも逃げられてしまう。

進めるうちになんとなく背後が見えてくる程度の難易度調整もお見事

 矢上を死に至らしめた機密はKGBと結んだ議員の子に関するものだった。議員は党の重鎮の婿養子になったものの、妻は出産時に亡くなり、その子も生後すぐに死にそうな状態だった。妻も孫も死んでしまったら婿養子としての価値が無くなる。KGBは生まれたばかりの矢上の子を議員に差し出すよう要求し、矢上はそれに応えた。

 取り換えられた子は成長する中で自分の出生に疑問を抱き、調査を進めて矢上に辿りついた。本当の父を知りたいと泣きつく子を相手に、自分が父であるという機密を漏らしてしまいたくなったのだ。

 思いを遂げることなく矢上は死んだが、神宮寺によって真実が暴かれるとその子はショックを受けてしまい、その隙を突いたガルムによって件の洋館へと拉致されてしまう。機密を守るという使命に乗っ取って子供と神宮寺、議員をも抹殺せねばと罠を張ってガルムだったが最終的にそれが叶わぬとみるや洋館ごと自爆して果てた。

 KGBが無くなっても、矢上は洋館の地下に戸籍を奪われたホームレスの遺体を安置し墓守をしていた。ガルムはかつての命令に従って機密を守り続けていた。2人ともに冥界の番犬ガルムのようなものだったのかもしれない。

――というのがストーリーの大筋。ところどころ端折ったけどこんな風にまとめられるのはそれだけお話がしっかりしている証拠ですね。実際、お話の規模やいい意味でのフィクションっぽさ(スパイといえばKGB)、読後感の爽やかさ、話の通じる大人しか出てこない居心地の良さにゲームオーバーが無い安心感、事態の把握と推理に集中できるシンプルなシステムと全てが噛み合ってますね。遊んでて集中を削ぐもの、つい時計を見てしまうタイミングが無く没頭できました。

探索パートのほか、選択肢の組み合わせで相手を追い詰めるパートも。逆裁ほど複雑ではない。

 ちょっとした事件を解決したことが大きな話に繋がっていく点、前半に出てきた伏線が終盤になってきれいに回収される点、今時見ない大掛かりな仕掛け付きの洋館、そして洋館は燃え落ちてナンボというかのようなオチまで含めて完璧。コマンド総当たりで必ず進めるし調査パートは調べるべき点でマーカーが反応するしテキストも瞬間表示で常にユーザフレンドリー。ボイスは最低限とはいえ、神宮寺三郎役が小杉十郎太なのはイメージにバッチリ合ってました。

 気になった点は、バックログがちょっと前までしか遡れないこと、操作キャラが変わってもカットインや背景が神宮寺のままだったりフォントやUIが安っぽいところ、大事な場面で挿入されるアニメーションが紙芝居クオリティなこと。

 あとはこれ言い出したらおしまいなんですが「数々の難事件を解決し警察にもコネがあって鑑識が協力的な探偵」は無理がある……けど、プレイしてると子供のころ見た探偵もののドラマや小説、ADV=探偵ものだった80年代の空気を感じられて懐かしい。

 あ、でも被害者が過去に職場で不可解な行動をとっていたことを知り被害者宅を調べているタイミングで当時の同僚から被害者宛ての電話がかかってくるのは完全にギャグだったし、逮捕拘留されている容疑者の関係者に捜査状況とか証拠品の情報を流してくれるのは作劇の都合とはいえもう少しこっそりやったらどうなんだろうとは思いました。

ド正論。


鬼姫伝

 撮影中の事故で昏睡状態のまま目覚めない姉の後を追って芸能界入りした未央ちゃんのお話。
 事実を捻じ曲げて本を出版・映画化って芸能界の大御所とはいえそんなことできるの?って点や犯人の動機に共感しづらいうえに寿命で死に逃げみたいなオチがしっくりこない。
 夫の浮気で別れた正妻が遺贈を拒否したので妾が思わぬ大金持ちになったものの、「遺産を継いだ母がむしろ惨めだった」とかいう言いがかりで正妻の子孫に延々と粘着するのは……。

 助手の浮気調査からはじまる導入とか意外な実行犯はおおっ、と思わせるし、一見善良な好青年が……と見せかけて実際に好青年っていうミスリードは上手かった。

今回の洋子さん。本編と別人では?


愛ゆえに

 依頼人は自分の浮気が原因で離婚して子供と暮らすシングルマザー。
「子供だけが生きる希望」と言いつつ独りになった後も浮気相手(既婚者)とは度々逢ってるし、夜のお店を構える資金援助もして貰ってる。その店がヤクザに荒らされても「トラブルを抱えてるとバレたら親権の調停で不利だから」と警察には行かない。これに振り回される子供が本当に可哀想。

 で、この話の神宮寺は妙にシニカル。「法律が弱者の味方だったことがあるか?」とか「国は探偵に補助金なんか出しちゃくれないからな」とかいちいち突っかかるし、独白がやたらポエミーというか情に訴えて来るというか説教くさいというか……。

 ラストで「それは愛ゆえに、それも愛ゆえに、ああ、それさえも愛ゆえに」って畳み掛けてくるのは本当にウンザリした。この話だけテキストのノリが完全に浮いてるからわざとやってるんだろうが。

単純にテキストのレベルが低いだけかも。詐欺まがいのトンチ使う神宮寺を見たくはなかった。

 シナリオはなんだか肩透かしだなと思ったところから衝撃的な転がり方をするが、ハウダニットを楽しむゲームじゃないとはいえ、「報道されていない情報を口走った奴が犯人」をメインの謎解きにされると戸惑うわ。

またもや別人の洋子さん。


勿忘草の想い 

 今作ナンバーワンの萌えキャラ、琴音タソが登場する話。

素直で可愛いけどヤバいレベルのトラブルメイカー。

 8年前、新宿に事務所を開業したばかりで依頼も少なくやさぐれていた時期の神宮寺がホステスから受けた依頼、自分の娘:琴音が18歳になったらこの封筒を手渡してほしい……というその依頼をようやく完遂する時が来た、という話で、回想と現在が入れ替わりながら進む話。
 単純に、若い頃の目付きが悪く痩せぎすな神宮寺と、今では互いに利用し合う関東明治組(ヤクザ)若頭の今泉の出会いが描かれてるのが貴重。
えっ、こんな大事な話をCS機ではなくケータイで?
 
 自分の死を悟り、自分との生活を引きずることなく里親に懐けるようにと我が子に辛く当たってきた依頼人、理解ある里親、その愛を受けてまっすぐに成長した琴音に対し、頑迷で子供のわがままを認めなかった父親とその顔色を伺っていた母親、それに嫌気が差して家を飛び出し、自分の居場所を求めてホストからヤクザの手先に転がり落ちていった犯人の対比が美しく物悲しい。
 クライマックスは刑事ものの定番、波止場の倉庫で、犯人の父も琴音の父も、我が子を守るために一生懸命だったという心温まる幕切れで非常に綺麗にまとまってる。
 特に「琴音の母親が死んでるのは分かったけど父親は?」という当然の疑問への回答を最後まで伏せ続けて、匂わせる終わり方にしてるのはニクい。洋子さんも美人だし一番お気に入りの話。

巻き気味の髪とかパリッとした服とかいいですね。


揺らめくひととせ

 依頼人は古物商の若旦那。一緒に住んでる共同経営者の幼馴染が最近やたらお金を持ってくるけど悪いことに手を出してるのでは……と素行調査の依頼。尾行して分かったのは、その幼馴染が訪ねていたところは連続している骨董品の盗難があった家と一致すること。その一方で東南アジアから盗み出された珍しい仏像を巡ってタイのマフィアが日本上陸。依頼人の店が競売にかけられることになったり幼馴染が逮捕されたり依頼人が誘拐されたり最後には盗み出された仏像を巡ってマフィアと対決したりと盛り沢山なお話。

 若旦那と幼馴染が気心の知れた男同士でどっちもまだ20代、おっとりした若旦那とやんちゃなイケメンの幼馴染は腐女子じゃなくても見てて単純に瑞々しく清々しい。神宮寺シリーズって基本は人情ものなんですよね、悪人も出てくるけど基本的には依頼人とその周りにはお互いを想う心があって、プレイし終えたあと温かい気分になれる。

この話は事務所の外にいることが多いせいか、洋子さんは全然目立たない。


終わりに

 本編は8時間弱、短編は1本あたり1時間半~2時間で十分満足できました。去年遊んだDSのが不満だったのは本編が神宮寺以外の目線から過去作を振り返るというシナリオの薄い特殊な形態だったのと、一緒に収録されてたのがFC時代やや古い話だったせいもあるかも。その中でも「時の過ぎゆくままに……」は今にも通ずる家族愛がテーマのよくできた作品だったし。
 こうなったら現行機で遊べる神宮寺は全部やりたくなったので、唯一買ってないDSの「赤い蝶」を買うところから!

 と思ったらこの価格かあ……。ありがたいことに短編はSwitchでもプレイ可能なプリズム・オブ・アイズにほとんど入ってるし、まあ、見なかったことにしましょう。

おまけ収録されてる、学園祭密室事件の洋子さん。性格が違いすぎて一番別人かも。




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