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野球の醍醐味・思い出の試合

 以前「野球は投手が投げるまでの打者との対峙とか前の打者が敬遠されているときにネクストで燃えたりする間や、その雰囲気を作りあげることが魅力のスポーツなのに、それらを排除して時短に走りエンターテイメント性を失っているのが問題なんだよな」(原文そのまま)とツイートしたことがある。

 今季の野球を観てると、まだ30分少々なのにもう3回が終わろうとしてる。先日もZOZOマリンに足を運んだら、もう6回表で佐々木朗希の攻撃。2階の内野席に4000円払って1時間少々の観戦は割に合わずと言ったところだ。

 話は変わるが、そんな自分の観戦日であった4月23日の試合で千葉ロッテは公式戦・球団通算10000試合を迎えた。
 そして今日まで数え切れない多くのドラマを生み出してきた。皆さまにとっては、どの試合が心に残っているのでしょうか。

 これを機に自分でも思い出に残る試合を取り上げようと思います。それが2015年CSファーストステージ第3戦。北海道日本ハムー千葉ロッテ。
 おそらくこの試合をピックアップしようとは誰も思わないかもしれません。
 
 この年を観ていた方も、この年以降や最近からロッテを応援し始めた方もぜひ観ていただきたい試合です。



☆2015年の千葉ロッテ


 2005.2010年の日本一にあやかって「ゴールデンイヤー」と銘打って臨んだシーズン。序盤は勝率5割前後の4位をキープするも球宴前に7連敗、借金7、3位西武と最大7ゲーム差という状況も、そこから僅か10日ほどで7連勝、その間13連敗した西武にも助けられて一気にCS争いへ。

 その後129試合目で再び借金6を抱えるも、そこから4連勝×3回で12勝2敗の快進撃で3位に滑り込みCS出場。
 涌井が後半だけで9勝を稼ぎ最多勝、抑えの西野勇士も前年に続き防御率1点台。大嶺祐太も脱力フォームがハマり8勝、チェンも対日本ハム相手に相性の良さを発揮するなど再生能力も光った。
 野手では清田育宏が4月下旬から1番に定着すると最終的に3番で打率.315。ラテンコンビのデスパイネ&クルーズが5月に好調で得点源となった。

 後半の勢いそのままロッテは初戦から大谷翔平をノックアウトして先勝。王手をかけるも2戦目を落として迎えた3戦目。この年最多勝の涌井秀章に命運を託した。

☆ポイント① 先発・涌井 3回無死満塁


 初回に中田翔に先制タイムリーを浴びるも、直後に井口資仁のソロで追いつき1対1で迎えた3回裏。涌井は無死満塁のピンチを迎えた。
 なんとか二死までこぎつけて対するは矢野謙次。前日タイムリーを放った勢いをそのままスタメン起用された。
 


 この勝負こそ名勝負だ。
 3-1になってからはストレートしか投げられない状況で真ん中で勝負、田村が大きく頷いて「来い」ど堂々と構えるミット。それが分かっていても相手は打てない。だからフルカウントからも見逃せば明らかなボール球にも目付けが上がって手を出してくれた。
 目には見えない、数値化もされない気持ちのこもった球とはこのことを指す。
 1球1球の間、涌井の顔つき、田村の真ん中投げてこいのメッセージ。どれもが痺れる。
 
 一球速報や配球チャートで真っ直ぐのプロットが集まっていると、やれ脳筋配球とか真っ直ぐ偏重とかあるが、こればかりは実際にリアルで見ないと分からない。
 全球真っ直ぐがダメとかじゃなくて、そうした流れを汲み取れるかだよね。

 3回で既に84球を数えたが、ここから7回途中143球投げ切る。最終戦、延長10回を投げて最多勝を獲得してから中5日。

 FA移籍で千葉ロッテに入団したあの日、若くからして投げすぎた反動やツケで、もう終わった先発投手としての扱いをされた涌井秀章の姿はそこになかった。
 敵として散々苦しめられたクールな姿が帰ってきた。味方になってからあれほどまでに世界一カッコいいクール顔だと感じられるとは。
 抑えた後の涌井コールも震えるものがある。

☆ポイント② 真の4番

 1対1で迎えた7回表、先頭デスパイネに有原が投じた初球。高め真っ直ぐ完全なボール球を居合い切りスイングでスタンドイン。
 欲しかった次の1点は千葉ロッテに転がり込む、これで2対1。

 勝たなければシーズン終了が近づく終盤、ここまでヒットを重ねるもチャンスをモノに出来ない展開が続くもどかしい状況を打破するにはホームランしかない。アルフレド・デスパイネはそれを理解していた。
 
 有原もこれほどまでに高いつり球をスタンドまで運ばれたらお手上げだったに違いない、一般的なバッターであれば間違いなく最大値はセンターフライ。
 その最大値を予測不能にしてくれるのが助っ人というものなのだろう。

 シーズン中もデスパイネが本塁打を放つと負けない不敗神話があって、デスノートと呼ばれたほど。絶対欲しいところでしか打ってくれない。
 この日、6番に入ったデスパイネだが、これぞ真の4番。最高の4番。ナショナルチームで4番を張っていたメンタリティも発揮したに違いない。
 
 いままで野球を観てきた中で、これほどまでに興奮した、4番に相応しい一振りは後にも先にもない。

そしてここから1点を必死で守り抜くことになる。

☆ポイント③ 1点差のフルカウント 執念の起用 


 涌井ー松永昂大と繋ぎ8回裏。千葉ロッテは前日乱調を起こした大谷智久をマウンドに送る。
 正直、状態はいまひとつだったがシュートで詰まらせての中田翔、レアード、カット系の引き出しで根負けしない近藤健介をイメージしての起用だったか。益田のシンカーよりは前者にかけたというのか。
 ところが大谷の状態は悪く、近藤、レアードに連打を浴びて一死一、三塁で代打・大谷翔平との対決に。前日の二の舞だけは避けたい。

 これ以上、引っ張るわけにはいかないロッテはここで内竜也をマウンドに。シーズン終盤に離脱したクローザー・西野勇士の代役。
 あまりの乱調に前倒ししてストッパー起用に踏み切る。普段から保守的な伊東監督、落合英二コーチだが、やはり短期決戦。仮に打たれても後悔しない選択を図る。

 ここでバッテリーはとにかく縦スラを選択、ランナー三塁で後逸も許されない状況、フルカウントで歩かせたくない場面でも勇気持って決断して、大谷翔平を三振に斬ってとった。
 若干、高卒3年目・田村のブロックも渾身だった。1点も与えられない場面、度胸ある。
 内竜也、彼ほど短期決戦のジョーカーに適したリリーフもいないだろう。初見では絶対にあの縦スラは打てない。2010の下剋上でラッキーボーイとなった男がまたも短期決戦で存在感を発揮。
 その後、回跨ぎで9回も締めてファイナル福岡行きの切符を手にした。

☆総括

 投高打低で試合時間短縮がトレンドになっている中、この2対1というロースコアで3時間42分の試合時間。今ではあり得ないだろう。

 でも本来の野球とは、こういうものではないか。冒頭でも述べたが、時間に阻まれることなく、1球1球の間や雰囲気を作り出す、楽しむスポーツ。ここに魅力が詰まっていると考えている。
 
 投手のレベルが上がり、ゴロや犠飛の最低限で中々点が入らないロースコアや先発5.6番手の試合でいい当たりが正面を突き合うも僅かな差で負けましたという今季目立つ野球とはは違う。

 エースが全神経注いでの熱投、絶対に欲しい場面で1発決める主砲。
 勝てば1位ソフトバンクへの挑戦権、負ければシーズン終了の分かれ道。本当に1点を争う、1球が命取りになる。それを必死にフィールドで表現する。これぞ短期決戦。これぞ野球。

 レギュラーシーズン終盤の勢いそのままに「5年に1度のゴールデンイヤー」としてインパクトは残した。しかし、この年を最後に3位で、Aクラスで喜んだことはない。

 もう、あの頃とは違う新たなフェーズに差し掛かった。積み重ねた10000試合の数々、そしてこれからもたくさんの悲喜交々が刻まれていく。
 次の1万試合のうちの何試合目に当たるだろう。心から喜べる日が来るのは。その日を願って今日も千葉ロッテの戦いを見守っていく。

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