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今年の名場面:千賀vsレアードを振り返る

 昨日Twitterで、とある場面を140文字では語り尽くせない名勝負とつぶやきました。

 それが9月14日(火)のソフトバンク戦。8回表二死満塁。千賀滉大vsレアードのシーン。これは自分の中で今季の名場面。ベストゲームです。

 いつか機会があれば、この話題に関して、書いてみたいと思っていました。それなので、今日はこの試合、この場面を色々振り返りたいと思います。とても考えさせられる場面なので、捉え方は人それぞれ異なるかと思います。あくまでも個人的見解であることをご了承願います…。

☆8回表の流れと勝負前のイメージ

 1対1で迎えた8回表。2死満塁で打者・レアードの場面。マウンドには球界のエース千賀滉大。ここまで14奪三振と圧巻の投球を披露していた。

 この回ロッテは先頭の8番・藤岡が安打で出塁、次打者の加藤匠馬が送りバントで1死二塁と得点圏に走者を進めた。ここで1番の荻野に戻る。しかし、この日からマーティンが登録抹消となり、2番には高部瑛斗が入っていたため、荻野は敬遠される。高部の代打・山口航輝が右安打でつなぎ満塁になるも、3番の中村奨吾が空振り三振に倒れる。そして前述の場面を迎えた。

 回も終盤。この試合、最後のチャンスの可能性が高い。打順は4番。レアードも間違いなく打ち気になるであろう。一方の千賀は既に120球を超え、最後の気力を振り絞ってくることが予想された。慎重にボールゾーンにフォークを集めてバットを振らせることを軸とし、カットボールで打ち取るイメージ。ゾーン外勝負が難しくなる2-1あたりでカットボールが来るかなとも考えていた。

 普段ロッテ戦を観る側としては、そのカットボールが来れば中堅から右方向に合わせて、2点入ると踏んでいた(こうなるとの意味は後述)。

☆初球から3球目まで

 その意図を読んだ千賀・甲斐バッテリーは慎重に初球フォークから入る。やはり簡単にストライクゾーンで勝負はしてこない。レアードもまずは慎重に待つ。次の2球目もフォーク。ここはレアードが空振り。3球目もフォーク。これもレアードは手を出す。今度はバットに当てた。それでもファウルで1‐2とロッテとしては追い込まれた。3連続フォークと徹底した攻めだ。

 先ほど、カットボール系の球が来れば2点入ると申し上げたが、このレアードの反応を見ると、カット系は来がたいと個人的には考えていた。真っ直ぐか、ひたすらフォークか。真っ直ぐ挟まれたら力負けして内野フライかなぁ...。でも引き続きフォークで誘ってくるだろうと思っていた。そして相手バッテリ―は次もフォークで攻めてきた。

☆追い込まれてからラストボール

 ここからだった。4.5球目のフォークにレアードは我慢したのだ。普通の外国人打者であれば手を出しがちになる。1.2打席ともにフォークに空振りしたことで頭にもあったに違いない。これでカウント3‐2に持ち直す。相手はややカット・スラットっぽいフォークから球速を出してベース板を狙うフォークに変えてきたが、レアードには、かえって功を奏したのかもしれない。縦ラインの管理はしっかりできているようだ。

 こうなると今度は投手が追いつめられる。依然レアードとしてはフォークに警戒している。フルカウントで四球は出せない。そうなると2球見極められたフォークは難しい。カット・スラットも強い縦変化を出すのは勇気がいる。かといって、中途半端にゾーンに残ると今年のレアードなら軽打がある。千賀もこの試合の全てをぶつけにかかる。その中でゾーン内で勝負できる「自分の持つ1番の球、後悔しない球」。最後に真っ直ぐが来ると自分は予想していた。

 ここでレアードがタイムを取る。次に千賀がタイムを取る。最後に甲斐が千賀のもとに駆け寄る。つまり18.44mの空間にいるもの全員が一呼吸置いたのだ。この最後のタイムはかなり長かった。最後の1球をどう選択するか。果たして。

 そしてラストボール。本日の126球目。

 相手バッテリーが選択したのはカットボール(スラッター)だった。

 レアードが弾き返した打球はセンター前に転がった。二塁・三森大貴が飛びついて1塁送球も悠々セーフ。三塁走者はもちろん、二死満塁、カウント3‐2という事でオートスタートを切っていた二塁走者・荻野も生還。3対1で千葉ロッテ2点勝ち越し。これが決勝点となり、首位・千葉ロッテは5連勝。一方、逆転優勝を目論んでいたソフトバンクにとっては大きなダメージだった。おそらく、この試合で優勝が厳しいと悟ったかも...。

☆勝負の分かれ目・醍醐味

 結果的に冒頭のツイート通り、カット系が来て2点を取ったことになった。ただ、この場面で自分の頭にカット系はなかったので「その球で来たか」というのが率直な感想だった。この球で打ち取る予想を立ててはいたが、それまでの流れや状況を踏まえても可能性は低いと考えていた。

 とはいえ、自分がロッテ戦で逆に今回の千賀のような立場になって考えると、そうせざるを得なかったかもしれない。無理して力んで三振を取る必要がない場面。引っ掛けさせてゴロ狙いでもOK。けれども、ストライクゾーンで勝負するしかない。そうなったときに有効なのがスラッター。千賀の武器でもあるし、この球を選択といったところだと思う。真っ直ぐフォークに絞っていたため、半分裏をかきに行ったとも思う。

 ここからは素人の考えで恐縮だが、強いて言えば5球目が分かれ道だったかもしれない。その前のフォークに対して反応がなかったレアードを見ると、真っ直ぐを挟むなら、ここだったと思う。変化球を続けすぎたことで、真っ直ぐに切り替えるタイミングを失ったようにも見えた。また、この時の千賀は追い込むまで、追い込んでからで微妙に違う種類のフォークを投げていたように思える。フォークにしても、追い込むまでのカット・スラッターっぽいフォークだったら… 1つ前なら、少し強めの変化を出せたかも分からない。1つ前にスラッターに行けていたら…。観る人それぞれで考え、感覚も変わってくる。試合後も色々考えさせられる場面だ。これを分かち合うのが野球の面白いところでもある。

 レアード自身も、日刊スポーツの記事にて試合後このようなコメントを発していた。

 「正直言って、何が来るか読めなかった。多分直球が来るかなというのは頭の中に少しはあった。歩かせたくないというのもあるし、同点で決勝点が入るわけですから」(2021年9月14日 日刊スポーツより)

 ここまで色々述べてきたものの、これを言われたら、もう最後カットボール勝負するしかなかったってことかも。レアード自身もゾーンに入っていたからこそ、一周回って何が来るか分からなかったかもしれない。それほど追い込まれてから見切ったレアードの忍耐力、集中力が凄まじく、相手にプレッシャーを与えたのだと思う。今年のレアードの象徴が詰まっていた打席だった。神経を研ぎ澄ます勝負であり、その中でレアードが1枚上手だったということだと思う。

 このシーンには様々な醍醐味が詰まっていた。配球、1球1球の駆け引き、レアードの我慢、柔らかさ、集中力。ラストボールまでの間。ディフェンディングチャンピオンと新時代の頂点を狙うチームがペナントの行方をかけて一騎打ち。まさにプロ野球。痺れを切らした18.44mの空間だった。


 

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