見出し画像

カーリング女子にみるコミュニケーション力

北京オリンピックでカーリング女子の快進撃が続いている。
チーム「ロコ・ソラーレ」
名前の由来となった「太陽の常呂っ子」に違わない明るいチーム雰囲気は、前回大会に引き続き今大会でも際立っている。
とりわけ、笑顔と絶え間なくかわされる声掛けは他の対戦国と比べても、密なコミュニケーションや信頼関係があるのだろうと思う。
 
私もカーリング競技を行っているが、彼女らのような「コミュニケーション」「信頼関係」を築くのがいかに難しいかというのは嫌というほど実感している。
このうち、「コミュニケーション」がどの場面で交わされているのか。
このnoteでは触れていきたい。
 
 
個人的には、コミュニケーションが行われるのは、①作戦の共有、②アイスコンディションの共有の比重が多いと思っている。
 

作戦の共有

各エンドでサード・フォースの投球場面になると、ガードが置かれてハウス内にも石が溜まってくることもあり、狙い通りのショットをすることがだんだんと困難になってくる。
その場合、本来狙いたいショットに加えて、狙いからそれた場合のBプランをどうするかを考えていく必要がある。
もし、狙いから外にそれた場合はどうするか、狙いたいところに届かないような弱いショットになった場合はどうするか。
考えることは多い。
 
ただ事前に対策をすることはできる。
「外にそれる場合と内にそれる場合、どちらのリスクが少ないか」
「石がショートする場合とロングになる場合、どちらの方が相手に攻められにくいか」
これらをチーム内で都度、意思疎通を図っておく必要がある。
彼女らは、投げるたびに声を出して確認をしており、難しい場面になると投げる前に「怖いから少し幅をとって投げるね」といったリスク回避に向けた会話を頻繁に行っている。
 
また、カーリングのデリバリー中、「7」「8」といった言葉がスイーパーからスキップに対して伝えられる。
これは、投げたストーンがハウスのどこに届くのかを伝えるシグナルとなっている。ストーンから遠い位置に立っているスキップからは、その石がどのくらいのスピードなのかを知る手段はないため、ストーンに最も近いスイーパーがスキップに知らせている(これを「コール」と呼んでいる)
このコールをよく聞いてみると、最初は「7」といっていたのが、少し時間がたつと「8」「9」と変わることも多い。これは、当初予定よりも石が速い(遅い)よと伝えているのだが、これらの情報をスイーパーは絶え間なくスキップに伝えている。
これが「ちょっと強そうだから、プランを切り替えよう」とスキップへ考えさせるきっかけを与えることにもつながっている。
 
社会人としてのスキルで「ホウレンソウ」が大事というのは今や常識となっているが、「レン」の部分は意識しないとどうしてもおざなりになっている人も多いと思われる。その点、カーリングでは「レン」の部分が極めて大事になってくる。
 
ちなみに、実はカーリングには、時間制限がある。1投ごとの時間制限があるわけではないが、1試合に使うことができるチームとしての総計時間が決められている。
そのため、早く投げるべき時は長考せずにすぐ投げる。そうすることで考えるべき際に備えて、時間を「節約」している。
そのため、(これはどのチームでもやっていることだが、)「●●の場合は、**のショットを投げよう」といったことを事前にある程度決めているはずである。
これはコミュニケーションの話ではないが、アイスの外にいてもきちんと作戦というものは練られている。
 

アイスコンディションの共有

オリンピックでのカーリングは10エンドゲームとなっているが、約3時間は要する。
1エンドあたりにならすと、約20分弱。
1回投球が終わると次に投げるのは20分近く間隔が空いてしまう。
その間に、両チームの選手がスイープを絶え間なく行うため、氷の上にまかれたペブル(※)が溶けてなくなっていく可能性もある。
(※)氷面上にまかれている無数の氷の粒のこと。この粒をブラシでスイープして溶かすことで、氷面の摩擦を軽減することができるため、ストーンの距離を伸ばすことができる。
もし氷面上のペブルが無くなってしまえば、いくらスイープしてもストーンが滑らない状態となってしまう。
 
そんな中、20分の間隔が空いての氷の状態はどうなっているのか。それは感じ取り次第すぐにチームに共有しなければならない。
これが良く彼女らから聞かれる「ちょっと重くなってるよー」「まだこのラインは滑ってるよー」といった言葉だ。
これができるかできないかで、チームとしてのショット率は大きく変わってくる。
 
また、試合によっては、「よく使われるライン」「あまり使われないライン」というのが出てくる。
これはすなわちペブルのある・なしにも関わってくることのみならず、カーリングの肝でもある曲がり幅に影響が出てくる。
大体、ドローを投げる際の曲がり幅は「4フット」――ハウス内の赤い円の直径――と言われているが、場合によってはこの幅以上・以下の曲がりをすることがある。
この曲がり幅は、ずっと石の軌道を見るスキップから他3人に共有がされる。
そのため、スイーパーからスキップへは「ウエイト」の要素が、スキップからスイーパーへは「ライン」が相互に共有されなければならない。
この点、彼女らは絶え間なく、そしてよく通る声で会話を行っている。
 

おわりに

会話量の密さ。
そして、これに何年もチームを組んでいることのアドバンテージ。
これらは彼女らの強みでもあり、今大会の正確なショット率を生む要因にもなっていると思っている。
 
あと1試合。
メダルは確定しているが、よりより色のメダル獲得に向けて、全力で見守っていきたい。
 
 
<余談>
ちなみにこれは野良カーリングチームあるあるだが、世界選手権やオリンピックといった大きな大会がある度に「自分も難しいショットを投げられる」と思い込む人々が多い。失敗する確率の方が圧倒的に高いが、これからビッグショットを狙いにいくギャンブラーを楽しみにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?