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【旅】海面に一番近い町、伊根の舟屋と夏の岩ガキ(2024.7.13-15)

はじめに

7月の海の日を入れた3連休、恒例の家族旅行は京都府の伊根町にした。
テレビなどで何度か目にした「舟屋」に泊りたい。伊根の舟屋は、海に寄り添うように建てられた独特の家々。1階が船のガレージで、2階が居住スペース。まるで家と海が一体となっているような建物だ。
今回は舟屋をリノベーションした「伊根の舟屋 雅 別邸」に2泊した。メインエリアからは少し外れた、遊覧船乗り場のすぐ近くにある。(ちなみに遊覧船乗り場の駐車場のすぐ下の海には、ムラサキウニらしきウニとガンガゼがうじゃうじゃいた。小さい魚も見えた。)

何十年も前から時間が止まったような、静かな海辺の漁師町という表現がぴったりの伊根。
いまにも雨が降りそうな、そして実際3日間とも晴れることはなく、弱い雨が降ったりやんだりのあいにくの天気だったが、そんな天気もまたよく似合う伊根の街だった。
時間の流れもゆっくりな気がした。

1日目: 京都から亀岡、美山、天橋立、伊根へ

美山のかやぶき屋根の里

懐かしいような感覚を覚える美山の風景

1日目、三島から京都まで新幹線で移動。京都駅で東京から来る瞳さんと合流し、にしんそばが1700円とはちょっと高いなぁ、と思いつつ松葉で少し早いお昼を済ませる。
京都から亀岡まで在来線、そこからレンタカーを借りて伊根に向かう。

途中、美山のかやぶき屋根の里に立ち寄った。今年の初め、出張で南丹市にお邪魔した際、市の方から「美山にぜひ!」と強く勧められ、ちょうど通り道というのもあり、立ち寄ることに決めた。
世界遺産の白川郷とはまた違った、ちんまりとして、より素朴なかやぶき屋根の集落。端から端までものの数分ですたすた歩けてしまう感じといえばわかりやすいか。
宿泊施設や資料館などもあるが、白川郷と同様、生活している家も多く、あまり覗き込むのも悪いかなぁ、という感じ。ひまわりや盛りが過ぎたあじさい、赤や黄色の小さな花が出迎えてくれる。夏休みの宿題にスケッチするには良い場所だと思う。
資料館があり、昔ながらの農機具や器が飾ってある。うちのばあばの家にもあるような、見知ったものも(笑)。かやの厚みは1メートルほどか。

天橋立の絶景

絶景、天橋立

美山を後にして次に向かったのは天橋立。松島、安芸の宮島と並ぶ、日本三大名勝のひとつ。
天橋立は、宮津湾と阿蘇海を隔てる長さ約3.6キロメートルの砂州(さし)をいう。砂州とは、海岸沿いに堆積した砂が波や潮流の働きによって形成された細長い地形で、天橋立の場合、阿蘇海と宮津湾をつなぐ砂州が長い松並木を伴って形成されている。
この砂州には約8,000本もの松が植えられており、松並木が風景に美しいアクセントを加えている。松の緑と砂の白、そして海の青が織りなすコントラストが絶景を生み出す。といっても、そんな景色は高いところから見ないと分からない。

私たちは、天橋立ビューランドという、リフトやモノレールでアクセスできる展望台に上った。
リフトが上がるにつれ、徐々に天橋立の形状が見えてくる。
海が割れて、松並木が2キロにわたって続く光景は本当に珍しく、展望台からの眺めは絶景そのもの。
よく、「股のぞき」と言われる、海に背を向けて足の間から砂州を見ることを「飛龍観」という。天に上る龍に見えるからだそう。
砂州の反対側、傘松公園から見ると龍が下りる姿に見えるため「下流観」というそうだ。いずれにせよ、私と瞳さんはスカートだったので、やらなかった。

展望台を降りるとすぐ下にあるのが智恩寺。ここを参拝。
智恩寺は臨済宗妙心寺派の寺院で、「三人寄れば文殊の知恵」の文殊菩薩が祀られていることで有名だ。
おみくじは扇の形をしていて、たくさんのミニ扇が松の木からぶら下がっていた。これはSCのイベントで使えそうだな、と写真を撮る。

かわいい扇のおみくじ


寺の境内には多くの観光客が訪れ、賑やかな雰囲気だった。
近くには廻旋橋と呼ばれるユニークな橋がある。この橋は船が通るときに90度回転して通行を許可する。ちょうどタイミングよく、橋が回る場面に遭遇。廻旋橋がぐるっと回る様子は、ブラタモリで見たことがあったので、とても興味深かった。
次に来るときは、天橋立の砂州を歩いて渡ってみたい。往復でも4㌔程度だがら、そんなに大変ではないだろう。

リノベした舟屋 雅別邸

舟屋をリノベ。中は快適

伊根に到着し、今回の宿、伊根の舟屋雅別邸にチェックイン。外観は昔ながらの舟屋なんだけど、1歩入るとモダンな作り。1階がリビングと露天風呂、2階がベッドルーム。この形の舟屋が5つほど密集して並んでいる。レセプションと食事処は部屋のすぐ隣に独立した建物として建っている。

1階の舟屋だった部分からは、すぐそこに海が見える。露天風呂が付いていて、湯船に浸かると時間が止まったような景色が見える。
雨模様で空気は重たく、周囲の音を湿気が吸いこんでいくよう。時々ウミネコの声。足元には透明な海。伊根湾は透明度が高いため、1メートルほどの深さの海底が良く見える。ウニや、小さなネンブツダイ、ベラが泳ぎ、時々大きな青っぽい魚が海底をつついている姿も見られた。

ところで、ここの温泉、ものすごいトロトロの泉質。PHはそこまで高くなさそう(といっても8は超えてる)だが、メタ系酸が多く、いわゆる美人の湯ですね。いつまでも浸かっていたいくらい。すばらしいです。

露天風呂越しに見る伊根湾

地元のお寿司とカキと地酒と

地魚メインの寿司

夕食は宿から歩いて5分ほどの「鮨いちい」。昨年オープンしたてのすし屋。地元伊根で採れた魚を中心に、鱧や旬の岩ガキを楽しんだ。
岩ガキはこのあたりの特産品で「夏珠(かしゅ)」という。伊根の海は先程言ったように透明度が高く、つまりプランクトンなどの栄養が豊富でない。だから、牡蠣もゆっくり育つ。おおきくて、クリーミーで、ミネラルが口の中に広がる。いちいでは、塩とレモンを振って出してくれた。

このほか、「ヨコワ」と呼ばれるマグロの子どもや、鱧の卵の煮つけ、カワハギの身とキモの寿司、「へしこ」という鯖を発酵させた郷土料理の寿司など、おいしくて珍しい料理だった。
面白かったのが、一人用の鍋。みそ仕立てで、野菜や豆腐、鱧が入っている。真夏に鍋?と思ったが、食べたらおいしかった。
お酒は地元、向井酒造のもの。向井酒造は日本で一番海に近い酒蔵。創業は創業1754年(宝暦4年)。豊漁と京の春という地酒を飲みました。料理との相性もよかった。

カモメとウミネコとトンビの話

部屋の前の海には、カモメとウミネコもたくさんいる。
時折、大きな声で鳴きながら低空飛行で飛んでいく。
餌付けができるかな、と思って、チータラを海に投げてみると、カモメが近寄ってきて器用に食べた。
カモメに気を取られていたら、いきなりチータラを持っていた指先に衝撃を受けた。トンビにチータラを狙われたのだった。かなりの衝撃だったが、けがはしなかった。見ると、隣の建物のアンテナの上にトンビがとまっている。この一帯が縄張りなのだろう。しかし、よく見てるなぁ。

2日目: 伊根湾クルーズと観光

伊根湾クルーズ

時が止まった港町

この日は、伊根湾クルーズに出かけた。クルーズといっても小さな湾なので、30分程度のアトラクションだ。遊覧船と海上タクシーがあり、どれも30分で1000円。電話で予約し、指定された時間に船着き場に向かう。雨は相変わらず降っているが、それほど気にならない。

船に乗り込むと、早速舟屋が立ち並ぶ海岸沿いに向かう。舟屋は約230軒あるそうで、江戸時代から始まり、明治時代までは屋根はかやぶきだったそうだ。
船から見る舟屋の風景はやはり格別で、水面に映る家々の姿が絵のようだった。また、向井酒造の蔵が3棟建っていて、海側から見ると梁がたわんでいて、味はあるがちょっと心配になった。江戸時代の建物だもんねぇ。

クルーズ中、カモメにかっぱえびせんをあげるアトラクションがある。かっぱえびせんを投げるとカモメが見事にキャッチした。カモメがまるで空中で止まって見える。続けてキャッチするので感心した。

空はどんより曇っていて、時々雨がぱらつくなど、クルーズの最中も終始天気はあまりよくなかったが、深緑の山々を背景に身を寄せ合うようにして立ち並ぶ舟屋は、よくぞ令和の時代までこの景色を保ち続けたと本当に感心する。近年こそ、リノベで中身は快適になっているだろうが、これを保存する地元の人々の熱意は相当なものだと思った。
ちなみに舟屋は2階建て。昔は2階部分が住居スペースだったそうだが、今はほとんど道を一本隔てた山側に建てた家に住んでいるそうだ。

船を降りてから少し周辺を散策。見学できる舟屋もあり、昔ながらの漁に使う道具などを見せてもらう。海を背景に、まるで額縁のような写真が撮れる。観光客が楽しそうに写真を撮っていた。もちろん、私たちも撮った。

まるで額縁のような舟屋の中


船着き場に戻り、街並みをバックに写真を撮る。おひさまが海を照らすとどんなにきれいなのかな、雨の伊根も風情があるけど、やっぱり晴れた海を見たかった。

立岩と安野光雅美術館

スケール感がわからないね

クルーズの後、午後は少し周辺をドライブしよう、ということでネットで調べた「立岩」というジオサイトを訪ねる。この周辺はユネスコの山陰海岸ジオパークに認定されていて、天橋立をはじめ、数多くのジオサイトがある。立岩は柱状節理が海の上に突き出ていて、ちょっとした岩山を形成している。なかなかの迫力だった。

次に訪れたのは、高級料亭の「和久傳」が運営する安野光雅美術館。美術館にカフェやお土産コーナーが併設されていて、広い敷地は散策道も整備されている。隣には加工工場もあり見学ができる。


美術館では細川護熙元首相の企画展が行われていた。陶芸や書画の作品が並び、漆で描いた絵などちょっとほしいな、と思う作品もあったが、私は安野光雅の絵が見たかったんだ。
「旅は予定を決めず行き当たりばったり」という人もいるが、私は普段は断然事前リサーチ派。今回は、そもそも伊根の舟屋をメインに考えていて、伊根でゆっくり過ごそうと思っていたが、思いのほかやることがなく(笑)、ドライブに切り替えたという事情もある。

2日目の夕食は雅別邸の食事処で。この日も地魚や岩ガキがメインで、やっぱり岩ガキおいしいわ。ここでも一人鍋が出た。これはもはやこの辺の風習なのか。冷房が効きすぎるくらい聞いていたのでちょうどよかったかも。

岩ガキのしゃぶしゃぶ


3日目: 伊根から京都へ

伊根港へ、魚を見に

最終日は、朝、伊根港のセリを見学した。

採れたてが買える

トビウオやイカ、小さいイワシなど、すぐわかる魚が大半だが、名前のわからない魚もたくさん水揚げされていた。船が入ってくるたびに手作業で仕分けをするんだね~。ここは、一般の人も購入可能。近所に住んでいるであろう人が手に手にざるを持って魚を選んでいた。私も近所に住んでいたら、毎週末来るだろうな。
向井酒造でお酒を買って、一路京都へ。


祇園祭り、山鉾巡行と函谷鉾

この時期はちょうど祇園祭りが開催されている。祇園祭りは京都の夏の風物詩で、豪華絢爛な山鉾巡行が見どころだ。アメックスの特典で山鉾に乗る体験があり、申し込んだ。

山鉾の豪華賢覧な装飾の数々



京都の町は人でごった返していた。カンカン照りでないのが救いだったが、時々小雨が降る中湿度はMAX。結局大汗書きながら目当ての山鉾に向かう。

私たちが載ったのは「函谷鉾」。「かんこぼこ」と読み、その由来は、中国の故事「函谷関の夜鳴き鶏」に基づく。
函谷関は古代中国の重要な関所で、鶏が鳴くと関が開くとされ、この故事を象徴するため、函谷鉾には金鶏が飾られている。天井には天人(天女)の絵が描かれており、美しい装飾が施されている。見送り幕には、中国や日本の歴史や神話に基づく絵柄だそうだ。
そんなに広くない曳山という、人が乗り込んで演技や祈りをささげる場所に10人程度が乗り込んで、思い思いに写真を撮っていた。上から見下ろす京都の四条河原町は、まさに「祭り」という雰囲気で良かった。

曳山に乗り込む


平安時代から続くこの伝統は、勇気と知恵を讃えるものだそうだ。
少し街中を散策して、他の山鉾も見たかったが、とにかく暑くて湿気がひどくて早々に退散した。

私たちが乗り込んだ函谷鉾


おわりに

天橋立の不思議な風景、伊根の美しい風景や伝統的な舟屋、祇園祭りの豪華さと賑やかさ、どれもが心に残る素晴らしい体験だった。伊豆とは違う歴史、文化を体験するのは本当に面白い。
大地の成り立ちが植生や生態系を作り、それを人々が利用し、長い歴史をかけだんだんと変化して今に至る。その「今」に立って、過去を眺めてみる。目立った点があったり、あまりにゆっくり変化するのでじっと見ていても気付かないが、長い年月を経て振り返れば大きく変化している点があったり、今ではもう理由も由来もわからない点があったり。そういうものを俯瞰したり近寄ったりして感じるのが旅のだいご味だ。
次回はどこに行こうか。


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