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51.今年おすすめのホラー 骨灰

今年惜しくも直木賞を逃しましたが、最高に良いホラー小説が出ました。すごいです。

大手デベロッパーのIR部で勤務する松永光弘は、自社の高層ビルの建設現場の地下へ調査に向かっていた。目的は、その現場について『火が出た』『いるだけで病気になる』『人骨が出た』というツイートの真偽を確かめること。異常な乾燥と、嫌な臭い――人が骨まで灰になる臭い――を感じながら調査を進めると、図面に記されていない、巨大な穴のある謎の祭祀場にたどり着く。穴の中には男が鎖でつながれていた。数々の異常な現象に見舞われ、パニックに陥りながらも男を解放し、地上に戻った光弘だったが、それは自らと家族を襲う更なる恐怖の入り口に過ぎなかった。

骨灰 あらすじより

あらすじにも書かれている通り、なんと16pあたりでもう主人公は建設現場の地下に赴いて穴の中で、鎖に繋がれた男に出会うのである。早い、早すぎる。鎖に繋がれた男と出会うのは確かにセンセーショナルなんだが、そこに向かう地下から謎の祭祀場までの描写が何より怖い…!!!!暗所恐怖症、閉所恐怖症の人は読んでいたら心拍が上がりそう。私は暗所も閉所も特別恐怖を感じたことはないけど、息が詰まる思いだった。この恐怖がしっかりと伝わる確かなホラー描写力。最高です。

この骨灰、主人公が見た悪夢を悪夢と言わずにヌルッと差し込んでくる。怖い。ずるいぜ

娘が取り憑かれたように水を飲んでいる。ただ飲んでいるのではない。何かに取り憑かれた様に、水道の蛇口から流れる水に横から口をつけて飲んでいる。

髪の先がシンクの底に垂れ落ちるだけでなく、排水口に流れ込んでしまっているのが見えた。

骨灰 p79より

く〜!!!この描写〜!!
『コップに汲むのではなく、水を横から口をつけて飲む』ことは、喉がすごい乾いててコップがすぐその場になかったらエイヤっ!とやってしまうかもしれない。スポーツ選手とか部活の子だってそういう描写がでてきても理解できる。でも、この髪の毛が排水口にまで流れ込んでしまっている描写!!!キッチンの排水口は調理や食器洗い後に出てくる生ゴミをキャッチしている場所。ぬめぬめして、放っておくと臭くなる、嫌な不潔な場所。そこに、可愛い可愛い娘の長い髪の毛が流れ落ちていっている。光弘の恐怖、不気味さが伝わる。ホラーには不快さも必要なんだな。ちょっとした描写の不快さ。汚らしさ、不潔、不快。

そして何より読んでて私が一番やられた〜〜!と思ったのが、主人公光弘が早々に信用できない語り手になってしまうのである!!!正しい表現かわからないけど、ホラー界における信用できない語り手!!いや、悪夢のシーンで『あれ、こいつの言ってること信じていいのか?』と不安にさせられたのだが、案の定早々に裏切られる!!
このパターンに初めて出会ったのは小野不由美先生のゴーストハント7巻『扉を開けて』なんですが。

例としてその『扉を開けて』から引用させてもらいますが。
除霊しに廃校に来た6人。が、悪霊によって仲間が次々と廃校内で失踪するシーン。

『ペンギンのカップは誰でしたっけ』
安原さんが言って、ジョンが手を挙げた。
『僕です。すんまへん』
『いえいえ。ウサギのは誰の?』
ーウサギ
真砂子が少し嫌な顔をした。
『…松崎さんですわ』
ー略ー
『これ、あたしの』
カップを取ったのは小さな女の子だ。

ーこの子は・・・・・・。
あれ?あたし・・・・・・・
『ウシさんのは、タカトくんのでしょ』
女の子が見たほうに、もう少し小さな男の子がいる。

ゴーストハント7,扉を開けて,p230ーp232

伝わるかな!?この、語り手である主人公が怪異に騙されてそれをそのまま描写されるパターン!!!!
本当に突然くるから読者はゾワっとさせられる。今まで主人公と一緒に怖がっていた読者が突然、一人放り出される恐怖!!
お前は私たち側の人間ではなかったのか!なに、そっち側に行ってるんだ!!と怒りたくなる怖さ。

このパターンが早々に骨灰でも起こる。
ひどい、速さだ。
あまりにも早い展開で、光弘が祟りから克服するまでの間、読んでいてかなりヤキモキさせられました。ネタバレしちゃうと、光弘は死なないので安心して読んでいてほしい。

ラスト、祟りから離れても人生お終いになるんじゃないかと心配していたが、ちゃんと仕事は部署移動で片付いたし、理解のある上司も新たに出来たし、警察もいい感じにウヤムヤにしてくれたので一安心。
祟りで人生めちゃくちゃになるのはあまりにも可哀想である。
光弘以外はめちゃくちゃになるんだけどね〜

あと、読んでいると本の装丁の足跡も『うわ〜〜〜!!!!』と意味がわかる仕掛けでとても良いです!!本当、とても良い良質ホラー小説なので夏に涼しくなりたい方はぜひ読んでほしいです。

ところで、主人公光弘は、祟りは遺族に化けて出てくるから遺族の霊を見たり、夢に頻繁に出てきたら気をつけなさいと忠告を受けているにも関わらず、亡くなった父親が見えるようになっても不思議と思わずに一緒に生活するんだけど、『青野くんに触りたいから死にたい』の優里ちゃんって、やっぱり信用できない語り手だよね。
青野くんが見えているのは優里ちゃんだけだし、青野くんが祟りになってしまっても優里ちゃんには青野くんの姿としか映らないんだしな。
小学生sには青野くんは正真正銘の化け物として見えていたし。優里ちゃん視点での青野くんはつねに怪しいし怖いな・・・・・・。
骨灰読んだ後に青野くん読むと、一段と怖いな。


骨灰は祟るので、隣に残穢を置くことで呪いを相殺しあってもらっている。

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