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人を生かすもの

2月半ばにイギリスから本帰国し、出発前PCR検査等、計3回のPCR検査や政府指定隔離施設での3日間を経て、プライベートの隔離ホテルに移り今は自主隔離をしている。
本帰国ということで、ただでさえ荷物も結構多いのに、変異種大流行の危険国イギリスからの帰国ということで制約やルール(それも日々変わりうる)が多くて面倒くさかったが、なんとかここまで無事にたどり着いてほっとしている。

政府隔離施設は思った以上にしんどかった。
アパホテルの超狭い部屋に2人でいて、窓も開かず、食事が配られる3回以外はドアも開けられず、廊下にも出られず、ただ日がなベッドの上で過ごすと、一体なんのために生きているのだろうという気すらしてくる。

この3日は、化粧もせず日がなパジャマをきて過ごした。

ちなみに私は、風邪の時以外は基本的に朝のルーティーンとして、毎日日焼け止めを塗って化粧をすることにしている。イギリスの長い長いロックダウン中も基本的にそれを実行していた。オンラインミーティングがないとわかっていても、買い物か散歩で外に出るかもしれないと毎日化粧をしていて、結局外に出ない日もあったのだが。
これはもうルーティンなので、化粧をしないと気持ちがしゃんとしないのである。

風邪でもないのに化粧もせず、ずっとパジャマをきて、動きもせずにベッドの上で丸2日過ごし、そして仕事もないと、だんだん気持ちが沈んでくるのがわかる。
一応、やることや読むべき本は用意していて、to doリストも作ってはいて、最低限やろうと思っていたことはするのだが、それ以外のことはやってもやらなくても正直何も変わらない。
いや、いろんなことは毎日の小さな積み重ねだから、変わらないことはないのだが、まるで時空間が停止しているかのような中にいると、何をしても無駄なような気持ちになりそうだった。

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アパホテルの狭い狭い、淀んだ空間は、イギリスのdetention centre(日本の入管収容施設にあたるもの)や監獄を想起させた。
イギリスの入管施設は、日本よりは自由があるといわれているが、それでもあの空間に収容されることはトラウマを抱えた難民たちの精神的な二次被害に繋がると言われていて、私のいたチャリティ含めていろんな団体がdetention centreの存在そのものに反対していた。
私の知っている難民のメンバーにも、過去にdetention centreに収容された経験のあるメンバーもいたし、本国で投獄されて拷問にあったメンバーも多くいたが、ロックダウン中にその経験を思い出すメンバーは多数いた。

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人を病ませるのは、空間的な閉塞感と己の人生における閉塞感の2つがあわさったときだろう。

難民のメンバーは、いつ難民認定がおりるかもわからない、相当不安定な状況の中で毎日生きている。10年以上も待ってやっと難民認定がおりた人たちを私は何人も知っている。
その不安定で閉塞感に絡め取られそうになる状況を生き延びるには、人との繋がりと未来への希望が欠かせない。
難民メンバーは、自殺願望に絡め取られそうになっているところを、セラピストとのセッションと、同じ経験をしている仲間との関係の構築を通じて、だんだん生きる希望と喜びを見出すようになる。ただ、人生における閉塞感は、簡単にまた襲ってくるものでもあるので、私の知っている多くの難民メンバーたちは、いろんなコミュニティを持って生活を忙しくすることにとても熱心だった。

人生の閉塞感に飲み込まれないためには、人との繋がりがあること、そして未来への希望があることが大事と書いたが、その小さいけれど重要なピースとしては、「人との約束」だと思う。誰かと会う約束があるとか、仕事もそうだろう。
子どもがいる人だと、子どもそのものが、「繋がり」にも「希望」にもなりうるのだろう。

子どももいなくて、仕事もない今の私は、4月から仕事があるという事実と、自分のやりたいことがあること、友人との会う約束等があることが、自分を生かしている”人との繋がり”でもあり、”未来への希望”でもある。

正直にもっといえば、長かったイギリス生活は割と閉塞感に満ちていて、それをどうにかやり過ごしていたのは、チャリティの仕事、先々人と会ったり話したりする約束、そして未来への希望(日本でやりたいことがあること)だったと思う。

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さあ、隔離生活、残り7日間。

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