天気予報はなぜ当たらないのか
「今、降っている雨、何時ごろやみますか?」
民放の報道局ウェザーセンターに勤めていたころ、
その電話の主は、まくし立てるように質問をたたみかけてきた。
「代々木でロケをしているんですが、女優さんたちに待機していただいているんです」
ドラマ撮影班のADくんであろう。
『そうですねぇ、代々木ですと、午後2時半ごろに雨雲抜けそうですね』
「2時半ですか!絶対ですね?」
『今のところ、2時半ごろの見解です。とはいえ、未来のことに絶対はありませんので…』
途端にハッとしたように、相手は丁寧に電話を切った。
監督に指示されて、すがる思いで携帯を手にしたのだろう。
天気予報、当たって当たり前の時代である。
東京の天気予報の精度検証結果をみると、この35年間、予報精度は右肩上がりで、ここ数年は前日の夕方発表の予報は85%を超える高水準だ。(気象庁HPより)
だからこそ、「くもり時々晴れ」のマークで、雨に降られると腹立たしくなる。
しかし、「くもり時々晴れ」の表示でも、気象庁の発表は、「くもり時々晴れ 所により昼過ぎから雨で雷を伴う」ということは頻繁にある。人は目から飛び込んできた情報に支配される傾向があるが、このとき、マークにない部分をどう伝えるかが、気象予報士の腕の見せどころである。
この「くもり時々晴れ 所により昼過ぎから雨で雷を伴う」の背景には、風向きの急変に伴って、突風が吹いたり、急激に寒くなったりすることも付随するからややこしい。
さらに、多分な経験を持ち合わせた気象庁の予報官も人間である。
正直、「えっ?」という予報を発表するときがある。土日は若手がシフトに入るのかな、最近異動があったって聞いたしな…と邪推したりもする。
たとえば、東京は、上空に暖気が流れ込んでも、地上の風向きが海からの東風だと気温が上がらない。冬型が緩むときは、沿岸に小さな低気圧ができて、晴れない。
はずさない、見逃さない天気予報を出すためには、上空5500m、1500m…いくつもの空気の層の風向きや気温を、頭の中で掛け合わせる必要がある。
子どもが小さい頃に何度も転ぶことで、手をつくようになったり、転ばなくなったりするように、時に痛い思いをすることが、当たる天気予報を導く手段となる。
空模様を自分でイメージして、カーテンを開けたときに、「あれ?」と泣いた回数が多いほど、逞しい気象予報士になるものだ。
一方で、近年は、集中豪雨、台風、40℃超の暑さ、命を奪う未曽有の自然災害が多発している。
気象予報士を目指している人、気象キャスターになりたい人、気象予報士の資格を取得したばかりの人…たくさんの経験を積み重ねるまで、自然災害は待ってくれないのである。
未来に絶対はない。
大切な人の命を守れるのは、あなたかもしれない。
だからこそ、気象業界全体の底上げを図るために、この20年で培った、私の「痛い」経験を公開しようと思う。
「風の声を聴く」近道である。
有料記事のお代金は、自然災害に遭われた方々へのお見舞いとして、寄付させていただきます。