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ともちゃんと5つの種⑦

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1匹の蛍に導かれ
ともちゃんはもう誰も住んでいないような
小さなに家に辿りつきました。

中に入ってみると家の中は少し汚れていましたが
まだ冬の名残りのある夜の寒さからは充分に守ってくれる、
そんな家でした。

家の中にあったテーブルの上には
数本の、高さの違う使いかけのキャンドルがあり
ともちゃんはカバンの中に入れてきたマッチで
そのキャンドルに火を点けました。

そのキャンドルが家の中を照らし始めると
家の隅にまだ使えそうな小さな薪ストーブがあり
ともちゃんはストーブの近くにあった薪をくべ
ストーブに火を入れました。

とても静かな夜、
ともちゃんの他に誰もいない古びた家の中で

パチパチと音を立てながら燃える火を見つめながら

「あの時と何も変わらなかった…」

そう思いました。

お父さんと暮らした家の暖炉の前で
一人ぼっちはいやだと泣いたあの時と
何も変わらなかった

ううん、あの時よりも
もっと、もっと寂しくなった……
ともちゃんは村の人たちに言われた言葉を思い出し
また目に涙を浮かべ始めました。

その時、

テーブルにあったキャンドルの1本の炎が
ボウッと音とたてて大きくなり

ともちゃんが驚いてそのキャンドルに顔を向けると
その炎からまたあの声が聞こえてきました
 
 
「ともえ…ともえ……」
 
 
あの偉大なる魔法使いの声がして
炎の中に魔法使いが姿を現しました。
 
 
「ともえ、お前はここまで来たんだね
 

 お前は誰も来ないあの場で
 誰かが来るのを待つのではなく
 自ら会いに行くことを選び、行動することを選び

 そして今、ここにいるんだね」

 
魔法使いは優しい声で言いました
  
 
その言葉を聞いてともちゃんは
 

「はい。
 でも、私はお友だちと出会うことはできませんでした」

 
そう答えました。
 

「偉大なる魔法使いさまからもらった種も
 植える前に踏み潰されてしまいました」
 
 
そう言うとともちゃんの目からまた
涙がこぼれ落ちました。
 
 
「村の人たちが私に言いました
 私の存在は不吉だと
 私は村の人たちにとって迷惑なんだと…

 そして、
 私みたいなのに
 お友だちなんかできないと言われました。
 
 ひどいことをいっぱい言われました…」
 
もう、その時、ともちゃんの顔は涙でグシャグシャになっていました。

「やっぱり、私みたいな者のお友だちになってくれる人なんて
 いないんじゃないでしょうか?」
 
それを聞いていた魔法使いは
 
「ともえ、まだ決めてはいけないよ。

 お前は気付かなかったかもしれないけれど
 こうなることを導いたのは
 実は、お前自身なんだよ……」

そう静かに言いました。

「お前は村人から「お前なんか…」と
 ひどいことをたくさん言われたと言っているが

 お前もずっと自分のことを
「こんな私なんか」と言っている。
 
 気付いていたかい?
 
 お前は、村に行く前からずっと
 自分自身に「こんな私に」「こんな私なんかに」と
 村人と同じようにひどい言葉を言っていた。

 そして今も、言い続けているんだよ」

ともちゃんは驚いた顔をして
村にたどり着く前、自分が何を思っていたのか
思い出そうとしましたが
ただただ「不安だった」というものだけが残っていて
どんな言葉を思っていたかは忘れてしまっていました。

そう、ともちゃんは村にたどり着く前に
頭の中で何度もこう思っていたのです。

 
「ずっと狭い世界で生きていた私を
 何も知らない、何も持っていない
 なんにも無しの、そんな私に
 お友だちになってもいいよって
 言ってくれる人はいるんだろうか…?」


魔法使いは更に続けました。
 
「お前はあの場を狭い世界と言っていた
 でも、その狭い世界には
 村人も見たことのない美しい景色があったんじゃないのかい?
 
 何も知らない、と言っていたが
 お前は父親のためにたくさんの書物を読んでいただろう?
 
 何も持っていない、なんにも無しというが
 お前はもう既に、たくさんのものを持っている。
 
 その自分をどうしてそんなに貶めるのか?
 
 あの言葉を言った村人たちと同じではないのか?
 
 お前も、あの村人たちと同じく
 自分自身にひどい言葉を言い続けていたのではないのか?
 
 そして、何度も、友ができないのでは?と思っていただろう?
 
 そう思い続けているから
 
 友ができない結果を導き始めている……」

ともちゃんはハッとして

「そんな、
 そんなのは………いやです

 どうしたらいいのでしょうか?
 私は一体、どうしたらいいのでしょうか?」
 
それを聞いて魔法使いは言いました

「お前はもう、既に素晴らしい存在で、
 たくさんのものを与えられ
 そして持っている、と知ることだよ」
 
ともちゃんは魔法使いのその言葉を聞いて
しばらく、うつむいていましたが、



「できません。
 
 偉大なる魔法使いさまにそう言われても
 どうしても、自分を素晴らしい存在と思えないです。
 たくさんのものを持っていると、思えないです。」
 
そう苦しそうに言いました。

「……………そうか」

魔法使いは少し悲しそうな顔をしました
 
「では、そう思えるようになるためには
 どうしたらいいと思う?
 
 お前の中で、そう思わせないようにしている何かがあるはずだよ。

 それは、何なのだろうか?」
 
ともちゃんは、魔法使いに言われて自分自身に問い始めました。
そして

「私は………人の役に立ちたい」

そう言いました。

「そう、人の役に立てる人になりたい。
 私はまだ誰の役にも立ってない。

 だから、私は自分を素晴らしいと思うことができない。
 
 人の役に立つような知識を身につけて
 誰かを助けることができたら
 私も自分自身に自信を持つことができます
 
 自分を素晴らしい存在と思うことができます」

ともちゃんは嬉しそうに言いました。

「そうか。
 では、お前にこの本をやろう」

魔法使いはそう言うと
魔法使いの手に古びたとても分厚い本が現れました

「この本の中にはお前のその望みを叶えるのに
 役に立つことが書かれている
 
 この本をお前にやろう」

そう言って、ともちゃんの両手に本が渡されました。
中を少し見てみると、そこには
ともちゃんが今まで知らなかったようなことが
たくさん書かれていました。

「あ、あ、これは偉大なる魔法使いさまの魔法の書ですね
 すごい、すごい、こんなことも書かれてる
 ありがとうございます!ありがとうございます!!」

ともちゃんはその本をギュッと抱きしめて喜びました。

そして、魔法使いはまた静かに言いました

「お前はその知識を得ながら
 お前のことを誰も知らない場に行くといいだろう
 
 ここから、北に向かいなさい。
 森を2つ抜け、3本の川を渡り、山並みが見えてきたら
 そのふもとに村がある
 ここから大分離れることになるから
 そこには、お前のことを知る者はいない
 
 もちろん、そこに行くか、行かないかを決めるのは
 お前だよ」

そう言うと魔法使いの姿をしていたキャンドルの炎は
ゆらめきながら段々と元の小さな炎になり
部屋はまた薄暗い部屋になっていました。

ともちゃんの腕の中には
魔法使いがくれた「魔法の書」が
しっかりとありました。

「知識を身に付けて、
 偉大なる魔法使いさまが教えてくれた地を目指そう
 
 私が、私にひどい言葉を言わないようにするために
 自分に自信をつけよう
 
 人のお役に立てる自分になれたら
 自分は素晴らしい存在と認めることができる
 
 そうしたら、お友だちも、絶対にできる!!」
 
ともちゃんは何だかとても嬉しくなり
暖かなストーブの前で本のページをめくり始めたのですが
たった1日で色々なことがあって、ひどく疲れていたことに気がつき
魔法の書を両手で抱きしめたまま
新たな旅立ちのために眠りについたのでした。


つづく
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