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ともちゃんと5つの種④

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偉大な魔法使いからもらった5つの種
その一粒を家の庭に埋めたともちゃんは
それから毎日、毎日芽が出るのを楽しみに待ちました。

朝にはたっぷりを水をやり
「今日は芽が出るかしら?」と話しかけ

夜には
「明日は芽が出ますように」と
両手を合わせて祈りました。

毎日、毎日、
「今日は芽が出るかしら?」と
種を埋めた場所を何度も何度も見に行きました。

でも、段々とともちゃんの言葉が
「今日こそは、芽が出るかしら?」
「明日こそは、芽が出てくれますように」となり

そして、
「今日も、芽が出ないのかな…」
「明日も、芽が出ないのかな…」に
変わっていきました。

庭に種を埋めてから何回目かの満月の夜に
ともちゃんは夜空を見上げながら
一人、つぶやきました。

 
「偉大なる魔法使いさま
 種からはまだ芽が出ません。
 もしかしたら、この先も
 芽は出ないかもしれません。

 芽が出ないから
 私のところにお友だちは来ません。
 
 やっぱり、私には
 お友だちはできないのでしょうか……?」

 
そう言ってため息を一つついた時

ともちゃんの耳に
あの、魔法使いの声が聞こえてきました。
 
 
「ともえ…ともえ…」
 
 
ともちゃんはびっくりして辺りを見回しましたが
魔法使いの姿はありません。

再び窓の外を見ると
小さな光の玉が現れていました。

「ともえ
 お前は種を植えたんだね」

魔法使いは静かで優しい声で言いました。

「お前は何もしない、ではなく
 種を植えることを選んだ」

それを聞いてともちゃんは

「はい。
 どうしても、どうしても、
 お友だちがほしかったから…

 でも、偉大なる魔法使いさま
 種からは、芽が、出ませんでした…
 
 やっぱり、私には
 お友だちはできないのでしょうか?」

ともちゃんは先ほど
満月に問いかけた言葉を
もう一度、魔法使いに言いました。
 
そして魔法使いは、
ともちゃんに言いました
 
 
「種を埋めてから
 ここに誰か来ることはあったのかい?
 
 この家に今まで誰か
 来たことはあったのかい?」
 
 
ともちゃんは、首を左右に振りました。
 
 
「ここに人は来ません。

 村の人たちは、この家を、この場所を
 気味が悪いと言って近寄りません。
 
 ここに誰かが来ることは
 きっと、ずっと、ありません」
 
 
ともちゃんが悲しそうに言うと
 
 
「それならば、
 自ら会いに行きなさい」
 
 
魔法使いが言いました。

ともちゃんが驚いた顔をしていると
魔法使いはこう続けました

「ここには誰も来ないと分かっているのなら
 自ら会いに行けばいい

 どうして芽が出なかったか分かるかい?

 ここには、誰も来ないからだよ

 このままここで
 誰かが来るのを待っていたら
 このままずっと
 誰も来ないまま終わるだろう
 
 自分が友という存在を求めていて
 自分が求めている友と出会いたいと言うなら
 
 誰かに自分を見つけてもらうのを待つのではなく

 自ら、人のいる場に行きなさい
 
 自分の求める友と出会うために
 今まで出ることのなかった
 この家から、この場から出るといい
 
 この家に、この場に、
 もう縛られている必要はないんだよ」
  
魔法使いがそう言うと
ともちゃんの目の前の光の玉は
静かに消えていきました。
 
そして完全に消えてしまう間際に
魔法使いはとてもとても静かな声で


「お前は気付いていないかもしれないが
 本当は、ずっと前から
 どこにでも行ける自由の身なんだよ……」


そう言いましたが
その言葉はその時のともちゃんに届きませんでした。
 
 
 
「この家を出て
 この場所を離れて
 人に会いに行く……」
 
 
 
その言葉を聞いたともちゃんは
その時、喜びよりも、不安や恐怖が湧いて出てきました。
 
今まで、
この場所から離れたことがなかった
今まで、
人のいる場所に行ったことがなかった
今まで、
お友だちになってくれる人なんていなかった
 
 
怖い   
 
 
ともちゃんにとって
この家やこの場所から離れるということは
とてつもない恐怖だったのです。
 
 
魔法使いから

「人のいる場に行き
 人に会いに行きなさい」

と言われたものの
その後もともちゃんは何日も、何日も悩み続けました
 
 
ともちゃんが何日も、何日も悩み続けているうちに
いつしか寒かった季節は過ぎ去り
あたたかな季節が訪れようとしていました。
 

そして、まだ肌寒い風が吹きつつも
桜並木のつぼみがふっくらと膨らみ始めたある日の朝
 
 
ともちゃんは
小さな袋に種を入れ
それを肩からかけた鞄に入れて
家の扉を開けました。
 
 
目の前には澄んだ空気の中
東の空から昇る太陽がまぶしく輝いていました。
 
 
 
「私は…
 私は、自ら会いに行く」
 
 
 
ともちゃんはそう言って
朝日に向かって歩き始めたのです。
 
 
そう、
ともちゃんは
村に向かって歩き始めたのでした。

 
  
つづく
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