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ともちゃんと5つの種⑥

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ともちゃんが顔を上げると
目の前には数人の村人がいました。

「おいお前
 お前は西の森の向こうにある
 帰らずの墓地から来たって聞いたぞ」

「お前、まだ生きてる村人を
 そこに連れて行くためにここに来たんだろ!!」

「お前、本当は死神なんだろ!!!」

「この村に住む人たちの命を
 奪いに来たんだろ!!!!!」

ともちゃんはそれを聞いてすぐさま

「違う!違うの!!」

と叫びました

「私は死神なんかじゃない
 命を奪いに来たんじゃない

 私はここに…
 お友だちになってくれる人を探しにきたの!!」

怒りをあらわにした村人たちを前にして
ともちゃんは全身が震えるのを感じましたが
それに耐えながら続けました

「それから、私が住んでいたところは
 不吉な場所なんかじゃない
 
 確かに亡くなった村の人たちが
 たくさん土の下に眠っているけど

 私のお父さんやおじいさんたちは
 その人たちのために沢山の石を集めて
 それを一つ一つ積み上げて弔いのお墓を作ってた
 
 亡くなった人たちの魂がいつまでも安らかであるように
 毎日お祈りを捧げていた

 あそこにはお父さんやおじいさんたちが
 その人のためだけに選んだ石を使って積み上げた
 墓がある場所なの

 あなたたちが何も知らずに不吉だと言って
 近付かなかっただけ
 
 あなたたちに花一輪も供えてもらえない

 そんなご先祖様たちが寂しい思いをしないように
 毎日、毎日、私たちがお花を供えて
 手を合わせていたのよ

 あそこは不吉な場所なんかじゃない
 とっても、とっても神聖な場所なの!!」

ともちゃんは涙を流しながら叫びました。

 
私のことを悪く言うのはいい
でも、あの場所や
お父さんやおじいさんたちがやってきたことを
悪く言うことは我慢できない!!!

 
ともちゃんは
誤解を解くために必死になって言いました

 
なのに…

 
それなのに…
 
 
 
「うるさい!!」

 
 
村人の一人が
ともちゃんの肩をドンっと
強く押してきました
 
 
その時
ともちゃんの手の中から
魔法使いからもらった種がこぼれ落ちたのです

 
「あ、種が!」

 
ともちゃんはすぐに種を拾おうとしましたが

村の人たちに囲まれ
その村の人たちの足で地面が
全く見えなくなりました

そして

「お前の言うことなんて信用できるか!!
 言葉だけならいくらでもキレイゴトが言える」

「お前は絶対に不吉な奴なんだ!!」

「お前はあの不吉な場にとっとと帰れ!!」

「お前みたいなのはここに来るな!!」

「ずっとあの場所から出てくるな!!」

「お前は不吉な存在なんだ!!
 お前はみんなの迷惑なんだ!!」

 
 
「そんな奴の友だちになってくれる人なんて
 いる訳ないじゃないか!!!」
 
 
村の人たちが種の落ちた場所を踏み荒らし
そこにあるだろう種を何度も何度も
踏み潰してしまったのです

その時

ともちゃんの心も
村人たちの言葉に踏み荒らされ
最後にはグシャッと
踏み潰されてしまいました。
 
 
 
「ここから出ていけ!!!!」

 
 
その言葉を聞いて
ともちゃんは村人たちを押し退けて
その場から離れるために走り出しました
 
 
「もう、ここにいちゃいけない
 早く、ここから逃げなきゃ」
 
 
そうしてまたともちゃんは
こぼれる涙も拭うことなく走り出し
もう全身が苦しくて走れなくても
それでもヨロヨロと歩きながら

村から出て
村から離れて行ったのです。 
 
 
そして、ともちゃんは
森にたどりつきました。
 

どの方向に走ったのか分かりません
たどり着いた森がどこの森かも分かりません

ただ気付いた時には
空にはもう太陽はなく夜が訪れようとしていました

   
「どうしよう、知らない森の中で夜になってしまう…」


ともちゃんがそう思った時

ホワホワッととても小さな淡い緑色の光が
目の前をゆらゆらと通り過ぎました

 
「あ…………蛍だ」
 
 
一匹の蛍
小さい時から何度も見たことのある、蛍

この季節にはいるはずのない蛍が
ともちゃんの周りをくるくると飛び回ってから
まるでともちゃんを導くように森の奥へと
ゆっくりと飛んでいったのです。

ともちゃんがその蛍の後を追って森の中に入っていくと

一件の小さな家にたどり着きました。


つづく
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