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ともちゃんと5つの種⑤

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村を目指して歩き始めたともちゃん。

どれくらい歩いたかというと
東の空から昇ってきた太陽が
見上げるほどの高い位置に来るほどの時間を
歩き続けました。
 
最初はまるで道と呼ぶには程遠い
獣道のような道を歩きました。

歩いて行く内に
ようやく人が通るような道に出ました。


「これが、本来、人が通る道なんだ
 私のおうちに通じる道は、
 道とは言えないものだったんだ。
 
 私の住んでいた場所は
 忌み嫌われているだけではなく
 誰も近付くことができないほど、
 閉ざされていた場所だったんだ
 
 私は……そんな場所に……ずっといたんだ……」


そう、ともちゃんは思いました。

そして、段々と他の道も交わるようになり
 

「そんな閉ざされた場でずっと暮らしていた私を
 村の人は受け入れてくれるんだろうか?」

 
そうともちゃんが考えながら歩いていると


やがて行き交う人たちの姿が現れ
村が近いということを教えてくれました。
 

「ずっと狭い世界で生きていた私を
 
 何も知らない、何も持っていない
 なんにも無しの、そんな私に
 お友だちになってもいいよって
 言ってくれる人はいるんだろうか…?」

 
ともちゃんの不安がムクムクと膨れ上がってきたその時
 

ともちゃんは村の入り口にたどり着きました。

 
村に入ると、たくさんの家が並び
今までとは比べ物にならないくらいに
人、人、人が溢れていました

村には今まで見たことがないものが売られているお店も並び
道端で開かれている市場では賑やかな声が交わされていました

初めて見る、たくさんの人
初めて見る、たくさんの家
初めて見る、店や市場に並んだ品物
初めて見る、村の景色

全てがともちゃんにとって初めての場で
ともちゃんは目は輝き出し
興奮しながらキョロキョロと辺りを見回し
村の中を歩き出しました

 
「ここで、どんなお友だちに出会えるのかしら?」

 
先ほどの不安が嘘のように
今度は期待を膨らませながら
ともちゃんが歩いていると

 
ぐうぅぅぅぅ〜〜〜〜っと
 
 
ともちゃんのお腹が鳴りました。

太陽はもうともちゃんの真上にあり

「そっか、もうそんなに時間が経っていたんだ」と
ともちゃんはその時、気が付いたのです。
 
 
カバンの中にはともちゃんが自分で作った
ビスケットが数枚入っていたのですが
 
ともちゃんは村のお店でお昼ごはんを買うことにしました。
 
お店には今までともちゃんが見たこともないものが
たくさん売られていました。

その中でともちゃんは
外までバターの美味しそうな香りがして
入り口にある立て看板に

「当店自慢のクロワッサン
 ただいま焼き上がりました!」

という札のかかった
パン屋に入っていきました

「あの……これを一つください」

そう言って、カバンの中から
今まで使うことのなかったお金を取り出していると
店の女将さんが

「いらっしゃい、毎度あり
 おや?あんた、見かけない顔だね??
 どこの村から来たんだい??」

そう聞いてきたので

「………西から来ました。
 西にある森の向こうから……」

そうともちゃんが言うと、店の女将さんの目が見開きました。

そして、みるみる顔がこわばっていき
悲鳴を上げるような顔で言いました

「西の森の向こうからだって⁈
 その場所にあるのは、
 死んじまう奴だけが行く場所だよ⁈

 あそこは、帰らずの墓地がある場所だ
 
 あんたそこから来たっていうのかい?
 あの、近付いてはいけないという
 不吉な場所から来たっていうかい?」

「そ………そうです
 でも、あそこは
 不吉な場所ではなくて………」

とてもきれいな桜並木や、
蛍がたくさんいる川もあるんです

そう、ともちゃんが言おうしたところで

「帰ってくれ
 あんたに売るものなんて無いよ」

女将さんがぴしゃりと言ってきました。
 
「そして、すぐ、
 この村から出て行ってくれ
 この村に不吉なものを持ち込まないでくれ
 
 何より、ここにあんたがいるだけで、不吉なんだよ!!!!!」
 
女将さんはそう言うとともちゃんを無言で睨みつけ
まるで牙を剥いた狼のような顔をともちゃんに向けてきたのです。

ともちゃんはそのまま何も言えず
ふるふると震える足で後ずさりをし

怯えながら店を出ました。

そして、店を出てから
一目散に走り出しました。

どこに向かうかも
どこに向かっているかも分からないまま
ともちゃんは走りました

走って、走って
胸が苦しくなるほど走って

やがて、小さな噴水にたどり着きました。

喉がカラカラになっていたともちゃんは
そこから湧き出ている水を
両手ですくいゴクゴクと飲み干しました。
 
 
「………怖かった……」
 
 
ともちゃんはその場にぺたんと座り込み
カタカタと震えている自分を両手で抱きしめました。
 
ともちゃんの目からは涙が溢れてきました。

どれくらいそうしていたのか?

ともちゃんは思い出したようにかばんから小さな袋を出し
その中に入っている種を1粒、手のひらに乗せました。

それを見つめながら

「やっぱり、私は
 あの家から、あの場から
 出るべきではなかったんじゃないか?」

そう思いました。

私みたいなのは、ここに来るべきじゃなかったんじゃないか?

私はずっと、あの場所にいれば良かったんじゃないか?

パン屋の女将さんが言ったように
あの場所だけじゃなく
私も、本当に不吉な存在なのかもしれない

そんな、みんなの迷惑になるような私の
お友だちになってくれる人なんていないんじゃないか?
  
 
ここに種を埋めても
きっとまた、芽は出ない…
 
 
そう思った時、
 
 
「おい、お前!!」
 
 
ともちゃんの目の前で大きな声がしました。

 

つづく
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