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現代心理学における現象学的心理学の位置づけについて、そしてACRについて

わたしはセラピーを受けて以来、心理学に関することに興味をもつようになりました。心の仕組みのようなものをたどっていくうちに、意識の哲学である現象学と心を結びつけて考えるのが好きだとわかりました。キャシー天野さんからセラピー(ACR)を学ぶようになり、セラピー全体・心理学全体からみたとき、ACRはどのような位置づけにあるのか、その全体像みたいなものを大まかにでも知りたい思いがでてきました。調べていくうちに、ACR は現象学的心理学の仲間に入るんじゃないかと思うようになりました。以下、その概略です。

■ 現代心理学の3つの潮流

現代心理学の分類の仕方はいくつかありますが、ここでは、大きく「実証的心理学」「深層心理学」「現象学的心理学」の3つに分けることにします。歴史的にみると、20世紀前半は、フロイトの影響のもと「深層心理学」が優勢な立場にありました。しかしながら、20世紀後半になり「深層心理学」の旗色は次第に悪くなっていきました。その理由として、無意識の概念に基づく仮説が検証されなかったこと、治療の精度が必ずしも向上しなかったことなどが挙げられます。

「深層心理学」にとって代わったのが、認知行動療法などに代表される「実証的心理学」です。やはり、科学的なエビデンスが出やすいというのは重要視されるようです。そして、「実証的心理学」に少し遅れて第三の立場として登場したのが「現象学的心理学」です。

■ 実証的心理学と深層心理学に対する批判

「実証的心理学」に対しては、客観性を重視するあまり、クライエントの主観や意味の領域を捨象してしまうこと、また、精神分析を行う「深層心理学」に対しては、検証されない仮説にこだわりすぎており、フロイトの精神分析は過去決定論に陥っていること、などの批判があります。

■ 現象学的心理学の3つの分類

次に、ここでのトピックである、「現象学的心理学」について詳しくみていきたいと思います。現象学的なアプローチによる心理学は大きく3つに分けることができます。①(狭義の)現象学的心理学、②現象学的精神病理学、③現象学的な心理療法です。ちなみに、広義の現象学的心理学はこれら3つの総称です。

・ ① (狭義の)現象学的心理学

(狭義の)現象学的心理学はジオルジなどによる現象学的心理学を意味しますが、その方法はディルタイの記述心理学を受け継いでおり、近年さかんに研究されている質的心理学もほぼこれと同じ方法に基いています。

a)記述心理学:創始者はディルタイやブレンターノ。彼らは、自然科学とは異なる仕方での新しい人間科学(精神科学)の必要性を主張し、心理学はその基礎をなすもので、「人間の主観に現れる意味の領域を記述する」という方法をとりました。これが、フッサール現象学の登場につながっていきます。

b)現象学的心理学:キーンやジオルジといった人がこの立場の代表者。彼らにおいては、フッサールの提唱した「超越論的還元」や「本質観取」という方法がしっかり受けとられているとは言いがたく、ディルタイ、ブレンターノ流の記述心理学の方法とそれほど変わらないという批判があります。

c)質的心理学:最も新しい立場で、近年では看護学などにも応用されています。しかしながら、その基本的な方法はやはり記述心理学的で、「個人の経験の記述」にとどまりがちです。

・ ② 現象学的精神病理学

ヤスパースを先駆として、ミンコフスキーやビンスワンガー、メダルト・ボス、ブランケンブルク、木村敏などがその代表者。彼らの多くはフッサールよりもハイデガーから強い影響を受けており、そのためか、あまり「本質観取」といった言葉を表立っては使いません。ブランケンブルクによる分裂病論、木村敏による分裂病者の時間性の解明など、「本質」分析として高く評価されていますが、科学的・実証的な研究が主流になるにつれ、残念ながら現在は古典となりつつあります。

・ ③ 現象学的な心理療法

この立場は、人間性心理学とも呼ばれています。その特徴は、「どうやったら治るのか」という実践的な態度と、客観主義とは異なり、患者の主観的な意味や価値を重視する点にあります。来談者中心療法(ロジャース)、フォーカシング(ジェンドリン)、ロゴセラピー(フランクル)などが挙げられます。これらは、「自己への気づき」を重視し、クライエントのこれまでの考え方に変化をもたらすことで治療を促そうとします。ここには「自己了解」につながる考え方が示されている点は評価されながらも、「本当の自分」という考え方がやや実体化されて捉えられている点は批判されています。

ACRを上の体系にあてはめるとすれば、「現象学的心理学」の中の  ③ 現象学的な心理療法に入ると思います。たとえば、ロジャースの来談者中心の考え方や、ジェンドリンの言及するフェルトセンスはACRでも取り入れられています。

■ まとめ

「現象学的心理学」の評価すべき点としては、①人間の探求に不可欠な「意味と価値」を主題化したこと(実証科学が切り捨ててきた問題)、②対象となる人物の主観的世界の理解に一定の貢献をしたこと(質的研究、現象学的精神病理学)、③心の病に対して一定の治療成果をあげたこと(人間性心理学)が挙げられます。

しかしながら、「現象学的心理学」は、現象学の創始者であるフッサールの方法論である現象学的還元と本質直観がしっかり汲み取られていないという指摘があります。現象学的還元の考えを用いたセラピーとはどのようなものとして可能なのか、ここがわたしの関心事としてあります。まだまだわからないことばかりなのですが、この点についてACRを題材に、学びながら今後少しずつ書いていきたいと思っています。


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