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Woodberry Wetlands

Hackney区の北の端に位置するStoke Newington East Reservoir (ロンドン市街地へ清潔な水を届けるため17世紀に開設された水路The New Riverから水を引いた貯水池の一つ)が、自然保護地域として整備されてから2年半余り、やっと足を伸ばした。快晴の日曜日は散歩好きの人々で程よい人出、池の西端に位置する小洒落たカフェはほぼ満席だった。

オープニングから2年ではまだ「自然を招こう、保護しよう」という人の手の作為の存在が色濃く感じられる。池の北側には密集する新築の高層マンションが陽を受けて眩しいほどに輝いている。築数十年の古い公営集合住宅と、その一部を再開発して建てられた高級分譲マンション群、その前に広がる自然保護区、次々と飛来する水鳥たち、今のロンドンを象徴するような光景だが、それでも自分の「立つ場所」が今ひとつ明確ではないような、なんとも危ういような、現実味のなさ。不思議な感覚にとらわれる。

池をぐるりと北岸へとまわる。ウェットランドの南側に並ぶ低層の古いテラスハウスは高い堤防に隠れて見えない。岸をめぐる遊歩道もここで行き止まりで、人通りもほぼない。腰を下ろして風に揺れる葦原を眺める。飛び立つ鴨、池に降りるカモメの姿追う。鳥の声に耳をすます。父親と2人で地面に置かれた丸太を起こしては、ダンゴムシだムカデだと虫を集めていた少年と言葉を交わす。

やっと、やっと、ああ、来てよかったな、と思う。

大切なのは「場所」自体ではない、その中に「自分の居場所」を見つけることなのだと思う。

池のほとりに20分も座っていると、それはたくさんの、種々様々な鳥のさえずりが聞こえてくる。なんという鳥が、どの歌を歌っているのか。

鳥の歌を知らぬ寂しさは、街ですれ違う人々の話す言葉を知らぬ寂しさに似ている。

初掲: http://mariemot.tumblr.com/post/183036565431/woodberry-wetlands