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きよしこの夜

クリスマスイブだ。去年までとはずいぶんと違ったクリスマスイブだ。

夕方、少し混み始めたスーパーでお刺身を買った。帰り際にはふと思い立って小さなケーキふたつも買ったが、父は、夕食後「もう、お腹いっぱいや」と手を出さなかった。寂しさなんて特に感じはしないけれど、ああ、違う国におんねんな、違う文化に暮らしてるんやなと、強く、重く感じた。

去年までなら、24日はばたばたと駆け込みで買い物をすませて、ローストディナーを用意し、26日のBoxing Dayまでの3日間、料理らしい料理などしなくていいように準備して、あとはのんべんだらりと過ごしていた。人気の消えたロンドンの街や、半ば凍った運河沿いを散歩したり、キングスのキャロルやロイヤルのくるみをテレビで観たり、編み物などして、自分のためだけの時間がゆっくり過ぎるのをぬくぬくと楽しんでいた。だけど、よく考えてみれば、それってクリスマスの精神 the spirit of Christmas とはかけ離れているような気もする。

入院中の母の快癒を願いながら、認知症の父の相手をしながら、台所に立って味噌汁など作っている方が、よほどクリスマスらしいクリスマスなのかもしれない。