【前編】とあるコスモポリタン
真夜中のカフェは混んでいた。なぜかこれまで客の目を逃れたために私が座れることになった小さなテーブル席には、空席の二脚の椅子が到来するパトロンらにゴマをするように腕をのばしていた。
そのうちの一脚に一人のコスモポリタンが座ったので、アダム亡き後に世界市民と呼べる人類は存在していないという持説を試すときが来たと、私は嬉しくなった。昨今コスモポリタンの名を聞くようになり、手荷物の多くに外国のタグが目につくようになったが、その持ち主を見ても、コスモポリタンではなく旅行者ばかりだ