雄叫びで知るワールドカップ。
13年間住んだサンフランシスコ・ベイエリアのアパートを引払い、先週ロンドンに引っ越してきた。
3月に夫はロンドンに発ち、残った私はいわゆるワンオペをしながら引っ越しの準備をすすめた。持っていく大きな荷物は電子ピアノだけ、と言う身軽な海外引っ越しを目指したため、13年分たまった家具、本、服、子供のおもちゃの断捨離をひとり、黙々とやった。
さらに色々な手続きをし、友人たちと別れを惜しみ・・とやっていたら、心も体もすっかり消耗疲労してしまい、軽い引っ越し鬱と疲れた体を引きずったままロンドンにやってきてしまった。
今だに時差ぼけもなおらないし、仮住まいのAirbnbのベッドも硬くて体の痛みで目が覚める。言葉が通じることと天気が良いことが救いだが、引きずってきたひとり3つずつのスーツケースもまだ開ける気がせず、詰め込まれた下着や服をスーツケースの隙間から引っ張り出しては着替え、毎日洗濯をしてやり過ごすなど、全てに(仮)がついた生活が続いている。
仮住まいは古くて狭いビクトリア式のタウンハウスの2階にある。家具も調度品も古く、今はもう無い祖父母宅の応接間のような匂いがする。台所にある洗濯機を回し、廊下とも何ともつかないところに置いてあるダイニングテーブルで食事をする。
10メートル先には高架があり15分ごとに電車が走る。窓の外には近所の人の洗濯物がはためき、夕方には子供の泣く声もする。と思えば裏の建物はスタジオになっているらしく、ファッション誌か何かの撮影をしているのが見えることもある。
だだ広いカリフォルニアから、全てがぎゅっと詰まったロンドンへ。そんなまとまりのない風景をぼんやり見つめながら、仮の生活を過ごしている。
古いこの家にはネットはあるがテレビが無いので、ワールドカップの試合もまだ一つも見れていない。が、イングランド戦となると近所のパブでは大音量で試合中継を流している。通りすぎるだけでものすごい歓声が聞こえてくる。
古い家の割には建て付けがよく、あまり階下の住人の生活音も聞こえてこないこの仮住まいでも、対チュニジア戦では階下のワカモノが「ウオーファックイェーー★◎☓▲※!!!」と建物中に響く雄叫びをあげるのを聞きながら勝利の瞬間を確信した。
どうやら友人ふたりと自宅で観戦していたらしい。試合終了後も、おそらくテレビがファインプレーを何度も放送しているのだろう、喜びの咆哮はその後もしばらく続いた。
そして階下の野郎どもふたりはある意味牧歌的で可愛らしくも聞こえるイングランドの応援歌をかけて声を合わせて歌い、その流れでなぜか80年代前半のヒットソングも歌い始めた。
これが平日の夜中中続くのだろうかと微笑ましくも少しげんなりしたところで、このふたりは部屋から出ていき、車がようやく1台通れる狭い路上に踊りでて、携帯を片手にくるくる回り踊りながら、9時を過ぎてもまだ明るい街へと消えていった。
おそらくパブに飲みにでも出たのだろうか。小窓から見えるふたりのワカモノはそれはそれは幸せそうであった。
昨日のイングランドはパナマ相手に6点を叩き出し決勝進出を決めた。博物館の学芸員同士でさえその話をしているのが耳に入って知った。しばらくはこんな感じで結果を知ることになりそうだ。
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