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「初夏を聴く」#シロクマ文芸部


初夏を聴く季節が今年もやってきました。

あたしにとっての初夏の音とは蛍だ。そう!あのお尻が柔らかく光る、黒い虫です。

えっ、蛍は鳴かないって。もちろん、彼らは鳴きません。ただ静かに、重力に逆らうかのように宙を漂っています。

でも、幼馴染みのハルトには蛍の声が聞こえるんです。

「アキネ、耳をすませてごらん。ねっ、蛍の声の波動を感じない?」

ハルトの声に促されるように、目を閉じる。夕暮れの風を頬に感じる。この暗闇の世界がハルトの生きる世界だ。

ハルトは目が見えません。小学生の時、交通事故にあって失明しました。光も感じない、真っ暗な世界に住んでいます。

でも、光を失うことで、ハルトは波動を聴くことができるようになりました。

あらゆるモノが動くと波動、波が起こるし、そんな小さな揺らぎを感じて、音として聴くことができるハルトは、「どこに目をつけてんのよ!」と、怒鳴りたくなるような奴よりずっと世界が、世界の真理が見えています。

ただ、厄介なのは、あたしの心の揺らぎまで見えちゃうことです。

ヤバい!あたしのドキドキと蛍の光の点滅がシンクロしてきて、とうとう、あたしのドキドキの方が速くなっちゃった。

「アキネ、初夏の声が聴こえる?まるであのおせっかいなてんとう虫みたいに、蛍たちが囃し立ててるね」

そう言って、そっとハルトは触れました。



小牧さん、今回も素敵な企画をありがとうございます。