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「消えた鍵」#シロクマ文芸部


「消えた鍵を探してくれって?」

あ~あ、比呂志ひろしの奴、そんな露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいのに。でも、探しものが苦手なあたし、幼なじみのこいつに頼るしかないんだよなぁ。

「そう、消えた鍵をいっしょに探してほしいんよ」

咲桜さくら、消えた鍵じゃなくって失くした鍵とちゃうん?微妙に日本語の使い方が自分勝手なんだけど~」

「なによ~、そりゃあ、あたしはよくモノを失くすし、探しものは苦手だし。でも今回は本当に消えたんだって~」

「はいはい、で?咲桜、消えた鍵って?」


「えっ?咲桜の探してる消えた鍵って、あのドラえもんの『どこでもドア』の鍵?」

「うん、そうよ!なによ、その胡散臭そうな顔は、比呂志。あたしがこれまで、嘘ついたことある?」

「嘘はつかないけど、咲桜、お前の突拍子もない冗談に、これまで振り回されてきた俺だもん。疑り深くもなるよ」

「テヘ。でも、今回は本当。遥か昔、たしか戦国時代だったかな。あたしのご先祖さまのもとにドラえもんがやってきて、『どこでもドア』の鍵をくれたんだって」

「ドラえもん、戦国時代。ますます胡散臭くねぇ?」

「それでね、明智光秀に襲われた織田信長を『どこでもドア』を潜って、本能寺から助け出したんよ、あたしのご先祖さま」

「おい、ますます胡散臭くなってきた」

「いい加減信じてよ~、比呂志。ドラえもんから世界を救う"使命"を授けられたあたしの一族、これまで歴史の陰で世界の安寧を守ってきたんよ」

「『どこでもドア』を使ってか?咲桜はその大切な鍵が消えたって言うのか?」

「そうよ!今こそ、世界中で起きてる戦争や紛争を止めさせるために『どこでもドア』を使って、世界を救わなくちゃ!」


「世界を救うかぁ~。なぁ、咲桜、やっぱりその鍵は失くしたんじゃなくて、自ら消えた気がする」

「えっ?」

「ドラえもんが願っていた世界って、こんな争いばかりの世の中だったのかな。本当は、人間どうしが手を取り合って、もっと地球を大切にして欲しかったんじゃないかな。このまま人間が生き続けたら、この地球はダメになる。だから、救う価値のなくなった人間の元から『どこでもドア』の鍵は消えたんだ」

「そんなぁ。じゃあ、あたしたち人間、これからどうすればいいの!もう世界を救う鍵は消えちゃったのよ!」

「咲桜。鍵は消えても、まだ、俺たちがいるじゃないか。これまでずっと、咲桜の一族が守ってきてくれたこの地球、これからは自分事として、この地球を守るためにもっと努力しなくちゃ!」

「この地球を守る鍵は、人を、自然を、この地球で暮らすすべての存在を思いやる心かもしれないね!」

「よし!じゃあ、先ずは何からはじめる?」

おわり



小牧さん、今回も楽しい企画に参加させていただきました。
いつもありがとうございます。