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ネクストファーマーズ番外編ースーパーイエバエのポテンシャル

12月16日、世界唯一のスーパーイエバエを持つベンチャー・ムスカ開催の「サスティナブルフード試食会」に参加させてもらった。会場には新聞、テレビなどなど大手メディアがたくさん来ていて超満員。その熱気に驚いた。

場違い感がある僕がその場にいた理由は、今年、ムスカ創業者の串間充崇さんと現CEOの流郷綾乃さんの取材をさせてもらったからだ。

ハエと一緒に苦節20年! 環境を救う新しい技術/ムスカ 会長(創業者) 串間充崇(週刊東洋経済)
アロマテラピストからCEOに。異色のシングルマザーの「仕事を選ぶ基準」/流郷綾乃(NewsPicks)

この取材を通して知ったふたりの映画のような人生は記事を読んでいただくとして、ムスカのスーパーイエバエの能力は、本当に驚異的だ。日本では家畜の排泄物や食品残渣(ざんさ)(食品ゴミ)などの有機廃棄物が年間1億トン発生している。この有機廃棄物をたい肥化する事業が各地で行われているが、通常はたい肥になるまでに2、3か月かかる。

ところが、ロシアと日本で1950年代から半世紀、1200世代の選別交配を行って特別な能力を備えたムスカのスーパーイエバエの幼虫は、これを1週間で食べつくす。ムスカは、そのフンを回収して有機肥料にして、丸々と太った幼虫は乾燥させて飼料にする。このイエバエは、有機廃棄物の高速処理、肥料化、飼料化という三役を果たすのだ。

左が肥料、右が飼料

しかも!スーパーイエバエはフードファイターばりに食欲旺盛なだけでなく、ボディもスーパーで、肥料になれば植物が強く逞しく育ち、飼料を食べた動物たちは大きくおいしく成長する、と聞いていた。その効果は大学の研究でも明らかにされている。

…とはいえ、ムスカの関係者以外は実際にイエバエの肥料、飼料で育てた植物や動物を見たことも、食べたこともないないという人がほとんど。

ということで、今回のサスティナブルフード試食会は、ムスカの肥料、飼料を実際に使っている生産者が登壇し、その人たちが作ったものを実際に食べてみましょう!という会だった。

以下、登壇者のコメント。

石坂村地鶏牧場 中村さん(ビデオメッセージ)
ムスカの飼料はほかの飼料と比べて食いつきがいい。通常の飼料だけを食べる場合と比べると生後3ヶ月ぐらいで体格に差が出てきて、出荷段階で500グラムほど大きくなる。鳥の味も美味しくなる。


米 祝子農園 松田さん
もともと化学肥料、農薬たっぷり使ってたが、無農薬、有機栽培に変えた。
数年前、田んぼ一枚に対してムスカの肥料20キロを使った。土がドロドロになり、雑草が生えなくなった。さらに稲の病気が減り、収量が上がり、味も良くなった。今はすべての田んぼでムスカの肥料を使っている。

イチゴ 遊士屋 宮澤さん
ほかの肥料と比べて、使い勝手に遜色ない。いちごは病気と虫に弱い。ムスカの肥料を使い始めたばかりだから効果を断言はできないが、もとの土にムスカの肥料をすきこんだら、その一列だけはまだ病気が出てない。

元キューピー研究所 白木原さん
野菜の病気の90%は土壌菌。ムスカの肥料のなかには恐らく土壌菌に対抗する酵素が残ってる。だからどんな野菜でも早く成長するし、病気が出にくい。

4人の言葉からは、ムスカの肥料、飼料が持つ効果の実感と信頼がうかがえた。

この後、実際の試食タイムで、中村さんのチキン、松田さんの米で作ったミニお握り、宮澤さんのイチゴ、白木原さんのトマトやキュウリが出てきた。

イチゴは収穫時期が早くまだ熟しておらず、トマトやキュウリは夏野菜だから本来の味ではないという前置きがあったけど、正直、どれも味がハッキリしていて、確かに美味しかった。会場の参加者からもあちこちで「美味しい」という声があがっていた。

でも、味の捉え方は千差万別。生産者にとって重要なのはやはり、その効果だろう。

ムスカ主催のイベントなので、効果を実感している生産者が登場するのは当前ながら、肥料としても飼料としても、病気に強くなり、収量が上がるというのはどの生産者にとっても魅力的な話だ。この肥料、飼料を使ってみたいという生産者も多いだろう。

世界的に見れば、人口増加で食料危機が訪れると言われている。有機廃棄物は世界中どこにでもあるのだから、土地が痩せている地域にもムスカの肥料で作物が育つ可能性があるし、飼料に使われる魚粉の不足が確実視されてるなかで、魚粉に替わってムスカの飼料が貴重なタンパク源になる可能性もある。

僕は、農業の取材を始めてから農業のポテンシャルの大きさを知った。ムスカの取り組みは、農業の進化をさらに加速させるかもしれない。引き続き、ムスカを追っていきたい。

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